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第54話 バベルの塔攻略(中編)

「お二人さん、昨日はお楽しみでしたね」


 目が覚めると、ヴィネちゃんのニヤニヤとした顔が飛び込んできた。


「うわっ!」

「きゃぁっ!」


 寄り添ったまま寝ていた事に気がついた俺たちは慌てて飛び起きた。


「ち、違うんだ……これはだね……」

「そ、そう。わ、わたしが寒かったから、カラスマさんに!」


 慌てながら二人でそう言うと、したり顔のヴィネちゃんは俺たちの肩をぽんと叩いて言った。


「いえいえ、キューピッドを自認していた私としても嬉しい限りですよ。二人ともいい歳なんですから、こういう事があってもいいんですよ」

「だから、違うんだって!」


 上着のボタンが開いたままなのに気づき、慌てて留めるシュガー。昨日の鑑定の事を話す訳にもいかず、俺たちはヴィネちゃんに誤解されたままにするしか無かった。

 とりあえず、まだ眠っているミソルさんやナタリーさんに見られなかっただけ良かったかもしれない。



 コカトリスの目玉焼きのせご飯という簡単な朝食を終えると、俺たちは再びバベルの塔に向かって歩き出した。

 だが奥地に進めば進むほど魔物は強力になり、ミソルさんとヴィネちゃんをもってしても流石に鎧袖一触とはいかなくなってきた。

 巨大な蛇と人間の混じったような奴、巨木に擬態して枝を絡めてくる奴、極彩色の火を噴くトカゲなど、ミソルさんでさえ話にも聞いた事の無い魔物はシュガーの鑑定により、なんとか対処する事ができた。


「あれ? これってなんでしょうね?」


 そして俺たちがようやくバベルの塔の一歩手前まで来たとき、ヴィネちゃんがそのおかしな物を発見したのだった。


「うーん、どうみても骨だな。白骨ってやつだ」


 見れば、地面には大小様々な亡骸の果てが大量に転がっている。人間のような頭蓋骨もあるがそのサイズは子供くらいしかない。


「まさか街の子供が攫われて……」


 シュガーの震える声をミソルさんが否定する。


「いや、こんな奥にまで住んでいる魔物がわざわざ街にまで攫いにこないだろう。それにそんな奴が街に侵入してきたら大騒ぎになってる筈だ」


「じゃあ、これはなんの骨なんでしょう?」

「わたし、見た事ありますわ」


 骨の前に座り、その一本を手に取って言ったのはナタリーさんだった。


「これは多分ゴブリンさんの骨です。昔、院長がちょっとしたお金儲けの為に使った事がありまして……」

「お金儲け?」

「はい。この骨を人間の子供の骨と称して、供養する振りをして喜捨を集めたり、伝説の魔物の遺物だとして拝観料を取ったり……」

「あ、もういいです」


 聞いてるだけで胸くそ悪くなってくる。


「でも、どうしてこんなところにゴブリンの骨が」


 俺がそう呟くと、ミソルさんも同意した。


「確かにおかしいな。あいつらはそんなに強くないから、精々森の入り口あたりにしか徘徊していない筈だ。おまけに臆病だから、こんなに奥地にまでエサを捜しに来る筈もないだろうしな」

「それにしても綺麗に食べられてますねぇ。まるでカラスマさんが調理したみたいですよ」

「嫌な事言うなよ。いくら俺でも人型の魔物はちょっと遠慮したいよ」

 シュガーにそう言い返してから、俺は嫌な仮説を思いついてしまった。


「強力な魔物が入り口あたりで捕まえたゴブリンをここまで運んできて召し上がったというのはどうでしょう?」

「うーん。あり得るかなぁ? だが、どうしてまたわざわざゴブリンなんだ?」

「あっ」

「何があっ、だ。まぁ、気にせず先に進むか」

「いや、違うんです。恐らく、あいつの仕業です」


 俺はミソルさんの後方に指を伸ばす。

 そこには恐ろしい姿をした、人型の魔物が立っていたのだ。


「ひぃぃっ!!」


 その風貌を見たシュガーが悲鳴を上げる。

 人間サイズのその体格こそ大きくないが、体中に眼と口のようなものを幾千個も浮き上がらせ、長い髪を振り乱し、訳の分からない言葉を叫び続けるその姿は、俺たちを怯えさせるには十分だった。

