第38話 ロケットの中身
「これを俺が開けるんですか?」
閉店後やってきたショーユ君は、ロケットを手に取って不安そうな顔付きだ。
「確かにこの間シューガさんに鑑てもらった結果は盗賊だったですけど、俺あんまり器用じゃないですよぉ」
「まぁ、とにかくやって見てくれ。シュガーの鑑定と君の潜在能力を信じてるから」
「カラスマさんも意外とミソルさんと似てるとこありますよね。人を乗せるのが上手いっていうか」
そんな風に言われたのは初めてなので俺は驚いた。
「俺、今大変なんですから。不相応な戦闘リーダーなんかにされちゃって、メンバーをしごくどころか、しごかれちゃってんすよ」
小柄なショーユ君がムキムキな大人達にからかわれながら訓練している様子が目に浮かんでくるようで、俺は少し笑った後に責任を感じてしまった。
「ショーユさんはまだ成長期なんですから大丈夫ですよ。すぐに大きくなりますって」
「ヴィネガーちゃんにそう言われてもなぁ……」
ショーユ君は文句を言いながらもロケットを調べ始めてくれた。そう言えば、彼の体つきは以前と比べてがっしりとした印象だ。
「おっ、なんだこれ?」
「どうしたの?」
シュガーが彼の手元を覗き込む。
「なにか、上手く言えないですけど、このロケットの構造が俺の頭に流れ込んでくるっす」
「それが君のスキルなのかもしれないね」
「ねぇ。私の鑑定は間違いないでしょ?」
鼻高々なシュガーちゃん。
「ここをこうして……こっちに寄せて、こっちを押しながら……」
指先を器用に動かしてロケットを操作するショーユ君。
そして、数分の後「カチッ」という小気味よい音が部屋に響いた。
「やったー! 開いた!」
俺たちは同時に叫んでしまった。しかし、
「な、なんですか、これ?」
中から出てきたものを見て、ショーユ君もシュガーもヴィネちゃんもがっかりした様子だ。
「お父さんったら、こんなとこにゴミを入れておいたのかしら」
「なんだか臍のゴマみたいですねぇ」
「カラスマさん、これ何だか分かります?」
だが俺だけは机の上に散りばめられたものを見て小躍りしそうになった。
黒や茶色や黄土色の小さくて丸い物体。
今の俺にとって、それは宝石よりも価値のあるものだった。
「これはね。種子、植物の種だよ」
「種? そういえば麦の種に似てますね」
「これを植えると食べ物が出来るですか?」
俺は自慢げに頷く。わき上がる歓声。
「す、凄いですっ! どんな食べ物ですかっ!」
食いつきの良いヴィネちゃん。
「そ、それはだね……」
しまった。偉そうにしてしまったが、俺には種を見てなんの植物かなんか分かる筈も無い。しかし俺の食道楽が見つけ出したのだ。野菜の種に決まっている。
「す、凄く美味しいものだよ!」
「おぉぉっ!!」
シュガーちゃんが早くも喜びの舞を始めてしまった。
もし違ったらどうしよう。
* * * * * * * * * *
翌日俺たちは早起きしてシュガー宅の裏庭に集まった。
俺とシュガー、ヴィネちゃんにショーユ君の昨日のメンバーと、力仕事用のミソルさんといった面々だ。
まずはミソルさんが畑を耕して、少しだけこんもりとさせる。
無論俺は野菜など育てたことはなく、近所にあった家庭菜園を覚えている限り再現しただけだ。だけど本当にこんな感じでいいのだろうか?
恐らく野菜毎に育て方が違うのだろうけど、ここは見よう見まねでするしか仕方ない。まぁ栽培方法を例え知っていたとしても、何の種かも分かってないんですけどね
「じゃあ、種まきをしようか」
俺はワフウさんの形見の種を皆に手渡す。入っていた種は5種類。それぞれ数粒のみだ。
「どれくらいの深さに埋めればいいですか?」
「うーん。まぁ適当でいいよ」
「駄目です。今日の主役はおにいちゃんなんですから、きちんと指示して下さい。数粒しか無い大事な虎の子なんですよ」
やばい。ヴィネちゃんが俺を疑いのまなざしで見ている。知識の無いのを知られてしまっては食務課長の威厳が保てなくなるではないか。
「数センチかな。適当な間隔に分布させてね」
「はーい」
やはり適当に答えてしまったが、これもやむなしだろう。皆で種蒔きの儀式を終えると、その上から少量の水を掛けてやる。
最後にみんなでパンパンと手を打って立派に育つように願を掛けておく。これじゃあ定礎式だ。あれ、地鎮祭だったかな?
「これで、後は待つだけってことか。どれくらいかかるんだ?」
ミソルさんは待ちきれないといった様子だ。
ここで、俺が格好良く言ってやるのだ。
「まつこと……」
「待つ事なんてありませんよ!」
シュガーちゃんに決めゼリフを取られてしまった。
「我がカラスマ亭には、こんな時の為の秘密兵器がありますから」
「ん? どういう事だ?」
ミソルさんが不思議そうな顔をする。彼はヴィネちゃんの能力をまだ知らないのだ。
「じゃーん!こちらが今日の主役のヴィネガー・サクサン様でございまぁす!」
主役まで取られてしまった。
「あ、あたしですか? でも、あたしのスキルは……」
ヴィネちゃんは驚いた様だ。あの日の事はまだ話してないのだから当然だろう。今この畑の横に立っている巨木が、彼女が一晩にして育てたものだという事を。
「大丈夫。ヴィネちゃんの能力は本物だから。さっ、さっき種を植えた場所に念じてみてくれる?」
「は、はい。やってみるですが、期待はしないで下さいね」
ヴィネちゃんはおずおずと前に出ると、皆の見守る中、両の手のひらを種の植えた場所に翳した。




