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第5話 丘平の能力鑑定

シュガーちゃんのお仕事の話です。

「実は私、鑑定士をやってるんです」

「鑑定士?」

「鑑定士を知らないんですか!? カラスマさんって、どちらの出身ですか?」


 本当のことを言っても益々話がややこしくなるだけだろう。

 俺は適当に答えることにした。


「長く旅を続けてきたからね。故郷のことなんて、もう忘れたさ」


 なに、このハードボイルドな台詞。

 自分で言って俺は顔を赤くした。


「そうですか。食べ物のことといい、カラスマさんの暮らしていた国とは随分文化が違うみたいですね」


 シュガーは納得したように頷くと、子供に言い聞かせるように説明してくれた。


「鑑定士っていうのは、人や動物、時には無機物のレベルや能力を読み取るお仕事です。もちろん生まれ持っての才能が必要ですけど」


 少しだけ鼻をぴくつかせてシュガーは続ける。


「私の家は代々、鑑定士の能力を持った子供が生まれるんです。それで、私も両親を亡くしてからこの力でこの仕事をやって、生活してるんです」


 RPGでいうところの、ステータス画面が見えるってことか。


「そうか。まだ小さいのに偉いんだね」


 この世界の孤児率がどれくらいなのかは分からないが、少なくとも目の前の彼女の健気さは十分に伝わってくる。

 シュガーは満更でもなさそうにしながら「子供扱いしないで下さい」と拗ねるように言った。


「で、俺の能力はどうだったの?」

「うーん。それはですね……詳しく知りたいですか?……」


 何故か頬を染めて聞き返すシュガー。


「そりゃあ気になるよ。自分のことだからね」


 健康診断の結果を待つ気分になってきた俺。


「じゃあ、詳しくご説明しますね。あんまりジロジロ見ないで下さいよ」


 少し躊躇したあと、シュガーが上着の裾を捲り始めたので俺は驚いた。


「ちょ、ちょっと!」


 ホントに健康診断かよ。いや、なら女医であるシュガーちゃんの前で服を脱ぐのは俺の方か。

 すこしばかりパニックになった俺の目に飛び込んできたのは、ほどよく引き締まった彼女のお腹。

 その白くてきめ細やかな肌に、不思議な色で文字が浮かんでいる。


□□□□□□□□□□□□□□□

キュウヘイ・カラスマ

28歳 男

レベル    3

攻撃力    3

防御力    4

知力   128

体力     5

攻撃魔力   0

回復魔力   0

□□□□□□□□□□□□□□□


「鑑定結果が、ここに出る体質なんですよ」


 恥ずかしそうに、説明してくれるシュガー。


「ある程度の結果は頭に浮かんでくるんですけどね、細かい数値はやっぱりここを見ないと」


 俺は数字を眺めるが、ちっとも頭に入らない。


「あのぉ……もう服を着ていいですか?」


 これでは少女に脱衣を強要している変質者のお兄さんだ。

 一も二もなく俺は首を何度も縦に振った。


 上着を下ろしたシュガーは、さきほどの結果を羊皮紙に書き写してくれた。

 まだ頬が朱に染まっているが、プロ意識でそれをかき消そうとしているのが分かる。


 肝心の俺の能力値は、ほとんど一桁。

 説明されなくても低い能力なのは分かる。


「はっきりいって酷い能力です」


シュガーが追い打ちをかける。


「まずカラスマさんのお歳でレベル3っていうのは信じられないです。上級貴族の箱入り娘なら二十歳で同レベルってのも見た事ありますけど。

 攻撃力3、ってこれは児童レベルですね。今までの私の経験からすると7歳児の平均くらいです。

 防御力4、っていうのは、そうですね。魔族で無いそこらへんの野犬に噛まれて即死のレベルです。

 知力だけはスゴいです。同年齢の平均値を遙かに上回っています。

 それから体力、これが一番酷いですね。一日畑を耕せば倒れるくらいの数値です。虚弱体質といって差し支えありません。

 そして最後の魔力ですが、これは生まれもっての体質や血筋に起因するものが大きいですので、ゼロでも気にすることは無いですよ」


一気に言い切ってしまうと、シュガーは俺に疑いの目を向けた。


「カラスマさん、旅人とか迷い人とかって嘘でしょ?」

「え?」

「こんなパラメータで、遠くから旅してこれた筈がありません。一日に二度死ぬ勢いです」


 007かよ。可愛い顔してそんな簡単に殺してくれるな。


「ひょっとしてカラスマさんって……」


 俺はゴクリとつばを飲み込んだ。

 転生者とかいう正体がばれて村長に通報され、異端者として火刑にかけられるという、自分の豊かな想像力がいやになる。


「学者さんでしょ」

「へっ!?」


「だって、こんな粗末な肉体能力を持つ人なんて、私の鑑定家人生で初めてですもの。知力だけはまぁまぁ高いところから想像するにそれしかありません!」


 シュガーは俺に向かってびしっと人差し指を指し示した。

 決めポーズのつもりだろうか。


「や、やぁ……ばれちゃったか……そう。俺は学者だよ」


 俺は誤解を利用することにした。

 確かに機械も道具も少ないファンタジー世界の住民に比べれば、俺の腕力と体力の無さは誤魔化しようもないだろう。

 ならば知的職業としてなりきるしか無い。


「そ、そうじゃ。

 実は『海』と『塩』の研究の為にこの町にやってきたのじゃ」


 おっと、うっかり老人けんじゃのような口調になってしまった。


「あ、いや…そういうことなんで、さっきの話、協力してくれるかな?

 誰か、頼れる戦士の知り合いとかいない?」


 こうなれば成り行き任せ。俺は塩を求めて冒険に出ることを決意し始めていた。

 ところがシュガーは、先ほどの饒舌状態とは裏腹に、ぼーっと宙を見ている。


「あの……シュガー?」


 比喩で無く目の色が変わり、何かに乗り移られたかのような表情の彼女に、俺は遠慮がちに声を掛けた。


「見えます……」

「えっ?……何が?……」

「見えます。カラスマさんの能力が……」

「それはさっき見てもらったのでは?」

「違うんです……もっと……もっと見えるんです!」

「も、もっと、って!?」

「あ、熱い……お腹が!」


 彼女は突然下腹部を押さえると、苦しそうに顔を歪ませた。


「だ、大丈夫!?」

「だ、駄目!……もう抑えきれません!」


 シュガーは再び立ち上がると俺の目の前で、なんと下に穿いているスカートを下ろそうとするではないか。


「どうです!?……読めますか!?……」


 苦悶しながら尋ねるシュガー。

 その、可愛いお臍の下。少しばかりHな部分に新たに現れた文字。

 それは確かにくっきりと読み取る事が出来た。


□□□□□□□□□□□□□□□

クラス 調理師

スキル 食道楽エピキュリアン

□□□□□□□□□□□□□□□


なんだそりゃ。


なかなか成り上がりませんが、こういうのは溜めが大事です。

もうしばらくお付き合い下さい。

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