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SIGN 序章  作者: WhiteEight
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第20話 夏休み編/緋色の髪留め2

SIGN 序章


第20話 夏休み編/緋色の髪留め2



「ふむ…とりあえず霊も祓ったことじゃ……もう安心しなさい。

 だがお主…どうやらかなりの霊媒体質じゃな…」



茜は起き上がった片桐に言った。



「霊媒…体質…?どういうことだよ…」


「霊を呼びやすく…取り憑きやすい体ということじゃ…。

 こればかりはどうすることも出来んからのぅ…。

 出来れば…万が一の場合に自分でどうにかできる程度の

 基本的な術ぐらい学んでおいたほうがいいのじゃが…」



深刻そうな表情を浮かべる茜。



「マジかよ…。どうすればいいんだよ!」


「ふむ…主も優達と修行じゃな…」



ええ!?

こ、この人まで巻き込むっての!?



「修行なんてかったるいことやってられっかよ!」


「まぁ…無理にとは言わんさ。

 またどこぞの霊に憑き纏われるだけじゃて」



ニヤリと笑う茜。



「うう…。………わかったよ…」


「わかった?何がじゃ?」



お祖母ちゃん意地悪いな…。

はは…。



「お、お願いします…」


「ふむ。それでよい。

 最近の若いのは礼儀をしらんでいかん」



う…胸が痛む一言だな…。



「そうだ…お祖母ちゃん」


「なんじゃ?」



優は須藤の前に来てじっと須藤の顔を見た。



「な、なんだよ…」


「やっぱり…なんかこの人の霊気変な感じがする」


「どれどれ……。ふむ…悪意がないから気づかぬかもしれぬが…。

 お主にも憑いておるの」



え!?



「憑いてるの!?」


「うむ…どうも弱弱しい波動じゃな…。

 意識を保っていないかもしれんが出してみるか?」



「た、頼む……じゃなかった…お願いします」


「ハッ!」



茜は須藤に向かって一渇した。



「ぎゃうっ!」



なんと須藤の体から一人の女性の霊が飛び出してきた。



「流石お祖母ちゃんね…経も何もなく気合だけで剥がすなんて」


「なぁに。この子の力が弱かったからじゃよ」



この子…私と同じくらいの年の子だ。

学生服かな…?どっかで見たような…。


ポニーテールが良く似合う可愛らしい女性だ。



「…三嶋…咲………?なのか…」



須藤が物凄い驚いた顔で彼女を見ている。



「…覚えていてくれたんだね…須藤君…」


「知り合い…?」



穏やかに笑う彼女はどうやら須藤彰と関係のある人のようだ。



「…どうして…俺に?

 君は…もう逝ってしまったのだと思っていた…」


「ん…。私が死んで、もう2年経つものね……」



彼女はゆっくりと話し出した。



2年前の7月…夏休みを目前にしたある日、彼女は死んでしまったという。

彼女は当時14歳…中学三年生だった。


須藤とは同じ学校、同学年で小学校からの馴染みだったという。


「須藤君は知ってるかもしれないけど、私が3年生の時…クラスでイジメがあったの。

 私はそれを助けた事から、徐々に矛先が私に向いてね…。

 それでも私はいじめを受けてた子が助かったならそれでいいって思ってたの」


「お前を自殺に追いやった奴らは俺があの後ボコボコにしてやったよ…。

 なんにも変わらないのはわかってた…。三嶋のために…そんな事を思った自分がいた。

 でも結局、俺は何も出来なかった俺自身へのイラ立ちをぶつけたかったんだろうな…

 悪かったな…三嶋…お前のせいにしちまったみたいで…そんなの報われるわけもないよな…」



咲は悲しげな顔で首を横に振った。



「それは違うよ…。

 私ね、須藤君が彼らに怒って、後先省みずに殴りに行ってくれた事がすごく嬉しかったの…。

 それで彼らへの復讐を思い止まることが出来たわ。

 でも、私の中の恨みの念は消えてなかったみたいね…。こうして浮かばれずに漂ってるのだもの」


「三嶋…」

 


「なるほどの…成仏できない理由…この世に何か未練を残しておるのかのぅ?

