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ギ家族  作者: 釧路太郎
花咲百合編2

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百合 その八

 いつもと変わらない日常が続いていた。

 普通と違うことは、毎日取り調べを受けていて、その間に雪さんと会っていることと、私に自由がない事だけだった。

 取り調べと言っても、私から何か言うことも無いし、聞かれたことに答えることも無い。

 これなら解放してくれてもいいのではないかと思っていたけれど、今の私が住んでいた家に戻ってもやることが何もないのでこのままでもいいのではないかと思えていた。

 思っているけれど、同じような毎日が続いているので今がいつなのかもわからないくなってしまい、私は本当に生きているのかという実感もわいていなかった。

 何となく触った壁も床もひんやりと冷たかったのだけれど、それに触れている私の体も同じくらい冷たかったのだと思う。


 そんな時、取り調べをしている刑事がいつもの男性から若い女性に変わったのだ。

 女性同士だからと言って何か状況が変わるわけでもないのだが、少しだけ私の中に警察に対する期待感が出てきていたと思う。

 期待感が出てきていたとしても、私の身柄は警察から検察へと移るらしいので今更どうこうすることなんて出来はしないだろう。

 警察もそれをわかっているからこそ今までとは違う若い女性が私の取り調べをすることにしたのだと思う。


「初めまして。私は今からあなたに質問をさせていただく山吹ダリアと申します。質問をしてもあなたは答えてくれないみたいなので、こちらが一方的に話をする形になると思いますが、何か不満があれば発言していただいて結構ですよ。あなたがずっと黙秘しているということもあり、こちらもあなたの意見を聞こうとは思っていませんからね。私は他の刑事と違うアプローチであなたの事を調べてきたのですが、あなたは木戸菖蒲さんという女性をご存じですよね?」


 菖蒲ちゃんの名前を出されて私は少し反応してしまったけれど、雪さんに言われた通りに私は無言を貫いていた。無言を貫いていたけれど、刑事の口から菖蒲ちゃんの名前が出てくるのは初めてだったの動揺してしまったかもしれない。


「あなたは木戸菖蒲さんの事を友人だと思っているみたいですが、木戸さんが本当はどう思っているか気になりませんか。気になりますよね。あなたはきっと木戸さんが自分の事をどう思っているのか気になって仕方ないですよね。安心してください。木戸さんに話を聞いたのは私ともう一人の刑事だけですから。木戸さんは言ってましたよ、あなたみたいな自分を偽る人と一緒にいる時間は苦痛でしかなかったって。そうそう、何か事件を起こすだろうとは思っていたけれど、家族を殺すのは意外だったなって言ってたかな。でも、あなたが友人だと思っていた人はそういう目であなたを見てたんですかね。何も言わないってことは、花咲さんご自身にも思い当たる節があるってことですか?」


 私はこの刑事が嘘をついていると確信している。

 なぜなら、菖蒲ちゃんは絶対にそんな事は言わないのだ。

 思ってたとしても、こんな刑事に言うはずはない。


「おやおや、親友の名前を出されたらもっと動揺するかと思ってましたけど、意外とそうでもないんですね。もしかして、あなたも木戸さんの事を友人と思っていなかったってことですか?」

「違う。取り消せ」

「あ、花咲さんはお話しできるようになったんですね。取調室だと何も話せないみたいですし、いつも楽しそうに話している面会室の方がいいのかなって思って、今日から取り調べの場所を変更しようと思ってたんですけど、その心配はいらなそうですね。で、菖蒲さんは本当にあなたの友達だと思ってるんですか?」

「……。」

「そんなに睨まないでくださいよ。私だって好きでこんなことを聞いているわけじゃないんですからね。いいですか、あなたは自分の家族を間違いなく殺しているのです。それは事実として認めていますよね。ただ、あなたは肝心の殺人を行った動機を一切教えてくれません。もしかしたら、あなたの弁護士やマスコミが言うように呪いの力によって突然殺人衝動に駆られてしまったのかもしれません。でも、そんな事は警察も検察も司法も認めるわけないんです。いくらマスコミが騒ぎ立てて悪霊や呪いのせいにして民衆を惑わせたとしても、我々はそんなことに屈したりしません。精神鑑定だってすべてが正しいとは思っていませんし、今だってやり直し請求を行っているところなんです。あなたが今の弁護士に黙秘するように入れ知恵されているのはみんな知っています。あなたが何か喋ることであなたにとってプラスになることが何もないのは理解しています。逆に、あなたが喋ることで自分自身の首を絞める結果になることも知っています。ですが、本当にそれでいいと思っているんですか。あなたは自分が殺した家族に対して申し訳ないという気持ちになることは無かったのですか?」


 私が家族に抱いている感情なんて何もない。

 私だけが生きている今の世界と、私だけが死んでいる仮の世界。

 二つを比べてみてもそれほど違いがあるのかは私にはわからないのだ。


「そうですか。あなたは自分の家族に対して何の愛情も持ち合わせていないんですね。そんな人だろうとうすうす感じてはいましたけれど、実際にこうして目の前で見てそれが本当なんだと確信しました。今みたいな状態で再鑑定をお願いしてもあなたにとって有利な結果になりそうだって思いますし、今の状況で妥協するのが一番いいかもしれませんね。最高裁までもつれるかわかりませんが、少なくとも一審ではあなたが死刑になることは無いでしょう。陪審員がどのような答えを出すかはわかりませんが、我々としてもあなたがきちんと罪を償ってくれることを期待していますからね」


 女刑事は本当に残念そうな顔で私を見つめていた。

 彼女がおもむろに席を立って私の隣に立つと、私の耳元で他の人には聞こえないような声量で囁いた。


「あなたの記事を最初に書いたライターの人を担当している編集者って私の姉なんですよ」


 それだけを言い残して彼女は取調室を出て行った。

 私は言われた言葉の意味が分からないままだったけれど、女刑事と入れ替わりでやってきた初老の刑事は私に興味なんかないといった素振りで横を向いて座っていた。


 今まで受けてきたどの取り調べよりも、今日の取り調べが一番驚いたと思う。

 それにしても、菖蒲ちゃんの話が女刑事の言う通りだとしたら、面会に一度も来ていないのも納得できてしまうのではないかと思ってしまった自分がいた。

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