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ギ家族  作者: 釧路太郎
花咲百合編

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百合 その三

 撫子は大学を卒業してから翻訳の仕事に就いたらしく、職場に行くのは週に一度か二度くらいで、日中はほとんど自室にこもっているようだった。

 元旦那はちゃんと仕事に行っているみたいなのだけれど、私を捨てて妹に乗り換えているのに私の実家に居座るのはどういう気持ちなのか聞いてみたかった。

 父も母もその点に関しては何も言ってこなかったので、もしかしたら最初から私ではなく妹の撫子と結婚させるつもりだったのかもしれなかった。そう思った私は役所に戸籍謄本を確認に行ったのだけれど、私と優一さんの間に婚姻関係は無く、最初から結婚していないことになっていた。私の紫苑は戸籍に記載すらされていなかった。

 この事実を知った私は頭の中が真っ白になっていて、何も考えることが出来なかった。

 ただ、私を弄んだ家族と元旦那には娘の分もしっかりと復讐をしてやろうと心に誓ったのだ。


 紫苑の初盆を私一人でひっそりと済ませ、私は皆に自慢の手料理をふるまうことにした。

 撫子も手伝おうとしていたのだけれど、私がみんなをもてなしたいからと言って手伝わせることはせず。体調を崩し気味で調子の良くなかった母もこの時ばかりは嬉しそうにしてくれていた。元旦那と父は呑気にビールを飲んでいるようだった。二人ともいつからか家で煙草を吸わなくなっていると思っていたけれど、それは撫子の妊娠が分かったからだと気付いた時には、より殺意が強くなっていた。

 フルコースとはいかないまでも、前菜やスープを出してメインの調理に取り掛かることにした。

 準備はほとんど終わっているので、オーブンでじっくりと火を通すだけなのだが、こうして待っている間にもあの人たちの体にゆっくりと睡眠薬が効いてきているのだろうと思うと気が急いでしまいそうだった。


「私の分は別にとってあるから気にせずに食べて」


 そんな言葉を投げかけていたおかげで、完成したメインディッシュである丸鶏のローストを持って行った時には、前菜もスープも綺麗になくなっていた。

 撫子も母もスープを気に入ってくれたようで、レシピを知りたがっていたし、元旦那と父は前菜がビールに合ったらしくお代わりを希望していた。

 でも、そんな家族もメインの丸鶏を見ると早く取り分けてくれと騒いでいた。

 普段はあまり必要とされている気がしなかったのだけれど、この時は何年かぶりに家族から必要とされているのだと感じていた。

 でも、私はちゃんと復讐心を忘れたりはしていなかった。

 ローストの直前に出した食前酒にも、ローストにかけるソースにも睡眠薬はたっぷりと入れてある。

 撫子は食前酒は飲まなかったのだけれど、その分たっぷりとソースをかけてあげたので大丈夫だろう。

 味見をしていないソースだったけれど、家族からは好評だったようで、あれほどあった丸鶏も綺麗に平らげてくれていた。私もソースは使わずに素材の味を楽しんでいたのだけれど、妹はソースを気に入っていたようで、余ったソースをパンに塗って食べていた。

 ここでもレシピを聞かれたので、明日になったらまとめてメールするよと言ったところ、撫子はとても嬉しそうな表情で私の腕に抱き着いていた。


 睡眠薬が効いてきたのは、食事が済んで洗い物を終えて、私も一緒になってリビングで映画を見ている時だった。

 最初に眠気に襲われたのは父で、いつもよりだいぶ早い時間ではあったが寝室へと向かっていった。母もそれにつられて一緒に寝室へと向かっていた。

 元旦那も新しく作った前菜をつまみに飲んでいたのだけれど、やっと薬が効いたようでそのまま椅子にもたれるようにして眠っていた。

 撫子はまだ薬が効いていないのか無言でお菓子をつまみながら映画を見ていた。


「ねえ、お姉ちゃんに伝えたいことがあるんだけど、今日はみんな寝ちゃったみたいだから明日にするね。今日は美味しい料理を作ってくれてありがとうね」


 妹はそう言うと、元旦那にもたれかかるようにして眠りに落ちて行った。

 私は何の感情も持たないまま、映画を最後まで見ていたのだけれど、何の感想も無いまま時間だけが過ぎていた。

 映画を見終わった私は、丸鶏を捌いたよく切れるナイフを手に取って、両親が眠る寝室へと向かっていった。

 物音を立てないように慎重に部屋の中に入ると、両親は気持ちよさそうに眠っていた。

 私は両親と一緒に寝ていた小さい頃はうっすらと明るくして眠る両親の事が嫌だったのだが、今回ばかりはその事に感謝していた。

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