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第35話 新たなる戦闘リーダー

 市長との話し合いの末、俺は市の食務課長の傍らカラスマ亭の経営も兼務させてもらえる約束をした。前世なら公務員の副業は許され無いが、そのあたりの緩さ加減は良い世界だ。

 だが連日店にいる訳にもいかず、俺は店長の座をミソルさんに譲る事にした。


「それはいいけどよ。なら、戦闘リーダーはどうすんだ?」


 ミソルさんに問われ、俺は思っていた候補者を推薦した。



「えぇっ!? 僕がですか!?」


 新たな戦闘リーダーの候補者ショーユ君は、変声期途中のガラガラ声で悲鳴のように叫んだ。


「無理ですよ。僕よりも年長の方達やもっともっと強い人もいるんですから」


 幼児がイヤイヤをするように拒否するショーユ君。


「いや、これは現リーダー命令だ。お前には素質があるって言っただろう」

「そう言われましても……」

「それにな。今後しばらくはこの間みたいな戦闘も起こらない筈だ。あの時活躍したお前は若きヒーローなんだよ。分かるだろ?」


 ミソルさんが押したり引いたりして説得する。


「本音を言うとな、俺たちみたいな私兵集団が町の人々に認められるにはお前みたいな英雄(ヒーロー)を担ぎ上げるのが一番なんだよ。それによ……お前の若さでリーダーだなんて、女の子にモテるぞう」


 ぶっちゃけた話の後に飴を差し出すミソルさん。


「ほ、ホントですか!?」


 素直な思春期少年のショーユ君。


「おう。俺だって今や町を歩けば女の子が振り向くくらいなんだ。まぁ、そのおかげで女房とは少し冷戦気味なんだが……」

「なるほど、それで最近晩ご飯もカラスマ亭(ここ)で食べて帰るんですね」

「それはほっとけ」


 ちょっとアンニュイになるミソルさん。でもきっと奥さんを愛しているが故だろう。


「とにかく、戦闘リーダーはモテるんだ」


 気を取り直してミソルさんは口説き続ける。


「もちろん、お前の気になってるあのミントって娘もいちころだぜ」

「な、何を言ってるんですか! あの娘は別に!」


 大声で否定するショーユ君だが、その顔は真っ赤だ。


「分かってんだよ。まぁ真面目な話だ……」


 ミソルさんが身を乗り出してショーユ君の顔に相対する。


「真面目な話、今度あんな事があっても彼女を守れるような男になれよ。今後もっと強い敵が現れたら前回みたいにうまくはいかねぇぜ」

「は、はい……」


 ミントちゃんが騎士の一人を突き飛ばしたコントのようなシーンを俺は思い出す。しかしながらミソルさんの言うとおり、今後『災厄』レベルの災いが起こった時、同じようにはいかないだろう。


「そうなった時に、お前は真の英雄(ヒーロー)になるんだよっ!」

「ミソルさん! 俺やりますっ!!」


 『僕』が『俺』になってしまった。

 本当に人を乗せるのが上手い人だ。


 それから厨房長はシュガーに、ホール長はヴィネちゃんに一任し、かねてから計画していたアルバイト店員も募集する事にして、カラスマ亭安定のメドはついた。



 それから俺は食務課長としての仕事に取りかかった。

 まずは雑然としていた食務課の編成を一新し、以下のように改変する事にした。


・食務課 調達班

・食務課 調理班

・食務課 給仕班

・食務課 探求班


 『調達班』には市長の許可を得て、塩戦士ギルドのメンバーを組み入れてもらい、その役割を割り振る。


・塩調達隊

・昆布調達隊

・鮭調達隊

・梅調達隊

・肉調達隊


 一つの班にギルメン三人程度を割り振れば護衛には十分だ。まぁ鮭と梅には本来護衛なんていらないんだけど。

 その各班に職員が十名程度随伴し、収穫と運搬を担当する。


 『調理班』には市民からも希望者を集め、俺やシュガーが食材の扱いを教える。まるで料理教室だが、まさか自分がこんな事をする羽目になるとは夢にも思ってもいなかった。


 ある程度軌道に乗れば『給仕班』が無料食料配布として、まずは子供と女性を優先にしてそれを配る予定にした。

 そうやって徐々に市民みんなでレベルアップして『災厄』に備える計画なのだ。


 俺個人としては『探求班』に一番期待を寄せているのだが、もちろんこの班の仕事は新たな食材や料理を発見する事である。


 俺は自慢ではないが、これまでスポーツにも勉強にも遊びにさえ夢中になったことなどなかった。強いて言えば食べる事だけが生きがいだった訳だが、今このような立場に立たされると前世界で仕事に夢中(ワーカホリック)になっていた人の気持ちも少しは分かるような気もしてきた。

 人の役に立つのがこんなに心地よいなんて知らなかったのだ。

 ただ俺は実務にのみに気を取られないように、逆の意味で自分を律した(或いは律しないようにした)。

 組織を作って動かすだけなら俺以上に有能な者はいくらでもいる。俺に求められるのは食道楽エピキュリアンの才能なのだ。

 なので俺はこうやって新たな食材の入手方法を考えながら、日々公僕として働き続けたのであった。


 そんなある日、俺は自分の肌つやが急速に失われている事に気がついてしまった。

 仕事に一生懸命になりすぎたのかもしれないと思ったが、前述したように適度に手を抜いているのでそれだけではなさそうだ。

 その答えは俺の食欲が教えてくれた。


「野菜が食べたい」


 なるほど栄養不足だったのだ。特にビタミンなんとかとかミネラルや食物繊維なんかが足りていないのかもしれない。要は栄養が偏っているのだろう。

 他の住民はともかく、異世界人の俺にとって半年も野菜を摂取していないのはかなりまずいのではないか。このままでは若くしてスカスカの老人肌になってしまう。

 一度考え出すと、その思いは止まらなくなってしまった。


 食務課長に就任して丁度一ヶ月。おかげで食務課の各班も仕事に慣れ、俺の仕事も落ち着いてきた。丁度良い頃合いだろう。

 しかして俺は新たな食材の探求を開始したのであった。


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