第19話 夏休み編/緋色の髪留め1
SIGN 序章
第19話 夏休み編/緋色の髪留め1
学校前―――
AM8:30―――
7人はバスにて無事帰って来た。
各々軽い怪我や疲れは見えるものの、こうして全員無事に帰ってこれて本当によかったと思う一同だった。
「はぁうぁぁー…んじゃま…解散しますか……さすがに眠いし」
大あくびをしながら優が言った。
私なんか一睡もしてないっての…。
「優さん、修行の件ですけど…いつからお邪魔すればいいですか?」
そうだった。
夏休みはお祖母ちゃんに特訓してもらうんだったっけ。
「何です?修行って…まさか、あなたのお祖母様に?」
げ…!
こやつに聞かれてしまった…。
司の事だから妙な事言い出すんじゃないかしら…。
「抜け駆けはなくってよ!優!修行するのであれば、我々ミス研部も参加させなさい!」
「な、何言ってるのよ!?しかもなんで上から物を言うかね!」
ほらきた…いわんこっちゃない…。
「いいんじゃないですか?皆で頑張ったほうが楽しいですし」
この男も満面の笑顔で…なんという天然め。
「はぁ…いいわよいいわよ…勝手にしなさい!
でも修行が辛くて弱音吐いちゃうようなら最初から参加しないでね。
私は遊びで修行するわけじゃないんだから!」
こんくらい言っとけば大丈夫でしょ…。
「確かにそうね。皆、聞いての通りよ。
強制はしないわ!今より強くなりたいなら参加しなさい!」
「俺はやるッスよ。最低限部長の力になれるくらいにはなっときたい」
瀬那先輩…あれでいて体育会系かしら…。
「俺もやるぜ…今回随分と足を引っ張っちゃったから…俺も強くなりたい」
岡島先輩…まぁ見た目はもろ柔道部だから根性はありそうね。
「そういう意味じゃ俺が今回なんの役にも立ってないさ。
俺も強くなれるなら頑張りたい!」
ありゃま…日下部先輩、こんな熱いキャラだったっけ…。
残るは椎名一のみ。
みんなの視線が一に向いた。
「な、なんだよ!僕は塾やら宿題が忙しいんだ!君達みたいに暇じゃないんだよ…」
「…そう。だったら強制はしないわ」
「え…?」
一は意外な顔をした。
恐らくもう少し強引に誘われると踏んだのだろう。
予想に反して司の対応は冷たかった。
「じゃあ天城君、司、瀬那先輩に岡島先輩、日下部先輩の5人で決まりね!
んじゃま、今日は疲れてるだろうし、来るなら明日から来て頂戴!」
「…けっ!勝手にしてください!」
一は怒りながら帰っていった。
「よかったの?司」
「いいのよ。あの子、素直じゃないだけで根は負けず嫌いだから。
きっと来るわ」
へぇ…けっこう見てるんだな…司って。
こうしてその場は解散した。
―――
――
一方その頃。
「ん…?あれは?」
散歩をしていた須藤彰は、前方からこちらに歩いてくる男に気づいた。
「片桐…?」
片桐の表情は朝っぱらだというのに夜のように暗く沈んでいる。
「…須藤……ううぅ…」
片桐はそう言うや否や須藤にもたれかかった。
「な、なんだ!?どうしたんだ…?」
須藤は片桐を近くの公園に連れて行った。
―――
――
「んで…何があったんだよ?
