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SIGN 序章  作者: WhiteEight
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第18話 夏休み編/緒斗の森6

SIGN 序章


第18話 夏休み編/緒斗の森6



時は遡り―――


優たちが死闘を繰り広げている頃…。


天城勇も戦っていた。



「はぁっ…はぁッ…」



20体程いた死体も残るは5体ほどになっていた。


しかし、そこに至るのに全力で戦い続けてきた勇はすでに限界が近づいていた。



「くそ…

(握力が…もう全力で振りぬくことは厳しいな…。

 出来て3回…残り5体いるのに…どうする)」



勇の破邪の力はすでに絶えていた。

霊力は司達を行かせるために使った風刃剣で底をついていた。


実質勇の霊力は日に2回しか撃てないようだ。



ではどうやってここまで戦ったか?


答えは…立てなくなるまで彼らを打ち砕いたのだ。

そのため、何度も何度も木刀を振りぬくことで手が痺れ、握力がなくなってしまったのだ。


もちろんその行為に抵抗感はあったが、自分が殺されるわけにもいかない。

勇は覚悟を決め打ち倒した。



「クアァァアア!!」



死体が襲い掛かる。

死んでるだけあって、彼らに疲れは無い。

恐怖もない。


それゆえに恐ろしい。



「くっ!はぁッ!!」



勇は迎撃のため木刀を振りぬいた。


見事に首筋に命中し、死体はよろめいた。



普通に相手が人間であれば、致命傷だ。

しかし、彼らにとってそれはなんでもない一打にすぎない。



勇はすぐさま離れ、態勢を整える。



「はぁ…はぁ…限界だ…。

 もう一撃全力で振りぬけるかどうか…」



この死体達は森で遭遇した奴よりも動きが鈍い。

その点は救いだった。


基本的に1対1の形にもっていきやすいからだ。

だからこそ10数体もの死体を相手に死なずに戦い抜いている。



"ここまで数を減らせば…もう相手にしなくてもいい"

それはもう随分前から考えていたことだった。



しかし勇はあえて自分が何処までやれるかを試していたのだ。

優の心配はあったが、司が優の名前を叫んでいたことから無事を確認し、

自身の限界に挑戦することを決めたのだ。



「やる所までやるって決めたのは自分だろ…。

 根性見せろよ…勇!」



自分を鼓舞し、最後の一撃を決めようと駆け出した。



「ハァッ!!」



先ほどから攻撃し続けてきた死体に最後の一振りを放った!



バキッ!!



首の骨が折れる音が洞窟に響く。


死体は勢い良く倒れたが、無論これが致命傷に至ることはない。




「はぁ…はぁ…」



カランッ


勇の手から木刀がこぼれ落ちた。

どうやら今ので握力がつきたようだ。


両手がブルブルと痙攣している。



「ありがとう…。

 僕のわがままに付き合ってくれて…ごめんよ…あなた達に罪はないだろうに…」



ガブッ!


勇の左肩に突如激痛が走った!


どうやら気づかぬうちに背後に回りこまれていたようだ。

神経をすり減らして戦っていた勇に周りまで注意がいきわたらなかったようだ。


死体の歯が勇の肉に食い込んでいく!


「うわァァッ!!んのぉぉおッ!!!」



勇は無理やり自身の体を走らせ振り切った。

その勢いで肩の肉を少々持っていかれたようだ。



「はぁッ…はぁッ!!っそ…!

(油断した…ッ)」



肩を押さえる勇。

血がドクドクと流れ出てくる。



「クチャクチャ…ヒヒ…」



死体は勇の肉を美味そうに味わっている。



「…」



勇の理性が吹き飛んだ。

押さえ込んできた様々な感情が一気に吹き荒れた。



「はぁああぁぁッッッぁああぁあぁあッッッッッッ!!!!!!!!!」



勇は震える両手を壁に叩き付けた。

どうやら痛みで痺れを黙らせたようだ。


「……死にたいのなら望みどおりにしてやる…」



勇は木刀を拾い上げ、構えた。



バチバチッ!!

勇の体を淡い光が包みこみ吹き上げる!


その光は木刀をも包み込み始めた。

ものすごい霊気である。


底をついたと思われていた霊力も取り戻すどころか、普段以上にあふれ出ている。


これは回復というより、眠っていた力が噴出したといえる。



「…」


勇は軽快に駆け出すと、先ほど首の骨を折った死体に木刀を叩き付けた!


一撃の元に死体は沈黙。


続いて居合いの構えから、片手で横一文字に木刀を振るった。

相手との距離がかなり離れた状態でだ。



木刀を振るうと、いつもとは違い光を纏った波動が放たれた。



前方にいた三体の死体は避ける事も無く、光に直撃した。

これも一撃の元に3体を同時に倒して見せた。



「残ったのはお前だけだ…"俺"を喰った代償は高くつくぞ…」



勇は片手持ちから両手持ちに変えて再び構えをとった。

再び光がほとばしる。



「ひひ…死ね…これが本気の…」


勇は全力木刀を真上から振り下ろした。



ズバシュッ!!

