第17話 夏休み編/緒斗の森5
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第17話 夏休み編/緒斗の森5
5人は一本道の洞窟を全力で駆け抜けていた。
天城勇が一人死体達を引き付け、5人を行かせたのだ。
白凪優救出のために。
「!…先方…見て!あれは優ですわ!!
(やっぱり生きていたのね!よかった…)」
「でも部長…なんか様子おかしいっすよ…何かから逃げてるような…」
優は必死な表情で跳び回っている。
「何かに襲われているのかもしれない…!急ぐわよ!」
5人は優の元へ急いだ。
「優!…!?
な、なによこれ…」
「はぁッ…はぁッ……司!?
皆も来てくれたのね!」
優は避けながら司の方へ走り始めた。
「…ほう。ここまで入ってこれる人間がいたか…」
朔夜は動きを止めた。
「はぁッ…はぁッ………
あれは精霊みたいなもんよ…」
優は相当に疲れているようだ。
「おい、新二…見えるか?」
「いいや…見えないね…一はどう?」
「…相変わらず見えない…」
どうやら大樹、新二、一の3人には見えてないようだ。
「でかい魚ッスね…あんな奴もいるのか…」
「みのりんには見えてるか…。
それにしてもあんな大物だなんて、想定外よ…」
「ふぅ……。少し落ち着いたわ…。
それにしても何で急に攻めて来なくなったのかしら…」
宙に浮かびながらこちらを見ているようだ。
「ふむ…お前とお前…主らもわらわが見えるか…。
なかなか面白い」
そういうと人型に変身して水面に立った。
水しぶき一つ上げぬよう静かに…。
「人間…?
一体どういう奴なの…?」
「油断しないで…。恐らく私達じゃどうしようもない相手よ。
さっきからずっと攻撃されてたけど、わざとギリギリ避けれるように撃たれてた感じだった…。
遊んでるのよ…」
どうすれば…どうすればこの窮地から脱することができる?
「ちんたらしてられないわね…。
あなたの彼…天城君は入り口付近で今も戦っているの」
「え!?どういうことよ!?」
本当だ…天城君がいない…!?
「入り口付近で死体がわらわら動きだして襲ってきたの…。
私も力を使い切っちゃって…彼に任せるしかなかった」
「…く…ッ!」
尚更早くどうにかしないとッ…天城君が…!
「優…私に手があるわ。あなたは時間を稼いでほしい」
「え?…何よそれ…!
あんた、もう霊力底をついてるんでしょ!?」
「問題なくってよ…。霊力はほとんど使わないでも出来る。
ただ邪魔されたらおしまい…準備に時間がかかるから…なんとか時間稼ぎしてほしいの」
「…時間を稼ぐって…」
ザッ
瀬那が前に出た。
「いいッスよ…。
それしかないってんだったら俺が時間稼ぎます…」
「頼むわ…!優もお願い…私を信じて」
司の目が本気だ。
現状私にどうすることも出来ない以上…司に賭けるしかないか。
「大丈夫ッス…部長があの目をしてるときはやってくれるッスから…。
頑張りましょう…白凪さん」
瀬那先輩…。
信頼してるのね…司のことを…。
「わかったわ…なんとかやってみる…!
失敗したらタダじゃおかないんだからね!司」
「ふふ…誰に言ってるの?私を誰だと思って?」
「3人とも…部長を頼むぞ」
瀬那は三人を見て拳を突き出した。
「あ、ああ…任せろ!お前も…気をつけろよ…瀬那」
「頑張って…」
「…ふん」
三人も拳を突き出してそれに応える。
「ふふ…話し合いは済んだようだな…。
何をするのかわからぬが…このような遊びは久々…楽しませてもらうよ」
朔夜はゆっくりと地に足をつけた。
同時に優と瀬那の二人は駆け出した。
タッタッ!
先に仕掛けたのは瀬那だった。
一瞬にして間合いを詰めたかと思うと、すぐに攻撃に入っていた。
「シッ!」
まずは側頭部狙いの上段蹴り。
ガッ!