今日から夏休みだろ?なんで初日からそんな暗い顔…」
「なんかな…。………やっぱいいや…」
「煮えきらん奴だな…。いいから話してみろよ」
「突拍子すぎて引くなよ…?」
もったいつける片桐。
「大丈夫だっての…んで?」
「俺…お前とやりあったあの日あたりからよ…変なものが見えんだよ…」
片桐は両手で頭を抱え込んでしまった。
「変なものって…?」
「最初は気のせいだって…ずっと思いこんできたんだけどよ…
ダメなんだ…。最近じゃうなされる様になったし…」
「だからなんなんだって!?はっきり言えよ!」
「だから!!ッ…その…幽霊が…見えるんだよ…」
…
一瞬間が空いた。
「…本気か?」
「だからいったんだ。馬鹿にしやがって。もういいよ!馬鹿らしい」
片桐は怒って帰ろうとした。
「おい!待てって!馬鹿にしたわけじゃないって」
「るせぇよ!もうほっといてくれ!」
須藤は片桐の肩を掴んで静止させた。
「俺について来い」
須藤の案内で二人は移動を始めた。
―――
――
白凪神社―――
「ばっかもおおおぉぉおおおん!!!」
朝っぱらから茜の雷が落ちていた。
怒られているのはもちろん帰宅したばかりの優。
夜中にこっそり家を抜け出したことがバレたようだ。
「お祖母ちゃん…帰って来た早々、そう怒鳴らないでよ…。
私寝てなくてヘトヘトなんだから…」
「まったくお前という子は…。ちぃっとも成長しとらん!」
「はは…すみません…。んでさ…さっきからずーっと気になってるんですけど…。
そちらのお二人は一体誰?」
優は隣で寛いでる二人を指差して言った。
「っと…すっかり忘れとったの…。
二人とも、ちょっとこっちへ来てくれ…自己紹介をしておこう」
「…うぃーっす…」
何よこの不機嫌そうな坊主は…。
こっちの子供はなんか可愛らしいわね。
「じゃあ自己紹介を…奥里からバァさんに連れられてきた石動 和馬だ。
このガキんちょの世話係として夏休みの間世話になるぜ」
むむ…態度だけじゃなく口まで悪いぞ…この坊主。
「口は悪いが祓い師としての腕前はよい。
お前のいい手本になるじゃろうて優」
こいつが…ねぇ…。
「いや…私は遠慮しとく…お祖母ちゃんに修行してもらうわ」
「はん!こっちから願い下げだね。こんな洗濯板の小娘興味ないんでね」
な…なんつった!?
「こ、このハゲ…ッ!!洗濯板…だと!?
表に出ろやぁぁああああぁぁッ!!」
「て、てめぇこそ!年上に対してツルッパゲだと…!?
ぶっ殺すぞてめぇぇええッ!!」
ガツンガツンッ!!!
二人の頭上に茜の鉄拳が落ちてきた。
「ご…ごめんなさい…」
「わ、悪かったよ…。た、頼むから頭はやめてくれ…」
二人は頭を抑えながら謝った。
「は…はは…。オ、オイラは神楽 由良葉。和馬兄ちゃんと一緒に奥里から修行しに来ました!
よろしくお願いします!」
この子は礼儀正しくていい子みたいね。
でもなんだろう…なんか違和感みたいな不思議な感じがする子ね…。
「二人とも奥里で知り合ったんじゃが祓い師としての素質も十分あるのでな。
お前と一緒に鍛えてやろうと連れてきたのじゃ」
「俺は別に修行とかどうでもいいんだけどね…」
…。
むかつくけど…このハゲ男…。
流石に坊主なだけあって並々ならぬ霊気を放ってるわね。
「んだよ?で、そっちの自己紹介は?(年上を睨みつけるって…なんつうガキだ)」
「私!?…私は白凪優…お祖母ちゃんの孫娘よ」
「…」
和馬がじっと見てくる。
「…な、なによ?」
「バァさん…こいつが後継者なのか?」
む!ぶしつけに…。
指を刺すなっての!
「…ふぅーん……まだまだ"葵"程じゃないな…」
「葵…?」
誰よそれ。
「九鬼家の現当主の娘さんじゃよ…年は22だったかの。
彼女は優よりもずっと経験値が上なんじゃ、仕方なかろうて」
「まぁな」
何よこいつ…!
なんかむかつくんですけど!
ピンポーン
「誰か来た様じゃな。優見てきておくれ」
「な、なんで私が!?」
シッシと和馬が手を振って行って来いと指図する。
むかつきつつも向かう優。
ピンポーン!
「あぁもお!そんな何回も押さなくたって聞こえてるっての!!
一体誰よ!こんな朝っぱらからッ!」
ガラッ!
「よぉ…」
「あなた達…」
目の前に立っていたのは須藤彰と片桐亮だった。
「どうしたの…?こんな朝早くから」
「こいつを見てほしいんだ…。
なんか、霊が見えるっていっててさ…」
ズズッ…
「!…あなた…何か憑いてる…」
優は片桐を指して言った。
黒い影が片桐の肩から漏れているようなそんなイメージが優には見えていた。
「え!?…じゃあこいつが言ってたのって…」
「だから…ほんとだって言ったじゃないか…はぁ…はぁ……」
この気…大きくないけど悪意を感じるわね。
あの苦しみよう…宿主である彼の生気を吸っているのかも…。
「ちょっとついてきて!」
優は二人を連れて外に出た。
そしてそのまま御堂の方へ入っていった。
「ここでちょっと待ってて」
御堂に二人を残し、優は走って客間へ急いだ。
「お祖母ちゃん!」
「ドタバタ騒々しい!何事じゃ!」
「御祓いするわ。知り合いなんだけど…どうやら憑依されてるみたいなの!