一刃の波動は死体を通っていった。



「カカカカ…」


「…風刃剣」


勇がそういうと、死体は真っ二つに切り裂かれ崩れ落ちた。



「死にぞこないには勿体ないだろ?」



勇はそう言うと意識を失い、その場に倒れこんだ。



―――

――



「…君……天城君…」


「う…うう…」



優は心配そうに勇の顔を覗き込んでいた。




「…あれ…白凪さん……?」


「馬鹿…!目を覚まさないから心配したじゃない……」



勇は優のひざ枕の上で目覚めた。

その優から涙がこぼれている。



「はは……よかった…。白凪さんが…無事…で……」


「私はいつだって大丈夫よ…あなたはいつも無茶ばかりして…」



勇は横になったまま辺りを見渡した。



「白凪さんが助けてくれたんですか…?」


「え?…何言ってるの?私が来たときには全員祓われていたわ…。

 あなたがやったんじゃないの?」



勇は自分がやったことをまるで覚えているようではなかった。



「…途中まで…記憶はあるんですが……ううっ…」


「まだ起きちゃダメよ!あなた相当深手だったのよ?」



「そっか…僕…彼に…

(噛み付かれたんだっけ…)」



ザッ



「よ!目が覚めたみたいだな!」


「瀬那先輩…皆さん…白凪さんを助けてくれて…ありがとうございました…」



瀬那や一たちが覗きにきた。



「水臭いな!俺達仲間でしょ?」


「日下部先輩…ですね…はは」



騒がしい声が聞こえる。



「いい加減わらわを解放しろ!小娘!」


「だぁめよ!しろ!あなたは私の式神としてこれからもつくすのよ!」



司とぬいぐるみのしろとの言い争いの声だったようだ。

この"しろ"は元々この地の主で精霊の朔夜が、アザラシのぬいぐるみのしろに封印されてしまったものである。



「ぬ…ぬいぐるみが喋ってる……もしかしてこれは夢ですか?」


「あれは司の式神…もとはこの洞窟にいた精霊よ。今じゃあんなぬいぐるみにされちゃってね」



「しろ!おだまり!

 あなたの声は霊を感じない人にも聞こえちゃうんだから、大人しくしなさいよ!」


「むむむ!この者達を治せば解放してやると言ったではないか!

 この嘘つき娘め!!いい死に方せんぞ!」



「今の話は本当なんですか?治したって…」


「本当だよ」



岡島大樹がひょこひょことやってきた。



「岡島さん!?服ボロボロじゃないですか…!」


「俺も…ちょっとは役に立てたんだぜ…。

 あいつの…あのしろのせいで大怪我させられたんだけどさ、この通り治療してもらったんだ。

 まだ節々が痛いけどな。君もあいつの治療を受けたんだぜ?」



「ふわもこアザラシさん…ありがとう」


「誰がふわもこアザラシさんだ!わらわは朔夜だというとるに!」



正直怒っても可愛らしいから迫力に欠ける。



「嘘を言ったのは謝りますわ!ごめんなさい…。

 でもあなたの力を必要としているのよ…お願い力を貸して!」


「ふん…人間など欲深い者のいいようにされるのはしゃくじゃ!

 今のようにすぐに騙すしの…ほんとうに妖魔といい勝負じゃ」



「しろ…」



「じゃが…まぁ外の世を見てみるのも一興かもしれん…。

 いいだろう…しばらく付き合ってやる…」


ギュウーーッ!

司はしろを抱きしめた。


「もうしろったら!なんて可愛らしいのっ!」


「ぎゃう!は、放さぬか!無礼者っ!」




こうして夏休みは、なんともハードな経験で幕を開けた。


全員無事で済んだ。

おまけに変な仲間まで増えて。



「みんなー!外に出てみろよー!」



一の声だ。


勇は優の肩を借りて立ち上がった。



7人は洞窟の外に出た。



「わぁ…綺麗…」



外はすっかり朝になっていた。

綺麗な日差しが辺りを照らしている。


小鳥の囀りがとても気持ちよく聞こえた。



「あれ…?なんか…楽だな?」


「ほんとだ…?部長何もしてないんでしょ?」



新二と一が不思議そうに司の顔を見た。



「あぁ…守護霊壁?もう使ってないわよ」


「ここの元凶が"こう"なっちゃったから、重苦しい霊気は全て消えたわ。

 ほんと清清しい森になったわ」


「むぅ…わらわのせいだけではないというのに…ふん!」



確かに…。

きっと人間の負が…彼女を…朔夜の心を徐々に蝕んでいたんだろう。

きっと精霊から妖魔になりかけていたんだと思う。


全てを霊のせいにするのは簡単かもしれない。

でも根本にはやはり私達人間の要因が少なからずあるんだ。



「んーーーーっ!気持ちいい…」


「ですね…」



勇は洞窟を振り返った。



「どうしたの?」


「い、いえ…なんでもないです」



勇はちょこんと一礼して前を向いた。



「んじゃま…帰りますか!」


『おー!』




7人と1匹は森から出るべく出発した。




―――

――


その頃…



「ふぅ…久しぶりじゃのぅ……」


「ここがばぁちゃんの家?」


「白凪神社…立派なもんだな…」



白凪茜、そして謎の少年と青年が白凪神社の門前で全景を眺めていた。




第18話 完   NEXT SIGN…

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