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第8話 洞窟を抜けた先には

塩を求めて洞窟に挑む三人。

魔物はいるのでしょうか。

 一週間分の食料や俺がお願いした使い古しの盾、その他荷物のほとんどをミソルさんが持って、俺たちは洞窟へ向かった。

 二人の暮らすこのグルトンという町は人口およそ2万人と、このあたりでは中程度の町らしい。グルトン市はセボン王国という大きな国の辺境に位置し、その支配下にあるらしいが、ある程度の自治を認められているのとのことだった。


「しかし、ミソルさん。いい体してますよね。鍛えたりしてるんですか?」


 どこか現場主任に似たこのオヤジに俺は好感を持ち始めていた。


「鍛えてなんかいないさ。日々仕事してるだけで自然にこんな体になったってもんだね」

「やっぱ肉とか好きなんですか?」


 聞いてから俺はしまったと思った。この世界に肉食という概念は無いのだ。


「肉? あぁ、嫌いじゃないけど、あれはやっぱり気持ちいいもんじゃないね。 あの肉をぶった切った時の感覚はな」


 やはり食べ物という意識は全く無いらしい。一体それでどうやってその肉体を維持しているのだろうか。

 元の世界でほとんどイモしか食べずに暮らしている部族の話を俺は思い出した。この世界の住人は特別な体質、特別な腸内細菌でも宿しているのだろうか。


 ちなみにミソルさんの能力はこのくらいなのだそうだ。


□□□□□□□□□□□□□□□

ミソル・ダーイズ

37歳 男

レベル   16

攻撃力  132

防御力  108

知力    43

体力   157

攻撃魔力   0

回復魔力   0

クラス   戦士

スキル   剣技

□□□□□□□□□□□□□□□


 まだ比較対象が無いのでよく分からないが、少なくとも俺が束になってかかっても勝てないであろうことは想像できる。


 市街地を出ると、やがて一面の小麦畑が広がる大平原に出た。シュガーの話によると、同じく西側の河川付近には水田が、南の山の麓にはじゃがいも畑があるらしい。

 その広大な三つの農地は、農業に従事する実に全人口の約半数の市民で管理・耕作しているらしい。

 

「しかし、どうしてその三つなんだろうね。他の作物は作ろうと思わないの?」

「えっ? 作物って他にもあるんですか? そりゃあ雑草なんかは生えてきますけど、食べられたもんじゃないですよ」


 どうやら三種の主食以外に食べ物があるという概念がそもそも無いらしい。

 しかしそれだけでは俺が栄養失調で、いや、美味しい物が食べられない淋しさで死んでしまう。

 何から手をつけて食ライフを充実させるか、俺は風に揺れる一面の小麦を見ながらいつになく真剣に考えていた。


 洞窟の入り口には一時間ほどで辿り着いた。

 海辺に繋がる出口があるのだから本来はどちらかというとトンネルと呼ぶべきだが、その出口が見つかったのが数年前のことで、慣習によりここはまだ『北の洞窟』と呼ばれているらしい。


 入り口付近は多少整備されており、壁には灯のともった蝋燭も設置されていた。以前は鉱物なども掘削されていたとミソルさんが教えてくれた。


「子供の頃には良く遊びで入って叱られたもんさ。ワフウの奴……シュガーちゃんの親父さんも一緒にな」

「仲が良かったんですね」

「だなぁ……性格や趣味なんかは正反対だったんだが、不思議と気があってな」


 ちらりとシュガーを見ると、彼女は楽しそうにその思い出話を聞いていた。父親を思い出してセンチになっていないだろうかと心配していた俺はホッとした。


「そういや、奴は当時からこの先に何かとんでもない物があるって言ってたな。勿論、子供だった俺たちには入り口近くしか行けなかったんだけど」

「鑑定士の感って奴ですかね」

「そうだな。無骨な戦士家系の俺にはさっぱりわからんけどね」


 先頭を歩くミソルさんに、俺たちは必死の思いでついていく。重い荷物を背負いながらなんてスピードだ。

 やがて洞窟の中は闇の度合いを増し、岩肌はごつごつして足下も覚束なくなってきた。

「気をつけろよ。そろそろ魔物が生息している場所だ」


 シュガーが俺の腕をぎゅっとつかむ。俺の頼りない能力ステータスは知っているだろうに、鑑定士といえども、このあたりはやはり普通の女の子だ。

 虚弱ながらもこの子を守らねばならない。頼むよミソルさん、と俺は他力本願に願った。

 その時……


「ぐるぅぅ……」


 大型犬サイズの生き物が二匹、目の前に立ちふさがった。

 鋭い爪、血走って光る眼光。額には小さな角。明らかに俺の知っているワンコでは無い。これが魔物か。


「下がってろ」


 ミソルさんが、手で俺たちに合図する。


「気を付けて下さい! それぞれ戦闘力300程度です!」


 さっきまで怯えていたシュガーが杖を翳すと、彼女の手のひらにそれを示す文字が浮き出る。瞬時に魔物の強さを鑑定したのだろう。


「戦闘力だけなら、こうやって簡易的に鑑定できるんです」


 それは必然かもしれない。緊迫した時にお腹なんか見れないものな。


「ほぉっ……思ったより強いのが出てきたな」


 ミソルさんの呟きに俺は緊張した。

 刹那、魔物が彼に飛びかかる。


「うぉっと!」


 すれ違いざまに一閃を浴びせたミソルさん。

 たちまち魔物は腹を切られ、キャンと泣いて地面に横たわる。

 しかしミソルさんもまた腕を噛まれたようだ。

 血が滴るのを見てシュガーが悲鳴をあげる。


「女の子を泣かしちゃいけないなぁ」


 ミソルさんはもう一匹の魔物に近づくと、両手で剣を振り下ろした。

 避けようとした魔物だが、ミソルさんの剣の方が速かった。


「いっちょ上がりだよ」


 魔物の体から血が噴き出すのを見届けて、ミソルさんは剣を鞘に仕舞う。


「怪我は無かったか?」


 ミソルさんがこちらを振り返ったその時、シュガーが絶叫した。


「危ない!」

「何ぃ!?」


 なんと倒した筈の魔物が再び立ち上がって、襲いかかってきたのだ。

 俺は咄嗟にシュガーに覆い被さった。

 しかしミソルさんも流石の腕前だ。すぐに剣を引き抜くと、後方に一撃。見えてもいない魔物を両断してしまった。


「油断しちまったな。以前はこんなに強い魔物はいなかったんだけどなぁ」

「ミソルさん、怪我の処置をします!」


 パーティーに回復役はいないので、シュガーが包帯で彼の手当をする。

 大げさだなといいながらもミソルさんは嬉しそうにしていた。



 その後は魔物にも会わずに、洞窟探検は順調に進んだ。

 途中、二股、三叉路と先を迷うような箇所もあったが、俺は潮の匂いを感じた方を選んで無事出口に辿り着いた。


「学者の兄さん、犬並みの嗅覚だね」

「ホント、私にはなんの匂いも感じないのに」


 褒められても俺は当惑するだけだった。現世にいたころから、どちらかというと俺は鼻炎体質で、臭いに鈍感だったのだ。昨日から味の薄いものしか食べていないので、感覚が研ぎ澄まされているのだろうか。


「おおっ!! これが海ってやつか!」

「す、凄すぎて言葉が出ません……」


 出口から更に歩いて半日ほど。

 俺たちは無事目的地に辿り着いたのだった。


評価下さった方、本当にありがとうございます。

初めてですので感激しました!

次回ようやく海に到着です。

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