第24話 夏休み編/修行3
SIGN 序章
第24話 夏休み編/修行3
優は陣の端にある小さな円に手を置いて集中を始めた。
司め…見てなさい!
「はっ!!」
優は気合を入れた。
勢い良く札が立ち上がっていく。
「どうだ…ッ!」
「…55枚…ですね。
夕見さんより2枚ほど少ないです…」
天城勇が最後の札の数を見て教えてくれた。
霊気値が550って所か…。
まさかこの子(司)に負けてたなんてね…。
「ふふ…優、そんなに落ち込まなくてもよくってよ?
いずれはこうなる運命だったのよ」
「言ってなさいっての!ふん!」
正直悔しい思いだ。
自分がこの面子の中で飛びぬけてすごいとは思っていなかったけど、
この子には負けてない自身があっただけに…なんともはや。
まぁ勝ち誇るのも今のうちよ…!
見てなさい!この修行期間中に絶対に抜いてやる…ッ!
「じゃあ…次は僕が行ってもいいですか…?」
勇が優に変わって円の前に立った。
「緊張するなぁ…」
「大丈夫!いつも通り、精神統一するイメージでやればいいから」
優のアドバイスを笑顔で受け取ると、真剣な顔つきをして円に手をついた。
「ふぅ……」
この子の霊気…今までも幾度となく感じてきたけど、
実際どの程度の力なんだろう。
恐らく私や司よりも上…。
「ハッ!!」
勇が気合を入れた瞬間!勢い良く次々と札が立ち上がっていく!
「すごい…」
「ほう…あのマゾガキ…中々じゃねぇか」
司も和馬も驚いているようだ。
「見てみるわ…」
優は札の最後尾を確認しにいった。
「102…すごい…約1020ってことね…」
私の倍近くの力ってこと…?
天城君と私に…こんなにも差があったっていうの…?
「いやはや…自分でも驚きです…」
「体力・霊気の強さ…どれをとってもこの面子の中で群を抜いておる…。
あとは技術さえ学べばとんでもない祓い師になれるのう」
でも、こうしてみるとお祖母ちゃんが2000ちょっとっていうのも変な感じがするな。
どういうことなんだろう…?
「あの小僧…何か違和感を感じぬか?」
「どういうことです?シロ。天城君に違和感?」
「いや…気のせいじゃ…。
それよりも、この遊び…わらわにもやらせてくれぬか?司」
「優…いい?」
妖魔になりかけた水面の霊の集合体…朔夜。
あんなふわもこの姿になって、力のほとんどは封じられたにしろ、
元々は凄まじい霊気の持ち主だったわけだ…。
一体どれほどの力を持ってるのか興味はあるわね。
「いいわよ。やってみれば?」
「ふふ!見ておれ、弱き人間ども…わらわとの格の違いを思い知るがよい」
「あんな事いっても、あのナリじゃなんか迫力に欠けるな」
和馬の言うことは最もである。
見た目は可愛いあざらしのぬいぐるみだからね…。
「ではゆくぞ!ほれッ!」
ザザザッ!!
今までになく一気に札がざわめきだった。
「ふふふ…随分と力は失ってしまったが…。
まぁこんなものじゃろて…」
「…512…すごい……」
私はこんな奴に勝ったっていうの…?
といっても遊ばれてただけか…実際最初から本気で相手をされたら…。
私達なんか全員掛かりでも1分ももたないでしょうね…。
これが精霊レベル…。
でも、ますますおかしいわね…お祖母ちゃん…昔何度か妖魔とやりあったって言ってたけど。
「ガキ…ちょっとツラかせ」
茜をちらちら見る司に気づいた和馬は優を皆から少し離れた場所に連れて行った。
「なによ!?」
「バァさんに…違和感覚えてるんだろ?」
「…あなたも気づいてたの?」
「なんつうか…。
俺がお前に謝るのも変かもしれないが…悪かったな…。
バァさんの霊気が極端に落ち込んじまったのは俺達のせいなんだ…」
「どういう意味よ…」
和馬に問いただそうとしたその時だった。
「二人とも何をしておる?」
二人の背後に茜が立っていた。
「お祖母ちゃん…どういうことなの?」
「バァさん…」
二人の表情を見て全てを察した茜はため息を一つ落として言った。
「和馬よ…いいのだ。その件はもう終わったこと…。
優にもいずれ話す…」
そういうと二人の背中を押し、元の場所へ戻った。
『今は聞くな』
つまりそういう事なんだと、この場で問い詰めるのはやめた。
でもやっぱりそうなんだ。
お祖母ちゃん…力が弱まったんだ…。
「あ、優さん!」
「ん?どうしたの?」
「今、瀬那先輩がやってみたんですけど、11枚でしたよ!」
「はは…やっぱ俺まだまだみたいッスね…」
「瀬那…稔……まさかこうしてお前と絡むとはな」
片桐がぬっと瀬那の隣に来て話し出した。
「俺も同意見。
片桐……俺とあんた…それに須藤と…"不破"…
朝霞中四天王って呼ばれてた頃を思い出すな…」
「あなた達昔馴染みだったのね〜…でもやっぱ瀬那先輩って悪だったのね。
なんとなくそんな気がしてたけど」
「いやいや…からかわないでください…。
俺はもう…そういうの止めましたから」
しかし、悪の道からオカルトへの転向って…どういった心境の変化なのか興味はあるけど…。
これもまた今度かしらね。
「次は俺がやらせてもらう」
片桐亮…霊媒体質の持ち主か。
見た感じパッとした力は感じないから…まぁ瀬那先輩とどっこいどっこいといった感じかな。
「…9…だと…?」
「はは…まぁそんなもんだよ」
まぁ想定内だわ。
続けて日下部新二が挑戦するも、結果は1枚も立たなかった。
つまり0。
岡島大樹は15枚と大健闘。
もしかしたら素質があるのかもしれない。
「これで私達は一通り終わったわね。
あなた達はやらないの?」
「あぁ!?つぅかやらないといけねぇの?」
「うむ。先輩じゃろう…力を見せてやればよい」
「バァさん……しらねぇぞ…」
石動和馬がだるそうに手をついた。
「ちっ…どうにでもなれだ」
和馬が気合を入れると札が一斉に立ち上がった。
「すごい…!!これって…」
「あのハゲ…なかなかやるではないか…。
お主等小童より、あのハゲと遊びたかったぞ」
327枚…。
お祖母ちゃんの223枚を軽く抜いちゃった。
この人口だけじゃないんだ。
「おいバァさん!見せるついでだ!