「ふふ」
余裕綽々で足を手で掴む形でガードする朔夜。
余裕の笑みを浮かべている。
「にゃろ…ッ!」
足首を捕まれたまま逆さになりながら、今度は足を狙って拳を放った!
が、これも背後に跳ぶことでかわされた。
同時に足を離して、瀬那はそのまま地面に落ちた。
「く…!」
「次は私が相手だ!」
優も接近戦に持ち込んだ。
両手には札をまいて、直な打撃でもダメージを与えられるように工夫している。
華麗なコンビネーションだが、やはり先ほどからの戦いで大きく体力を消耗しているのか、
普段のキレがなく、余裕でかわされる。
「く…当たらない!」
「やはり人か…脆弱なものよ」
その頃、司は地面に"陣"を描いていた。
「部長…これは!?」
「封印の儀式を行う陣よ…出来た…。
あとは陣の中心に封印するための"コレ"をおいて…」
司は陣の中心にアザラシのぬいぐるみを置いた。
「へ…?なんすか…これ?」
「何って、これに封印するのよ…。
私のあざらしのぬいぐるみ、しろよ!」
司の顔は真面目だった。
どうやら本気のつもりらしい。
「あとは私の血で封印の呪印を書いてっと…よし」
血文字で何やら紙に書いたようだ。
そしてそれをアザラシのぬいぐるみの上に置いた。
「ふぅ…あとは呪を唱えるだけだ…!
優…みのりん…もう少しよ!」
―――
――
「はぁ…はぁ……」
「ふむ…二人がかりでもこの様か…。
わらわが期待しすぎたようだな…。つまらん」
朔夜はゆっくりと瀬那に歩み寄った。
そして目前まで歩みを進めた。
「く…」
「どうした?この距離なら当てられるだろう?
かまわぬ…もうこの興も終わりじゃ…最後に一撃でも喰らってやるわ」
朔夜は自分の頬を指差して、『殴ってみろ』と言わんばかりだ。
「うわァッ!!」
瀬那は全力で顔面を殴りつけた。
パシャッ
「…!」
瀬那の拳は朔夜の顔面を貫いた。
まるで水の流れに拳を突き刺すように。
「ふふ…残念でした」
ガシッ!!
朔夜は瀬那の首筋を掴んで持ち上げた。
凄まじい力だ。
「が…がはっ……」
「いい顔だ…」
その時だった。
ドガッ!!
「!?」
朔夜は吹き飛んだ。
優に顔面を思い切り叩きつけられたのだ。
瀬那は朔夜から解放されたものの、どうやら気を失っているようだ。
「…そうであったな…。
小娘…お前はわらわに攻撃できたのであった」
ザワザワ…
「はぁっ…はぁっ……」
何…これ…やばい。
朔夜の霊気がどんどん膨れ上がってくる…!
「死ね」
朔夜は突き出した手のひらから、巨大な水弾を優目掛けて放った!
「!!」
優は紙一重で横にとび、それをかわした。
が、その水弾の進行方向は司の一直線上だ!
「つ、司ぁッ!!」
「!!しま…」
司は集中していて気づくのが遅れたようだ。
直撃…
そう思った瞬間だった。
「ふんぬぅっッ!!!!」
岡島大樹が司と陣の前に立ちふさがった。
もちろん大樹には水弾など見えてはいない。
ただ、何か危機を察知して前に飛び出したのだ!
ドッガーーーーン!!
水弾は大樹に直撃した。
「…」
「大樹…くん…?」
「…へ…へ……守っ………た……ぜ…」
そう言い残して大樹はそのまま倒れこんだ。
司は陣を離れ、大樹に歩み寄ろうとした。
「部長!!」
「!」
新二の一喝だった。
「大樹のためにも…早く完成させてください…!
部長にしか敵はどうにもできないんでしょう?」
新二は大樹の前に立ちふさがった。
「次来るなら…今度は俺が部長を守る」
「新二君…。
…わかったわ…!」
司は陣について術を唱えだす。
「ほう…いつの間に陣など…。
わらわを滅するつもりか?…小癪な人間よ」
ザッ!