 例えて言うなら、某有名和製ホラー映画の女性キャラをグロ特化異形にしたとでも表現できるだろうか。


「ぎぃいえあああああああぁぁっ!!」


 どこで手に入れたのか、ナタのようなものを振りかざして魔物は俺たちに襲いかかる。

 すんでのところで躱したミソルさんだったが、左手にはこの遠征初の傷を負っている。


「戦闘力、およそ12000です!」

「ようやく、倒しがいのある奴が出たな」


 シュガーの叫びにミソルさんが呼応する。


「フレイムバーゾンッ!」


 ヴィネちゃんの炎系最強魔法の攻撃。


「うああああぁぁぁぁっ!」


 たちまち業火に包まれる魔物。


「やったか!?」


 だが魔物は火に包まれたまま再度俺たちに襲いかかる。


「えええっぇぇぇいいいいあああっつういいいいっ!!」

「耐火仕様ってか?」


 ミソルさんはそれを躱し、魔物の左足を切り落とした。


「ナイスですっ!」

「おおおおっっ!!」


 さすがに攻撃が効いたのか、魔物は距離を取って苦しんでいる様子だ。片足では立っているのがやっとのようだ。

 だが、ぷすぷすと火が燃え尽きた後、俺たちは信じられない光景を目の当たりにした。


「おいおい、冗談じゃねぇぞ」


 魔物の全身の火傷の痕はみるみる間に消えていき、その左腿からはにょきにょきと足が生えてきたのだ。


「これじゃあキリがないぞ」


 回復能力が高すぎる。

 まるでナタリーさんじゃないかこの魔物。

 あっ。

 またもや俺の頭に嫌な仮説が宿った。


「シュガー、あいつの右手首、弱点じゃないか?」

「どうしてですか?」

「なんとなくそんな気がするんだ、そこだけを集中鑑定してくれないか?」

「分かりました。やってみます、しばらくかかると思うので時間を下さい!」


 シュガーが杖を掲げる。


「きしゃあああぁぁっ!!」


 その間にも魔物は俺たちに襲いかかる。

 ミソルさんも剣技で対応するが、戦闘力で勝る魔物は段々と攻勢を強めてくる。 何度手足を切り落としても、首を刎ねても復活してくるのだから始末に負えない。


「きゃあぁぁっ!」


 幾度もの攻防が繰り返された後、魔物の口から吐き出された液体がヴィネちゃんの足にかかり、慌ててナタリーさんが救護に駆け寄る。


「おい、このままじゃやばいぜ!」


 補助役を失ったミソルさんが弱気になったその時、シュガーが叫んだ。


「分かりました! 魔物の右手首が弱点です! 斬り落とすだけじゃ駄目ですから、同時に凍らせて下さい!」

「あいよ!」


 ミソルさんがナタを持った魔物の右手に攻撃を集中させる。

 同時に傷を癒やされたヴィネちゃんが立ち上がった。


「氷系は得意じゃないんですけど、僭越ながら……」


 そう言いながらも、見ている俺たちも凍えるような冷気を纏うヴィネちゃん。


「ブリザードグライムッ!」


 ミソルさんが斬り落とすと同時に、一点集中させた氷の矢がその手首を包み込む。


「あっ……あぁっ!……あああああああああぁぁっ!!」


 魔物の攻撃が止まる。

 今までいくら手足を失っても平気だった魔物が、右手首を失っただけで致命傷を負った様子でその場に倒れてしまった。


「恐ろしい魔物でしたわねぇ」


 やがてうつぶせのまま完全に動かなくなった魔物に、ナタリーさんが祈りを捧げながら呟いた。

 彼女の祈祷と共に、魔物は灰と化していく。


「みなさん、大丈夫ですか? やっと役に立てて良かったです」


 シュガーがホッとした様子で言った。


「でも、カラスマさん。どうして魔物の弱点が分かったんですか?」

「う、うん。それはまぁ……食道楽(エピキュリアン)の勘だ」

「そうなんですか? でも食道楽(エピキュリアン)ってそんな能力でしたっけ?」

「まぁいいじゃないか。さぁ、いよいよバベルの塔に向かうぞ」

「なんか、お兄ちゃんアヤシイですねぇ。なにか隠蔽してるです?」


 政治家の汚職みたいな表現で随分怪しまれている様子だが、俺には真実を言える筈も無かった。


 あの魔物の正体がナタリーさんの複製(・・・・・・・・・)だということを。


 恐らくこの森で初めて会ったあの時、ゴブリンが瀕死のナタリーさんから引きちぎった右手首から、魔物ナタリーさんが生まれてしまったのだ。

 トカゲの尻尾の如く、腕や足を失ってもすぐに復活するナタリーさんの治癒能力だ。想像したくも無いが、ゴブリンが弁当のように持ち帰った手首からナタリーさんの右腕胸部臀部から左手右足左足が生えてきたのだろう。

 そしてゴブリンたちは、その魔物ナタリーさんに逆に喰われてしまったのだ。

 驚嘆すべし回復力だが、やはり頭部以外から再生したナタリーさんは人間にはなれなかったようだ。


 しかしこれも死の森のなせる技なのだろう。

 でなければ、ナタリーさんが爪を切っても髪を切ってもそこからわらわらと再生してしまうではないか。

 いかん。想像したらちょっと気持ち悪くなってきた。


「どうした、顔色が悪いぞ」

「いえ、なんでも……おえっぷ」

「まったく。お兄ちゃんはだらしないですねぇ。シュガーおねぇちゃんの前ですから、もっとちゃんとして下さい」

「なんでぇそりゃ?」

「大人には関係の無い話ですよ」



 それからも俺たちは歩き続き、とうとう目の前にあの『ベベルの塔』がそびえ立つ地に辿り着いたのだった。


「あれ?」

「どうした? 食道楽(エピキュリアン)がまた反応したのか?」

「いえ、違うんです……」


 俺が説明しようとしたその時、ヴィネちゃんが先に口を開いた。


「あれぇ……あたし、この塔になにか記憶を感じるです」


「なんだとぅ!?」

「本当ですか?」

「不思議ですねぇ」


 みんな一斉に驚いている。

 またしても良いところを取られてしまった。

 いや、俺も同じ事を思ってたんだけど。


 俺、この塔を知ってる気がするぞ。


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