このガキもいいよな?」
「…!」
「…由良葉どうする?…嫌なら止めればよい…。お主が決めろ」
由良葉は一瞬戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべた。
「オイラやってみる!
皆はいい人だ…だから大丈夫だよ。ばぁちゃん」
そういうと由良葉は円に手をついた。
「いくよっ!まずは"オイラ"からだ!」
由良葉は気合を入れた。
同時に次々と札が立っていく。
「…これって…」
23枚…?
予想外だ…。
この子は何か特別で、隠された力でもあるのかと…正直期待してたんだけど。
「やっぱ…オイラの力はまだこんなもんだ…。
"銀"今度は君の力を見せる番だよ」
由良葉は独り言をぶつぶつといっているようだ。
「ばぁちゃん。いくよ!」
「あぁ」
いくって…何?
何をする気なの?
「はっ!!」
由良葉が気合を入れた瞬間。
霊感のある者は体に異変をきたした。
ある者は震え、あるものは冷や汗を流した。
「ふぅ……全く…。
無駄な戯れにつき合わせてくれるな…由良葉」
「誰…?」
目の前に立っているのは間違いなく神楽由良葉だ。
少なくとも姿かたちは。
だが、それは明らかに彼ではなく別人の気配。
「ワシは銀…由良葉と体を共存する白狐の霊魂だ」
白狐…
なるほど…白髪に獣の耳に尻尾…納得だ。
「この子にとり憑いてどうしようっていうの?」
対面してるだけで震えが来る感覚…朔夜を目の前にしているようだ。
「そう警戒しなくていい…。
ワシは由良葉の友人…敵ではない」
「銀の言う事は本当じゃよ優…二人は納得してそうしておる」
一体どういう経緯でそうなったのよ!
もう謎ばっかりじゃない!
「まぁこうして出てきたのじゃ…戯れに参加してみようか」
そういうと地面の円にそっと手をついた。
「霊気を発するぐらいなら…お前の体にも影響はなかろう?由良葉。
うむ。そうか」
対話…できているのか…。
体内で…。
なんとも奇妙な光景だ…。
「では少しばかり力を発しようか…はっ!!」
ビリッビリッ!!
凄まじい波動だ!
少しでも霊感がある者は由良葉の体からほとばしる光の波動が見えていた。
「こんなものか…もうよいか?」
そこに居る全員はその力に…絶句していた。
枚数にして1050枚…。
霊気値10500…圧倒的である。
「それでは由良葉の友人ら…また会う日まで…」
そういうと耳や尻尾が消え、髪の色も元に戻っていった。
「…皆…ごめん…怖かった?」
一同は唖然としている。
「…だよね…」
由良葉は俯いてしまった。
自分でもこうなることが怖かったようだ。
タッ!
かと思うと一人が飛び出していた。
ギューーッ!
「ほぇ!?」
「か、かわいいいい!!きゃーなんて可愛い子なの!
由良葉ちゃん可愛い!」
司だった。
可愛いもの好きの司らしい行動だ。
でも、由良葉にとってどんなに救いだったろうか。
いつもは生意気だけど、やっぱいい奴ではあるんだよね。
あの子…。
「お、おねぇちゃん!苦しいよぉ!」
「く…クソガキッ!!…なんて羨ましい!あ、当って…くっそぉ!!
はっ…!?」
必死に羨ましがる和馬を瀬那は軽蔑のまなざしで見つめていた。
「な、なんでもねぇよ!…けっ!」
はは…。
この個性的な仲間達と修行するんだよね…このひと月…。
誰も脱落しないで最後までやりぬきたいな…。
霊気値はこのような結果になった。
神楽由良葉(銀) 1050枚・霊気値10500
シロ(朔夜) 512枚・霊気値 5120
石動和馬 327枚・霊気値 3270
白凪茜 223枚・霊気値 2230
天城勇 102枚・霊気値 1020
夕見司 57枚・霊気値 570
白凪優 55枚・霊気値 550
神楽由良葉 23枚・霊気値 230
岡島大樹 15枚・霊気値 150
瀬那稔 11枚・霊気値 110
片桐亮 9枚・霊気値 90
日下部新二 0枚・霊気値 0
「よし…では続いて霊力を測るとするかのぅ」
第24話 完 NEXT SIGN…