優が立ちふさがる。
「やらせるものか…!」
「どけ…今度は外さぬぞ?」
ビュッ!
朔夜は一瞬にして優の目前に現れた!
意識が奪われたようだ。
「!」
優は急いで拳を顔面向けて放とうとした。
「遅いわ」
だが、その前に優の首を掴んで締め上げた。
「がはっ…」
「ふん…このまま、その華奢な細首…へし折ってくれるわ」
ギリギリッ!
締め付ける手に力が入る!
同時に苦悶の表情を浮かべる優!
「ガ……ッ…ク」
優は朔夜の手を握った。
だが、札はすでに手を離れていたようだ。
「ふん…無駄だ…あきらめろ」
ジュッ!!
その瞬間朔夜の手に物凄い熱を感じた。
「ギャッ!!」
思わず手を離す朔夜。
「な…何をした!?」
「ガハッ…はぁ…はぁ…はっ…は…」
優は自分の手を見て驚きの表情を見せた。
「こ…これは…?」
なんと優の右手に淡い紫色の炎が揺らめいている。
「…き、狐火…だと。お前…人間ではないのか?」
「狐火…?これが…?」
はっ…!
まさかあの時の…私の体内で消滅させた狐の魂の力…?
「ふん…奇怪な人間よ…。
驚きはしたが、そのような炎でわらわに勝てると思うなよ?」
確かにそうだ…。
こいつは水を操る精霊…火の力が通用するとも思えない…。
「優ッーーーーー!!」
司の叫びが聞こえた。
優は司の方向を見て、すぐに理解したようだ。
準備が整ったのだと。
優は朔夜に背を向け、駆け出した。
「ぬ…!?逃がさぬぞ!!」
バシュッ!!
バシュッ!
指から細かい水針が放たれる!
優は背や腕にそれを受けてしまった。
「あぁッ…く…」
ふらつくものの、走ることをやめず司に向かっていく。
「殺す!!!」
朔夜も躍起になって追いかける。
一瞬にして距離が縮まっていく!
優の背に手が届こうとした瞬間!
「闇に穢れし数多の霊魂よ…その身に纏う闇を祓いて、再び光を放て!
我は夕見司…我を主とし、その力を我に捧げよ!
式神の陣、聖霊回帰…!封呪!!」
司の陣から放たれる光の波動に朔夜は捕まった。
そして徐々に引き込まれ、陣の中心にあるアザラシのぬいぐるみに見事吸い込まれた。
血文字の呪印紙が焼け、アザラシに焼きついたようだ。
「…うまく…いったわ…」
「はぁ…はぁ…ッ…よかっ…よかったぁ…」
司と優の二人はその場にへたり込んだ。
「よ、よいものかっ…な、なんなのだこれは!?」
ぬいぐるみが動いて喋ってる。
「ふふ…あなたは今日から私の式神として生きていくのですわ。
よろしくねしろちゃん」
「し、しろちゃん…だと!?
わらわを誰だと思っておるのじゃ!!小賢しい人間よ!
噛み殺すぞ!!」
司は悪態をつくアザラシのぬいぐるみを抱きかかえた。
「こんな"ふわもこ"じゃ噛み殺すどころか、噛み付けないでしょ。
全然痛くないわよ」
「くぬぅうう!は、放せ!たわけもの!」
ジタバタするしろ。
「なんか、こうなっちゃうと可愛いものね。
でもそんなもの持参してるなんて…あんたはじめからこのつもりだったの?」
「な、なんのことかしら…ほほほ」
こ、こいつ…。
「まぁいいわ…。天城君が心配だから私は行くわよ!」
「あ!…いっちゃった…」
優は先ほどの疲れもあるだろうに、フラフラしながら走っていった。
「部長…岡島先輩も瀬那さんもやばいんじゃないの?」
「そうだった!二人を見なくちゃ!」
「く…わらわが…このようなふわもこの姿にされるとは…。
なんたる…なんたる屈辱じゃ…!」
―――
――
「天城君ーーーッ!!…あれは…」
な…!?
優はそこで何を見たのか…。
第17話 完 NEXT SIGN…