サインは見えないけど、悪意を持った霊よ!」
「ふむ。優やお待ち!…由良葉…主やってみるかい?」
茜は由良葉の頭を撫でて言った。
「え!?そんな…危ないわよ!」
「大丈夫だ。そいつはタダのガキじゃないんだ。問題ねーよ」
問題ないって…なんなのよ!
―――
――
茜・和馬・由良葉、そして優の4人は御堂に到着した。
「ふむ…確かに憑いておるわ。まぁこの程度なら問題ないじゃろ」
問題ないっていうのはこの子が祓えるって意味で?
本当なのかしら…。
「あなた…えーーと…」
「片桐だ…片桐亮……なんかドンドン息苦しくなってくるんだが…」
「片桐さん…今からあなたに憑いている霊を剥がします。
すぐに楽になるから安心して」
優は茜のほうを見て目で合図をする。
茜も頷いてOKの合図で返した。
「片桐亮に憑依し、さ迷えし霊よ…その肉体は本来在るべき場所ではない…すみやかに出られよ…」
優は経を唱え始めた。
するとすぐに亮は苦しみだす。
どうやらとり憑いている霊が苦しんでいるようだ。
同調している亮も同様に苦しむようだ。
「はッ!」
優が気合を入れると、その瞬間霊が飛び出た。
「な…なんか出た…」
須藤彰が思わず亮の上に漂う黒いモヤを見て言った。
!
この人あれが見えるの…?
というか…この人やっぱり…。
なんか妙な霊気を感じる…。
「由良葉…見えるな?
あれはどうやら感情も持たぬ悪意の塊みたいなものじゃ。
さ迷う霊がいろんな場所で負の気に触れて膨れ上がったんじゃの」
「オイラがあれをやっつけるんだね…やってみるよ!」
由良葉は構えた。
小さな体が可愛い。
「はぁッ…!」
由良葉が気合を入れると霊気が高まっていく。
「へぇ…!たしかにタダの子供じゃないみたいね」
「ちげーよ。俺が言ったタダのガキじゃないってのは、"アレ"じゃない」
?
どういう意味だろ?
「コォオオォッ!」
優が余所見をしていると、黒い靄はうめきを上げて由良葉に襲い掛かった!
「チェストォッ!」
由良葉は合わせるように拳を突き出し、靄は拡散された。
「やっぱり子供ね…あんな突きじゃ霊に効果はないのに…」
「ふん…やっぱお前はまだそのレベルか」
「何よ?どういう意味?」
いちいちカンに触るわね!
「いいから見てみろよ」
和馬が指差す方を見ると、拡散した黒い靄は徐々に消滅していっている。
「えぇ!?なんで?」
「そんなんもわかんねぇのかよ?」
「優には教えとらんからな…そういってやるな和馬よ」
きぃぃいいッ!
何よ皆して!
私は何も知らないんだからね!
「単純に自分の霊力を使って、それをぶつけただけだ」
「え…?なによそれ…私もやってみたことあるわよ!?でも通じなかった!」
やり方がいけなかったっていうの!?
「優…ちょっとやってみなさい」
「え、ええ……こうでしょ?」
優はいつもの要領で右手に霊力を集中し始めた。
「こんな感じじゃないの?」
「ふむ…本来"そっち"のほうが難しいものなのだがの…」
え?
「そのやり方は確かに霊力を使ってはおる。が…その方法では体内活性…治癒力向上…筋力強化のみ。
霊的な攻撃力にも防御力にもならん」
「そうだったんだ…どおりで"これ"で攻撃しても利かないわけだ」
「霊気が目に見えておらぬから解りづらいのじゃ…。よおく見ておれ」
そういうと茜は右手を出して気を込め始めた。
ズアッ!
茜の右手から光がほとばしる。
「どうじゃ?これなら目に見えるじゃろう?」
「うんうん!!すごい…霊気を一点に集中して高めたのね」
なるほど…霊気を内に溜めて強化するんじゃなくて、纏って一体化するイメージか…。
「この状態で攻撃を繰り出せば、それは霊的な攻撃力に変わる…。
逆にこの状態で霊の攻撃を防ぐこともできる。
優は何故か内に溜めるほうを先にやれるようになったようだが…
外に留めるほうが本来容易とされとる」
「そ、そうなんだ…」
やっぱり私の知らない事ってまだまだいっぱいあるんだわ。
なんだか修行が楽しみになってきたわ!
寝てない事もあってハイテンションになる優であった。
第19話 完 NEXT SIGN…