第25話 夏休み編/修行4
SIGN 序章
第25話 夏休み編/修行4
茜は霊気を測る陣から少し離れた物置のような場所へ皆を誘導した。
「続いて霊力値を計測する…。
霊力とは先にも言うたが、霊気を使うのに必要な力じゃ…。
いかに強大な力を持とうとも、霊力値が少なければ力は持続できぬし使用限度もすぐに来てしまう。
まぁ細かいことは修行の際に説明しようかの…」
ゴソゴソと物置から何かを探す茜。
「あったあった…計測にはこいつを使う」
壷ほどの大きさのお椀だ。
見ると何やら文字らしきものが書かれた札がお椀の至る所に張られている。
「この椀は特殊な呪術の札で、椀の中に霊力を溜めれるようになっておる。
ここに己の霊力を込めるようにイメージしながら集中すればそれでよい。
少しでも霊感があれば、この中の霊力は可視化されるから目に見えるじゃろう」
ホレっと優にお椀を渡した。
「優よ…やってみせておやり」
「うん。じゃあ皆見ててね。
お椀を両手でこうして持って、意識を集中するの。
さっきの霊気を測る時とは別の要領だからね。
これはこの椀に、注ぎ込むようなイメージをもってやればいいから」
優は集中した。
するとお椀の底から何かゆらゆらと淡い光があふれ出した。
「はぁ…ッ!」
優は全ての力を注ぎ込むように力を込める。
「…ふぅ…。こんなものかしらね」
お椀の三分の一ほど淡い光に満たされている。
「ほう…。優…やはり以前霊力の底の底をついただけはあるの…。
以前より大幅に霊力値が上昇しておる」
「そうみたいね…。自分でもびっくりなんですけど…。
えーっと…420…ってとこかな?」
「なんですの?その数値は?」
司がお椀を覗き込んだ。
「中に目盛りがふってあるのよ。
さっきの霊気を測った時と一緒!
解りやすいように数値化してるのよ」
「見る限り全部で1000目盛りしかないわね…?」
「まぁ大きさが大きさだから仕方ないわ。
まだ余力があればまだお椀があるから、そっちでやればいいし」
それにしても420か…。
自分でも驚きだわ…以前は200前後しかなかったのに。
5年くらい前だろうか…
お祖母ちゃんやお母さんが一度お椀を一杯にしてたのを覚えてる。
この調子だと二人追いつくのも遠くないかも!
「じゃあ私が次行ってもよろしくって?」
司は優の持っていた椀を受け取った。
「…これ、優のが入ってるのはどうするの?」
司はお椀を斜めにして霊力を地面に零そうとした。
「ちょっ!何するのよ!?」
「何するのって…あなたのが入ってたら計測できないじゃない」
だからって私の一日の霊力をそんな無駄にするような真似を…!
「司ちゃん。椀はまだいくつもあるから心配せんでえぇ…。
その霊力は後で各自のために有効利用するんじゃからのう…」
「そ、そうなの…わかりましたわ」
司は茜にお椀を渡した。
茜は優の霊力の入ったお椀に蓋をして、優の名前を書いた。
どうやら本当に後で使うようである。
「ほれ…司ちゃん。やってみるがよい」
司は茜からお椀を受け取ると、集中を始めた。
「注ぐように…注ぐように……」
すると先ほどと同じように淡い光が浮き出てくる。
「…え?」
司は自分で自分の眼を疑った。
チョロチョロっと出て、すぐに終わってしまったのだ。
「う、嘘でしょ!?ふんぬぅーー!」
気合を入れて見るものの、変化は無いようだ。
「ふむ…105…それでもすごいもんじゃよ」
「そ、そんな事言われても…この子が凄かったからよくわかりませんわっ!」
正直霊力に関しては自分でもよくわかっていない。
今まで霊力を意識して使ったことといえば、肉体強化に、簡易治癒術ぐらい…。
司といえば守護霊壁を広範囲に発動して何時間も持続してたって聞いたけど…
単純計算で言えば、私が同じ事をすれば司の4倍持続力があるってことになるわね…。
「次は僕がいいですか?」
天城君か…。
さっき霊気を計測した時のイメージがあるから、皆も期待してる感じね。
でも
"霊気が強い=霊力が多い"
この方程式は必ずしも成立はしない。
霊力もその人の素質による所はあるけど、基本的には出発点はどの人も大体同じ。
あとは、より多く使い込み…霊と接しないことには霊力の成長はない。
天城君は内に力を秘めてはいたが、実際力が解放したのはごく最近。
経験値を積んだといっても数回程度。
そこまでは行かないはず…。
「注ぐイメージ…ですね…!はぁ…っ!」
チョロ…
淡い光がチョロチョロと溢れてきた程度だ。
「…っと…
どうやらこんなものです…20…か」
やっぱりか。
「そんな悲観する事ないわよ。皆も似たり寄ったりだと思うから」
「なに?自分は別格とでも言いたいの!?
