百合 その九
当然の事ではあるが、私は不起訴にはならずに起訴されて無事に裁判が開かれることになった。
雪さんから世間の反応を聞くことは出来たのだけれど、マスコミ各社が行った世論調査では私が死刑になるべきとの回答をしたものは全体の15%ほどだったらしい。
理由は不明なのだが、私の家の近くで私の事を誹謗中傷していた人たちが次々に謎の病に侵されて倒れていったそうだ。私が収容されている拘置所の近くでも似たような事をしている人達は何人もいたみたいなのだが、なぜか私の家の近くで抗議活動をしていた人たちだけが原因不明の病に倒れてしまったということがあったらしい。
それが一度や二度ではなく何度も何度も続いてしまっているようで、今では私の家の近くに取材に行くマスコミ関係者もいなくなってしまったそうだ。
ただ、近所に住む住人にはそのような影響も出ていないらしく、引っ越しをしない人も中にはいるとのことだ。私は何もしていないし、誰にも頼んだ覚えはないのだけれど、そう言うことになっているというのは少し面白いなと感じてしまった。藪もつつかなければ蛇が出てこないのと一緒で、何もしなければ自分になにも返ってくることなんてないのだ。逆を言えば、何もしないでいてくれれば何も起きたりなんてしないという事でもあるんだよね。
「裁判の日程が決まりましたけど、今の感じだと死刑を回避するだけではなく無罪になる可能性も出てきましたね。判決が確定するまでは喜べませんけど、私が思っている以上に世間の声は大きいみたいですよ。ライターの谷村さんも今ではテレビにたくさん出てますし、百合さんの事を見る世間の目が好奇心から同情に変わっているみたいですけど、それと同時に畏怖の念も抱いているみたいですね。百合さんが直接何かをしているというわけでもないのに、今の世の中は百合さんの事を悪く言わない方がいいという風潮になってますよ。陪審員の中だけじゃなくて、検察や裁判官の中にもそんな人がいるかもしれないですけど、ここでも高圧的な取り調べって無かったですか?」
「それが原因なのかはわからないですけど、私が想像していたよりもゆったりとした時間を過ごせていますよ。私が何も言わないのを知っているので、何かを無理やり言わせようという気持ちも無いみたいです」
「最近では強引な取り調べとかもめっきり無くなったみたいですもんね。そこは素晴らしい事だと思うのですが、裁判の前に何か食べたいものってありますか?」
「これと言って食べたいものは無いですけど、何か買ってきてくれるんですか?」
「そうですよ。朝方は割と時間もあると思いますので、何か食べたいものがあればその時に持っていきますからね。それと、最近の話なんですが、百合さんの家の近所でまた首つり死体が見つかったようですよ。身元不明みたいですね」
「へえ、本当にそうやって呼ばれていく人っているんですね」
「そうですよね。死にたいと思っている人がその思いを強くしてくれる場所に行って自殺するなんて考え方によっては間違っていないとも思えますもんね」
「どんな理由でも自殺は良くないことですよ」
「全くです。百合さんも自殺なんか考えちゃダメですからね」
「私はそう簡単に自殺なんかしませんよ。自殺するのってなんか、怖いじゃないですか」
「そうそう、谷村さんで思い出したんですけど、担当の山吹桔梗さんは百合さんの事を取り調べした女刑事のお姉さんで間違いないみたいですよ。二人が今も連絡を取りあっているのかは調べられなかったですけど、二年前は一緒に旅行に行くくらい仲良し姉妹でしたよ」
雪さんとの面会の時間も終わり、ここからはいつもの自由時間になっている。
自由時間と言っても、部屋から出ることは出来ないので、部屋の中で出来ること限定になってしまうのだが、意外と出来ることが多かったのが新しい発見だった。小さな窓から空を見上げるとそこには時々鳥や虫が飛んでいるのを見ることが出来たし、飛行機なんかが飛んでいるのも見えていたりした。今まで意識して空なんて見たことは無かったけど、こうして見てみると意外と色々なことが起きているのだという事を感じさせられるのであった。
私が今まで何気なく過ごしてきた時間の中にも多くの変化があったのだという事は感じられたのだけれど、それがこれからの私の人生にどういう影響があるのかというと何も無いだろう。そもそも、私にこれからの人生なんてあるのかなとも思うのだが、それは私が決めていいものなのかわからない。わかったとしても、その通りになるとは限らないんだよね。人生なんて意外と他人の気まぐれで変わってしまう事だってあるんだしね。それは私が一番よく知っている事だとも思うの。
私も仲良し姉妹に見えた時があったのだろうかと、それだけがどうしてもあったと言えない気持ちになっていた。 仲良しって本当はどういう状況を言うんだろうな。私にはどうしてもそれがわからなかったし、仲良し姉妹に見えていたのだとしたら、その理由は私にはなかったんじゃないかなって思ってしまっていたのだった。




