第22話 夏休み編/修行1
SIGN 序章
第22話 夏休み編/修行1
「…うぅ…ん…」
体が重い…。
7月26日(日)…AM8:32…か。
昨日の一件のあと須藤先輩はすぐに意識を失って倒れた。
疲労と傷と多量の出血が原因だった。
すぐに石動和馬が治癒術で怪我は治したが、流れ出た血はどうにもならず、すぐに救急車を呼んだ。
正直危ない所だったが、なんとか一命は取り留めたようだ。
あそこまで無茶出来るって…愛の力ってすごいんだな…って普通に感心してしまった。
私も大切な人のためなら、あんなに頑張れるのかな…。
そうそう。
かく言う私も病院から帰宅後、すぐにバタンキューだったみたい。
そこからの記憶がないもの。
やっぱ寝てなかったし、色々と疲れが溜まってたのね。
「さてと…とりあえず朝ご飯食べよう…お腹空いた…」
優は居間へ向かった。
―――
――
「あ、おはようございます。お邪魔してます」
!!
「な…なんで!?」
なんで天城君がいるのよ!?
天城勇が目のまで寛いでいる。
どうやら、修行をやる気満々のようだ。
「あ、優おはようー!もう体いいの?」
「お、お、お姉ちゃん!!
もう体いいの?…じゃないわよ!なんで勝手に上げてんのよ!」
「あら?いけなかった?」
こ、こいつ…わざとだな…。
なんという姉だ!
「きぃいいいッ!」
優は怒って出て行ってしまった。
恐らく身だしなみが散々だったのを見られたからだと思われる。
「は…はは…。やっぱりまずかったような…」
「勇君が気にする事はないわよー!
あの子ただ照れてるだけだし」
「いや…でも、やっぱりこんな朝早くから押しかけてしまって…。
すみません…」
「気にしない!気にしない!あの子喜んでるわよきっと。
それで…修行…だっけ?でも本当にいいの?
歩まずに済めるものなら、それに越したことはない道だと思うけど」
亜子は勇にお茶を出して、自身もイスにかけた。
霊と接する事は危険も伴う…。
自分の経験上、苦しいことも多かったゆえに、
彼にも同じ思いをさせるかと思うと心が痛む部分があった。
「ええ…自分で決めた事です。
僕自身…今の自分には納得いっていません…。
彼女の足を引っ張るのも嫌ですし…気持ち的には彼女を守れるぐらいには強くなりたい…ッ!」
「…覚悟の上なのね…。
そっか…だったら止めないわ…頑張ってね」
「はい!」
勇は力強く返事をした。
「あの子を…優をお願いね…。
でも、決して自分の命を軽んじないでね…。
残された人は…一生消えない悲しみを背負っていくことになるのだから…」
「え…?」
亜子の目は悲しみに満ちているように感じた。
ドタバタッ!
優が戻ってきたようだ。
「あなたねぇ!いくら来なさいって言ったからって、何もこんな朝っぱら来ること無いでしょ!」
「はは…ですよね…反省してます。
なんか気持ちが高揚しちゃって…いてもいられずに…です」
まったく…。
もしかしたら私以上に"強くなろう"という気持ちが強いのかもしれないな…。
「おねぇちゃん!ご飯!」
「そういうと思ってちゃんと準備してたわよ!
はい!亜子特製カツ丼よ!」
おおお!!
「美味しそう〜!おねぇちゃんわかってるね!」
「あ、朝からカツ丼ですか…!?
しかも大盛り…白凪さんって見た目に似合わず食べるんですね…」
「え?朝からカツ丼って普通じゃないの?」
「…はは」
勇は彼女の素の反応に何も言い返せなかった。
ガツガツ!
「もう優ったら…男の子の前ではしたない!
そんなガツガツかっこまなくても、よく噛んでゆっくり食べなさいよ!
あなたも一応女の子なんだから!」
「むぅ…亜子ねぇ最近、ほんっとお祖母ちゃんそっくりで口うるさくなったわよ!
老けちゃうよ!そんな煩いと!」
「な、なんですって!?」
勇は姉妹の喧嘩を見て微笑んでいた。
「いいですね…やっぱ姉妹とか羨ましい」
「勇君は一人っ子だったっけ?