見てなさい!絶対追い抜いてやるんだからッ!」
別にそんなつもりで言ったんじゃないんだけどな…。
「僕も頑張って優さんに追いつきます!」
はは…皆燃えてるなぁ。
その後に瀬那稔、日下部新二、岡島大樹、片桐亮の順に4人が行った。
結果は似たり寄ったり。
瀬那稔は25…天城勇とそれほど変わらずといったところである。
日下部新二は、元々まだ殻を破っていないので反応することもなく0。
驚きは岡島大樹だった。
「ふぉおおおおッ!」
声裏返ってるし…。
「って…ええ!?」
「こ、これって…どうなんだ?」
皆は驚きの表情をした。
結果は56…。
数値だけ見れば、さほど驚くことはないが殻を破ってほとんど時間も経ってないのにあの数値…。
素質があるのだろうか。
最後の片桐亮は至って普通17だった。
「ぱっとしない…何もかもぱっとしない…」
少しいじけてるようにも見えたけど、触ると怪我しそうだったのでみんなそっとしておいた。
「おいガキ!先にやってやんな!」
神楽由良葉…
狐の霊魂と自ら体を共有する小学生。
彼自身の力はまだ未成熟といった感じだけど、
"銀"が表に出た時の力強さはこの中にいる誰よりも群を抜いて強い。
恐らく朔夜同様、精霊の位に達している霊なんだ。
「和馬兄ほんっと口悪いよね!エロいし!
そんなんだから葵姉ちゃんに愛想つかされるんだよ!」
「な…!?てめぇ!誰が愛想つかされたって!?」
「…」
茜が和馬を睨みつけ無言のプレッシャーを与える。
「な、なんでもないっす…。
(ち…!あとでぜってぇシメる!)」
どうやら茜の拳骨が恐ろしいようだ。
「それじゃあ行くよ!」
由良葉がお椀を手にし、集中を始めた。
ドクドクッ!
一気に光があふれ出る!
「わぁ…すご…!お姉ちゃんよりすごいかも…590だ!」
無邪気にはしゃぐ由良葉。
590って…この子の素質によるもの…?
それともそこまでの経験を積んでるのかしら…?
もしくは狐の霊と体を共有してることが関係しているのかしら?
「銀はどうする?…いいの?…そっか」
「由良葉君、銀はなんて言ってたの?」
「自分はやっても同じだって。
なんかオイラと一緒になったことで霊力の幅は同化しちゃったんだってさ」
なるほど…。
残るは朔夜…じゃなかった。
今はふわもこアザラシのシロちゃんだったね。
それと石動和馬…。
この人は何だかんだで凄いから、どれほどか楽しみだわ。
「じゃあわらわの力も見せようかの」
ちょこちょことお椀まで這って行く姿がなんとも可愛らしい。
「よっと…とくと見よ…!」
由良葉同様にあふれ出てくる光。
「どうじゃどうじゃ!わらわは小さいから見えぬ!
司!みておくれ!司!」
「はいはい…。今見てあげますわ。
!……やっぱり凄いわね…510ですわ」
「む!それではそっちの小童に負けておるではないか!
解せん!もう一回やらせろ!」
「はいはい!もういいでしょ!」
司はシロを拾い上げて抱きしめた。
「は、放せっ!むきゅう!」
「最後はあなたよ」
「わーってんよ…かったるい」
和馬がお椀に手を添えて集中を始めた。
チョロ…。
反応は由良葉やシロのように噴出す感じではない。
「…まぁこんなもんだろ」
「180…?」
優は意外そうな顔で和馬を見た。
「んだよ?こんなもんだよ普通。
おめぇがそんだけ特別だってこと。
これで自覚できたか?よかったな」
そう…なんだろうか?
「そういえば、お祖母ちゃんはやらないの?」
「私か…そうじゃな。やっておくか」
は…!しまったかも…。
お祖母ちゃんに何があったのかわかんないけど…以前に比べて力を失っている。
きっと、これをやれば弱体化が顕著にわかってしまう。
だから一番手でやらずに私に回したんだ。
それを私ったら…。
ポン
「気にすることはないぞ優…」
茜は優の頭をポンと撫でてお椀に手を回した。
「お祖母ちゃん…ごめん」
「はっ!」
茜が気合を入れるとお椀に光が溢れてきた。
「ふぅ……まぁこんなもんじゃろ…」
「305…」
やっぱり凄く弱まってるんだ…力が。
「優!あなたなんて顔してるの?
お祖母様すごいじゃない!」
「あ…え、ええ!そうね!流石おばあちゃん!」
って、お祖母ちゃんより霊力のある私が言ったら嫌味か。
「まぁとりあえず皆の力量がわかったの。
これを元に修行内容も検討しようかの…。という事で今日の修行はここまでじゃ」
「でもお祖母ちゃん、まだ昼ちょっと過ぎたぐらいよ?」
「霊力を根こそぎ使ったんじゃ。霊術の修行はできんじゃろ。
私は私で今後の計画を練らねばならんし…まぁ初日という事でのんびりするがよいさ」
確かに霊力は今空になっちゃったからね…。
霊力の回復には睡眠が一番効果的。
といっても昼寝程度じゃ全快は無理だけどね。
「まぁ各自好きにやるってのでいいんじゃないですかね?」
「ですわね。
きっと明日から厳しい修行なんでしょ?
今のうちに宿題でも片付けておくかしらね」
そうだった。
宿題もあるの忘れてたな…。
各自、修行する者もあれば、昼寝する者…宿題する者様々だ。
「私も宿題するか…」
霊力値の結果―――
神楽由良葉(銀) 霊力値 590
神楽由良葉 霊力値 590
シロ(朔夜) 霊力値 510
白凪優 霊力値 420
白凪茜 霊力値 305
石動和馬 霊力値 180
夕見司 霊力値 105
岡島大樹 霊力値 56
瀬那稔 霊力値 25
天城勇 霊力値 20
片桐亮 霊力値 17
日下部新二 霊力値 0
第25話 完 NEXT SIGN…