 お主もわかっておるかもしれんが、力が弱まっておる…その時が迫っておるのじゃ…。

 何か力になれることがあれば言ってみんか…?」


「その時って…なんだよ……三嶋…どうなっちゃうんだよ?」



須藤が茜に駆け寄った。



「意識をなくし…記憶もなくなり…さっきの黒い靄のように何もなしにさ迷う存在になるさ…。

 結末は見ての通りじゃ……長く漂えば、負の波動にやられ…"ああ"なる」


「そんな………」


「須藤さん…」



須藤は三嶋咲の前に立った。



「三嶋…言ってくれ……何か未練があるのか…?」


「……私ね…お父さんやお母さん…皆に知ってほしい事があるんだ…。

 それを伝えれないから…もしかしたら成仏できないのかな…」



「伝えたい事…?なんだ!?」


「私ね……自殺じゃないんだよ…」



!!


自殺じゃない…?



「……どういうことだ…」


「あの日ね…私が死んだ日…。

 イジメの筆頭格の竹谷君に屋上に呼び出されたの。

 "俺の女になれば、イジメをやめてやる"って…」


何よそれ…

そんな最低な男がいるのね…。


「私は断ったわ…。どんなにいじめられても…私の心は私だけのもの…

 好きでもない人に付き合っていく気はなかった…。

 それに私は好きな人がいたから…」


「…」


須藤は黙ったまま聞いていた。



「断って…それに腹を立てた彼は…私を襲おうとした…。

 私は必死に逃げたけど…結局追い詰められて……。

 そして足を踏み外して…」



咲は涙をこらえ切れず涙を流し始めた。


須藤は触れられない彼女をそっと抱きしめて言った。


「もういい……いいから…わかったから…」


「うん……」



「やりきれないわね…」


「クズ野郎は何処にだっているもんだな。胸糞わりぃッ…!」



初めて意見があったかもな…この人(和馬)と。




「もう…泣くなよ三嶋…。変な言い方かもしれないけど元気出せよ…?な?」


「うん…ありがとう…。

 なんだか聞いてもらってすごくスッキリした気分…」



「お祖母ちゃん、これで彼女…逝けるよね?」


「うむ…心が晴れたんじゃろうな……。

 これであの子をここ(現世)に縛るものはなくなったはずじゃ」



「三嶋…もう少しだけ…こっちに残れないか…?」


「え…?」



「いや…なんでもない。ありがとうな三嶋…話が出来てよかった」



そういうと須藤はそのまま出口に向かって歩き出した。



「ちょ…何処にいくのよ?」


「色々とありがとな」



振り返りもせず手を振って出て行ってしまった。



「須藤君…」



―――

――



「行くのか?」


「…」


出口付近で話を聞いていた片桐は、出て行こうとする須藤にすれ違い様に質問した。

だが、返事もなく彼は行ってしまった。



「須藤君……私のためにまた無茶をするんじゃ…」


「てか咲さんほったらかしで行くかね…普通…。

 私連れ戻してくる!」


「やめとけ!」



む…またコイツか。



「なんでよ!」


「そっとしておいてやれっつってんだよ。

 それに咲さんよ、人って奴は誰のためにでも無茶なんか簡単に出来るもんじゃないだろうよ。

 でもアイツはあんたのために無茶をしてきたんだろ…?

 つまりあんたはアイツにとって無茶を平気でやれる存在ってことだろ?

 それって、すげぇ幸せなことなんじゃねぇの?」


「…」


咲は黙って俯いた。



「はぁ…勝手よ勝手!男ってホント自分勝手でバカよ!バカ!」



「な、なんだよ!?俺なんか間違ってるかよ!?」



自分のために誰かが無茶をしてくれる…それは幸せな事かもしれない。

でもそれで傷つくのを喜べるはずがないじゃない…好きな相手なら尚更よ。



「咲さん…私は女だし、あなたの気持ちわかるわ…。

 自分のために彼が傷つくのが嫌なんでしょ…?」


「…うん」



「男って皆バカばっかなのよね…ほんと。

 心配する身にもなれってのよ」


「ふふ…そうだね…。

 あなたにも…そういう人がいるんだね」



え!?