姉妹はいいかもしれないけど、私的にはもっと大人しい女の子らしい妹がよかったわ」
「それはこっちの台詞よ!
もっと物静かで優しいお姉さまがよかったわ!」
『ふん!』
二人してそっぽを向いてしまった。
「はは…まぁまぁ……。
ところでお祖母様のお姿がありませんが…まだお休み中ですか?」
「ううん。お祖母ちゃんはもう起きてるわ。
今頃裏で二人をしごいてるんじゃない?」
二人?
あぁ…居候の二人のことかな。
姿が見えないし。
「ごっちそうさま!美味しかったよ!」
「お粗末様!食べっぷりだけはいつ見てもいいわね」
「っし!腹も膨れたし!天城君!裏庭に行きましょう!」
「あ!はい!失礼します!」
勇は亜子に一礼して優の後を追っていった。
―――
――
裏庭――
「どうした!もう終わりかぃ?」
「く…クソ…ババァッ…!」
どうやら石動和馬と神楽由良葉の両名が腕立て伏せを強制させられているようだ。
「お祖母ちゃん何してるの?」
「優か…もう体はよいのか?」
「うん。それより二人は朝から筋トレ?
暑っ苦しいことやってるわね」
「基礎体力や筋力作りは大切な事じゃ。
祓い師といえど、憑依した人間と渡り合う事も多々あるのじゃ。
そうなった場合、普通に鍛えた程度の肉体では適う筈も無い」
確かに…。
筋力強化なんかも出来るけど、基礎がないと無理をきかせようにも出来ないからね…。
私も自分の力はわかってるつもりだから、変に強化しすぎないようにしている。
後日筋肉痛になる程度ならいいけど、もっと激しい損傷を負いかねないからね。
「午前中は基礎体力作り…昼は霊術の修行…夕方は宿題じゃ!」
「へぇ…そんなメニューなんだ…。
宿題まで組み込まれてるなんてね…」
「あ、あの!僕も今日から修行をさせて頂きたいのですが…」
「何!?…どういうことじゃ優!」
優は勇のこと…仲間達も修行を望んでいることを伝えた。
「なるほどの…。
それほどまでに言うのであれば断ることはないが…。
厳しい修行になるかもしれんぞ?」
「はい!自分は構いません!強くなれるなら…!」
「強くなれるかどうかは本人次第じゃ…。
素質の問題もある…。時間も限られておるしな…。
だが、元々0に近い力なんじゃ…今よりかはマシにはなるじゃろうて」
「はぁ…はぁッ…1000ッ!!
コラァッ!!終わったぞ!!ババァッ!!」
ゴツンッ!!
茜の鉄拳が和馬の頭に落ちた。
「…ッ!!だ…だから…頭は…」
頭を抱えて悶絶する和馬。
どうにも学習能力がないらしい。
「ふん…口の減らぬ小僧じゃ!」
「ばっちゃん…オイラ…もうヘトヘト…」
由良葉はまだ小学生。
当然それ用のメニューではあるだろうが…。
恐らく本人の限界ギリギリを見極めた上で、回数など設定してあるんだろうな。
「まだこれから走りこみじゃ!」
容赦のないシゴキだわ…。
まぁはじめからわかってたけどね…。
簡単に強くなんかなれないってこと…。
「優に勇!主らも走って来い!」
『はい!』
二人はすでにバテバテの和馬と由良葉の後を追って走り出した。
―――
――
「はぁ…はぁ……お前のばあさん…
ありゃまともじゃねぇわ…」
しばらく走っていると和馬が口を開いた。
「まぁ厳しい人ではあると思うわ…」
「おねぇちゃんは昨日帰ってからすぐ寝ちゃったから知らないと思うけど、
オイラも和馬兄ちゃんもアレから腕立て・腹筋・背筋・走りこみまでやらされて大変だったんだよ…。
はぁ…はぁ…」
そうだったんだ…。
き、厳しいな。
「僕はワクワクしてます!どんな修行が待ってるんだろ!」
あ、相変わらずポジティブというか…。
「お前のダチはマゾか…?」
「そういえばお二人は優さんとどういった関係なんですか…?
