第46話 束の間の宴(前編)
ナタリーさんが来てくれてから、カラスマ亭は更に破竹の勢いで発展していった。
まずは彼女の経験を生かしたキノコの活用だ。ナタリーさんご自慢のキノコ鍋は塩だけの味付けながら、キノコから湧き出てくる滋味が堪らない旨さで、特に季節が冬にさしかかった事もあって大ヒット商品となった。
キノコは他の料理の付け合わせとしても活用でき、キメラステーキには焼きキノコを、鮭定食には佃煮風の塩漬けキノコを新たにつける事が出来た。塩漬けキノコはおにぎりの具としても中々にマッチして評判となった。
次にリアンダー君がコカトリスの飼育と繁殖に成功した。俺たちはいつでもコカトリスの卵を食べられるようになり、ゆで卵、目玉焼き、卵焼きの三大卵料理が新メニューに加わった。
前世での鶏の卵より少し大きめのコカトリス卵は、煮ても焼いても濃厚な風味が堪能でき、とりわけ取れたての卵で作る卵かけご飯はまかない料理として絶大な人気を誇った。
ただ家庭に冷蔵庫のないこの世界では、生卵は衛生管理上非常に難しい物があると思われたため、この料理はカラスマ亭秘伝極秘のまかない専門料理とする事とした。
ちなみにカラスマ亭では、北の高山から業者が運んできた氷を使った冷蔵庫で肉などを保管している。この氷は1貫目(3.75kg)で金貨2枚という高価なものだが、食材の保存には欠かせない。
また、コカトリスは肉としても非常に有用であり、その味は前世界での鶏肉そっくりであった。
もも肉は適度に脂が乗っており『コカトリスの塩焼き』はキメラステーキと並んで男性人気トップのメニューとなった。
更に胸肉を小さく切って卵で閉じてご飯に乗せた『親子丼』も開発した。タマネギの甘みとさっぱりとしたお肉が女性に人気となり、こちらは特に持ち帰りでも良く売れるようになった。
キノコ鍋は銅貨5枚(500円。二人前より承ります)、ゆで卵・目玉焼き各銅貨1枚(100円)、卵焼き銅貨2枚(200円)、コカトリスの塩焼き銅貨3枚(300円)、親子丼銅貨3枚(400円。大盛り+銅貨1枚)とリーズナブルな価格での販売だったが、既存の料理も含めてそれぞれは売れに売れ、薄利ながらも塵も積もって俺たちはちょっとした財産を蓄える事が出来た。
そこで、ずっとシュガーの居候か官舎での暮らしだった俺は思いきって自宅を購入し、すぐそばにカラスマ亭の2号店を建てる事にした。
さらに本店(1号店)の隣に従業員の宿舎を建てた。これでマンスリー宿屋に泊まってもらっていたナタリーさんも落ち着く事ができるだろう。
そうこうしているうちに冬が過ぎ、春の訪れが感じられる頃、あっという間に俺がこの世界に来て一年が過ぎたのであった。
「おめでとうございまぁす!」
誕生日ケーキを前に俺は今、猛烈に照れている。こんな事をしてもらうのは小学生の時以来だ。しかも出席者の半数は女の子なのだ。29歳にして俺の人生絶頂期が来たのだろうか。いや、一度死んでるんですけどね。
実は今日は俺の誕生日という訳ではない。この世界の暦に合わせた誕生日が不明なので、俺とシュガーが出会ったあの日を誕生日としておいたのだ。
大体においてこのような世界で自分の誕生日を正確に記憶している市民はそれほど多く無いので、俺が生まれた日が分からないと言っても不審がられる事は無かった。
誕生日記念に鑑てもらった俺の最新能力はといえば
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キュウヘイ・カラスマ
29歳 男
レベル 4 → 5
攻撃力 3 → 4
防御力 4 → 7
知力 128 → 158
体力 5 → 8
攻撃魔力 0 → 0
回復魔力 0 → 0
クラス 調理師 → 人気シェフ
スキル 食道楽
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ごらんの通りほとんど成長していない。
冒険や激務のおかげで多少の体力の増加は見られるが、なんだよ『人気シェフ』って。そのまんまじゃないか。まぁちょっぴり嬉しいからいいんだけど。
「お前さんのおかげで、この一年間面白かったぜ。是非これからも楽しませてくれよな」
今や二店を統括する『カラスマレストラングループ(KRG)』の本部長となったミソルさんが実に楽しそうに俺の肩を揉んでくれる。
最新の彼の能力はというと、
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ミソル・ダ-イズ
37歳 男
レベル 29 → 52
攻撃力 328 → 1545
防御力 284 → 1024
知力 58 → 72
体力 365 → 1819
攻撃魔力 0 → 0
回復魔力 0 → 0
クラス 勇士 → 肉戦士
スキル 超剣技 → 肉捌き剣
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戦闘能力の向上は言うまでも無いが、特筆すべきは職業の欄だ。
どうやらクラスというのは、基本的には生まれ持っての才能が鑑定されるのだが、ある程度成長すると実際に就いている職種の影響も加味されるらしい。高齢になると性格が顔に現れるようなものだろうか。
これを見た時、ミソルさんは一時的に酷く落ち込んだ。これまでずっと戦士として生きてきたのだから無理も無かっただろう。
しかし一晩で立ち直ったミソルさんは、これからも美味い魔物を狩りまくってやるぜと、一層奮起してくれたのである。
ミソルさんの新必殺技『バーニング・ブッチャー・ディバイダー』は一太刀で、獲物を各部位に捌き、切りわけるといった超便利な技である。皮をはぎ肉をロースサーロインカタヒレソトモモミスジスネなどの部位に切りわけるどころか、臓物さえハツセンマイサガリミノタンハラミ等々に捌いてくれるのだ。
内臓食については現時点では流石に刺激が強すぎるというのと、調味料が無いと食べづらいだろうと言う判断で、現時点ではほとんどを肥料やコカトリスの飼料として使用する事にしていた。
ただキメラの舌の部分のみは皆に隠れて食べていたのは内緒だ。だって大好物なんだもん。