「い、いや…私は別に!別にほんとに!」


「あはは…うん…。

 私は幸せだな…こうなっちゃっても私のために動いてくれる人がいる」



この人はきっとずっと独りで頑張ってきたんだな。

誰とも話せず、誰にも気づかれず…触れられず…ただ見ているだけ…。


それはどれだけ寂しいことなのだろうか。



でも彼女は彼のそばにいれて幸せだったのかな…。

何も出来ないし、してもらう事もできない…。



「咲さん…この2年間…辛かった…?」


「…どうだろう…確かに辛い事は沢山あったわ…。

 けど彼に憑いてからは幸せだったと思う。

 …うん。幸せだった」



「そっ…か。よかったね…よかった……」


優の頬を涙が伝っていった。



「ありがとう…。私のために泣いてくれて…ありがとう」




―――

――



その頃…


「…そうか…。わかった…サンキュな」



須藤は中学時代の友人に竹谷の居場所を聞いていた。


聞いた話によると不良グループとつるんで、奴の地元では有名になっているようだ。

須藤は竹谷の地元、生馬に向かった。


中学を出てから聖ヶ丘に引越したため、元の地元である生馬は久しぶりだった。




1時間ほど歩いて須藤は竹谷のいるらしき不良の溜まり場へやってきた。


どうやら廃工場を根城にしているようだ。



騒ぐ声が聞こえる所をみると人はいるようだ。




須藤はそのまま工場へ足を向けた。


「ガハハ!んでさ!……って…誰だてめぇ?」



不良の一人が須藤に気づいたようだ。

工場内には10人ほどの男達が座り込んでいる。


「竹谷はいるか?」


「あぁ!?…てめぇ誰だ?」



不良がガンを飛ばしながら須藤の目前までやってきた。



「竹谷はいるのか?」


「質問してんのはこっちだろが!?あぁ!?殺すぞッ!!」



バキッ!!!


須藤の上段蹴りが男の側頭部に見事にヒットした。

そのまま勢い良く飛ばされていった。



「な…!てめぇ!!喧嘩売りにきたのか!?」


「っせぇな…。質問に答えりゃいいんだよ…竹谷は何処だ」



「うっせえええええ!!」



今度はニ人掛かりで襲いかかってきた。

手にはナイフや鉄パイプが握られている。



「シッ!」



須藤の繰り出す前蹴りがすぐさま一人を沈黙させる。

その巨体から繰り出されるリーチの長い蹴りは彼らの射程距離に入る前に飛んでくる。


速く…そして重い。


一撃でも喰らえば撃沈は必至である。



「く…!うあああああ!!」


鉄パイプの男は突進する危険性を察知したのか、鉄パイプを投げてきた。

しかし須藤の運動神経をもってすれば、避けることは容易だった。


軽く体を反らして余裕でかわして見せた。


そして、そのままゆっくりと男に近づいていった。

手ぶらになった男はガタガタと震えている。



「竹谷はいるのか…いないのか…どっちだって聞いてんだよッ!!」


「ひ!ひぃいいぃいいい…!!」



ドガッ!

容赦のない蹴りで男を蹴散らした。



「てめぇら…答える気がないなら…全員潰すぞ!!」



「んだぁ…?何処のどいつだ…デカイ声出してる馬鹿は」



奥から3人の男が現れた。



「…竹谷…てめぇ」


「!…へぇ…そのデカイ図体よぉく覚えてるぜ?須藤ちゃん」



中央に立つ中背の男が言った。

どうやらこの男が竹谷らしい。



「クチャ…誰だよ竹谷?お前の知り合い?」


右の男がガムをクチャクチャしながら質問した。



「ああ。オナ中の須藤ちゃんだよ。むかーしボコボコにされたんだわ」


「へぇ。お前をボコボコにか。じゃあ強いんじゃね?」



左の男が須藤を見ながらニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。



「強いよー!俺だけじゃないもん。10人ぐらい居たのに全滅だぜ?

 マジおっかねぇ奴よ」


『こぇえー』



左右の男がハモって見せる。

だが言葉とは裏腹に、まるで怖がって居ないようだ。



「お前らは関係ねぇ…用があるのは竹谷だけだ。そいつを渡せや」



「関係ねぇってさ!竹谷どうすんの?クチャクチャ…」


「俺はこんなおっかねぇ奴とやりたくないわ。お前らやっちゃって」


「ラッキー!久しぶりに楽しめそうじゃん」



ガム男とニヤニヤ男が須藤にゆっくり歩み寄ってくる。



「お呼びじゃねぇんだよ…どけぇぇッ!!」



須藤の咆哮が工場内に轟いた。



第20話 完   NEXT SIGN…

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