僕は優さんのクラスメイトの天城勇です。よろしくお願いします!」
「俺達は…んっと…えー…まぁ遠い親戚みたいなもんだよ…。
(おい!こいつ事情知ってるのか?祓い師とか言って通じるのか?)」
和馬はコソコソと優に耳打ちした。
「あぁその事。大丈夫よ、彼全部知ってるし」
「んだよ!俺達は奥里の祓い師だ。
俺はこのガキのお守りでついてきただけ!ちなみに名は石動和馬だ」
「ガキガキっていうなよ!ハゲ!
オイラは神楽由良葉っていうんだ!よろしくね兄ちゃん!」
「こちらこそ!」
4人は河川敷を通過し、山へ続く道に入った。
この先には朝霞山がある。
それほど高い山でもないが聖岩と呼ばれる巨大な岩石が頂上にあることで地元では有名である。
とはいえ登山を楽しめるような高い山でもないので登山客もいない。
つまり人の出入りはめっぽう少ないというわけだ。
「え、何?あそこ登るの?」
「そうだよ…お前らはいいだろうよ…まだ疲れてないんだから…。
俺らはもうヘトヘトだっての…こんな小ぶりの山でも登りは相当きついぜ…」
まぁ確かにそうかも。
4人は山を登り…そして下り、再び走り…神社へと戻ってきた。
「AM11時30分…といったところか」
「はぁ…はぁ………」
きつい…想像以上に…。
私、体力自信あったんだけどな…。
「山道のように整ってない道を駆ければ普段以上に疲れるさ。
それに普段使っていない脚の筋肉も鍛えられて丁度ええじゃろて」
「優さん大丈夫ですか?」
「天城君…あなたはなんともないの?」
この人、緒斗の森に行った時もそうだったけど…体力半端ないわね…。
なんでこんだけ走って、すぐに息が整うのよ。
「自分元々毎日走りこんでましたし…この位ならいつもの修行の範囲内です」
「ふむふむ…天城君は体力面に関してはマズマズじゃな」
「へっ!そりゃ筋トレしてない分余裕で当たり前だろッ!」
すかさず和馬が野次をとばす。
「ほう…和馬。まだそんな元気があるのか?
追加で走ってくるかの?」
「じょ…冗談!もう一歩も動けないっての!」
「皆ーー!ご飯もうちょっとだから手を洗って部屋で寛いでてー!」
亜子は皆の食事の準備をしていてくれてるようだ。
4人はヘトヘトの体をなんとか起こして客間へ向かった。
―――
――
「はぁ…水がうめぇ……ったくよぉ…なんで俺までこんなシゴかれなきゃなんねぇわけ?」
「和馬兄は文句が多いなぁ!大人なんだからもっと頑張ってよね!」
由良葉は呆れ顔をしている。
「お二人は奥里から来たんでしたっけ?
奥里といえば日本北部…雪国でしたね。
こっちは冬になっても雪は滅多に降らないから憧れちゃうなぁ」
「冬になれば白銀の世界よ!機会があったら一度遊びに来な!案内するぜ?」
「ほ、ほんとですか!嬉しいなぁ!」
テンション上がる気持ちわかるな。
私も雪なんてもう何年も見てない気がする。
「そういえば、お祖母ちゃんから何も聞いてないけど、
そっちで何か問題があったんだよね?」
「…あぁ。その事か。
ばぁさんの口から何も言ってないなら、俺達が何か言うのもアレだし。
わりぃな。直に聞いてくれ」
?…まぁいいや。
機会があればお祖母ちゃんに聞いとこう。
ピンポーン!
!
「誰か着たぞ?」
「多分私の知り合いよ。ちょっと行って来る!」
優は玄関に駆けて行った。
「はぁーい!」
ガラッ!
「来て上げましたわよ!」
「…別に頼んでませんけどね!」
夕見司だ。
相変わらずふてぶてしい態度だ。
「部長に先越されてら…」
後ろには瀬那稔、岡島大樹、日下部新二の2年トリオが立っていた。
さらにひっそりと立っていたのが片桐亮。
「ウス…」
揃い踏みと言う訳だ。
でも椎名一の姿はそこにはない。
やっぱり来ないつもりなのだろうか。
「皆…覚悟はいい?
けっこーーハードみたいよ?」
「望むところですわ!」
「覚悟は出来てるさ…。ついていけないときは置いて行ってもらっていいッス…」
皆目が本気のようだ。
私も頑張らないと。
こうして修行が幕を開けた。
第22話 完 NEXT SIGN…