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第55話 バベルの塔攻略(後編)

「この塔に来た事があるってこと?」

「はい。記憶が曖昧なのですけど、前にも見た事がある感じなのです、でも何か違う気もしますし……」

「不思議な事もあるものですねぇ」


 すっかり話題の中心はヴィネちゃんの記憶になってしまった。

 しかし俺も覚えがあるとはどういう事だろうか。はっきりとはしないのだが、何かこの塔には既視感(デジャビュ)のようなものを感じるのだ。


「まぁ、ここであれこれ言ってたって仕方ねぇ。折角ここまで来たんだ。さっさと『攻略』してしまおうぜ」


 ミソルさんの言葉に皆が頷き、彼を先頭に俺たちはバベルの塔に足を踏み入れた。

 ベベルの塔というと絵画に描かれたような円形(円錐)状の建物を想像するが、この世界のバベルの塔はどちらかというと角張っている様子だ。もちろんその最下層から見上げただけの印象なのでなんとも言えないが。

 その巨体は全体を蔦のような植物に覆われ、頂上部は遥か天空の彼方にある。

 近くに寄ると、その材質は石のようなもので出来ているのがはっきりと分かった。


「ん? 石か、これ?」

「どうした。何かおかしな事でもあったのか?」


 俺の独り言を聞きつけ、ミソルさんが訝しげな顔をする。


「いえ、なんでもありません」


 いくらなんでも、そんな筈無いだろう。

 この世界ではオーパーツにも等しいものだぞ。


「やはり、中は魔物の棲み処と化していたようだな」


 鉄製らしい門扉のようなものを通り抜け中に入ると、早速幾多もの魔物が襲いかかってきた。


「まったく、面倒なことだぜ」

「さっさと攻略してお昼にするです」


 再びミソルさんとヴィネちゃんのコンビが敵を圧倒する。

 ヴィネちゃんはすっかり戦闘にも馴れてきた様子で、敵の姿態に合わせて炎系、氷系の魔法を使い分け効率よく魔物を倒していく。


「目指すは最上階でいいんだろうな」

「はい、そこに何かがある筈なんです!」

「とびっきり旨いものを期待してるぜぇっ!」


 ミソルさんの技も益々冴え、一筋縄でいかない魔物も次々とフロアに倒れていく。


「上に行ける場所はどこでしょうか?」


 二人が戦っている間に、俺たちは上層部に向かう方法を探す。すぐに目に止まったのはいかにもとってつけたような鉄製の階段だ。

 いったい誰がこんなものを用意したのだろうか。


「いや……まさか……」


 俺はこの階段にも見覚えがあった。

 あまつさえこれを昇った記憶もあるのだ。


「どうかしましたか、カラスマさん」


 シュガーに言われ、俺はハッとした。

 今はとりあえずここを攻略するのが先決だ。


「いや、なんでも無い。上に行こうか」


 あらかた一階の敵を片づけたミソルさん達と共に、俺たちは二階に駆け上がる。一階と同じような何も無いだだっ広いフロアに何本かの柱。

 そこには異形の魔物がまたもや巣くっていた。


「これを繰り返して昇っていく訳だな」

「魔力が続くか心配ですから、少し省エネでいくですよ」


 省エネってなんだよと俺が突っ込んでいる間も無く、二人は二階の敵を一掃していく。


 俺たちはそんな風にして、何階も、十何階も、何十階もフロアを攻略していった。


「いよいよ、最上階っぽいな」


 階段の先頭に立つミソルさんが、感慨深げに呟く。

 登り切ったその場所は地上遥か、指折り数えた階数だと地上40階にも達していた。

 最上階には屋根も壁もほとんど無く、見下ろす地上には広大な死の森が一面に広がっていた。


「おい、見たところ何もねぇぜ」

「ボスっぽい敵を期待したんですけど、残念でありますねぇ」


 妙に自信を深めたヴィネちゃんの落胆を横目に見ながら、俺は眼下に広がる或る意味気持ちの良い風景を眺める。

 やはり俺はこの塔を知っていた。

 もちろん、この風景に覚えがあった訳ではなく、高層階から地上を見下ろす感覚がそれを思い出させてくれたのだ。


「大したもんはなさそうだけどなぁ」

「ミソルさん、真面目に捜して下さい。折角ここまで昇ってきたんですから」

「うーん……綺麗な景色ですねぇ」

「お腹空いたですぅ……この壮大な景色を見ながらお昼ご飯にしませんか?」


 ヴィネちゃんの言葉が俺を更に郷愁に誘う。


 一見、何もなさそうなこの最上階だが、俺は操られるようにその片隅にあるお気に入りの場所(・・・・・・・・)に引き寄せられた。

 一歩一歩、俺は最上階を歩く。もう間違い無い。その足下は丁寧に加工された石、ではなくコンクリート(・・・・・・)だ。


「あれ? 何か見つけたんですか?」


 俺の後ろをついてきたシュガーが、不思議な物を発見したような声を上げた。


「なんでしょうね、これ?……こっちは本みたいですけど……」


 床に置かれていたのは、何冊かの分厚い本。

 一番上の表紙には『世界調味料大全』と日本語で書かれている。


「この本が目的だったんですか?」


 本来なら手放しで喜ぶところだが、俺はシュガーの質問に頷きながらも動揺を隠せなかった。


 その本の傍には、あの日(・・・)俺が喰っていた食べかけのカップラーメンが、風化したその姿を晒していたのだから……


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