第３０話 盗賊少年ショーユ・ニシマル
「馬鹿にしおって……」
冷静な騎士団もさすがにカチンときたようだ。頭部を完全に覆ったフルフェイスの兜の中からくぐもった声を響かせる。
「後悔するなよ小僧」
ショーユより頭一つ以上背の高い騎士が長剣を振りかざす。
すかさず、あまり立派とは言えない剣で受け止めるショーユ。
「ほぉ、思ったよりやるではないか。並みの大人でも普通は今の一撃で命を落としている。どうした、他の大人達。この子供を助けなくていいのか？」
余裕をぶっこいてぺちゃくちゃと喋る騎士の男。
だが次第にその口調に変化が現れ始めた。
ショーユの剣が段々と騎士の方に傾いていく。
「う、うぬ……意外と頑張るな……こ、こいつ……舐めおって！」
すかさず一度剣を引く騎士。兜の中で随分息づかいが荒くなっているのが分かる。
「ミソルさん、カラスマさん。本当にやっちゃっていいんですか？」
対象的なのはショーユ少年だった。先ほどのつばぜり合いで闘えるという確信を得たのか、汗一つかいていない彼はこちらを振り向いて重ねて確認した。
俺とミソルさんは大きく頷く。
「やはり子供だな！ スキを見せおって！」
思いがけぬショーユの実力に恐れをなしたのか、卑怯にも騎士はショーユの背中から襲いかかった。
ズバッ！！
速すぎて俺の目には何が起こったのか分からなかったが、気がつけば騎士の男が血を流して倒れていた。
どうやらショーユが振り向きざまに彼を切り捨てたらしい。
「うわぁ……僕マジで強くなってる……」
自分でやったのが信じられないとでもいう風にショーユはポカンと口を開け、倒れた騎士の前に跪いた。
「大丈夫ですか、おじさん？ 急所は外したつもりだったんですけど……あぁ良かった」
騎士が呻き声を出したのでショーユは安心したらしく、再び立ち上がって残りの騎士達に向き合った。
「さて、次は誰が相手してくれるのですか？」
騎士達は動けない。
ショーユの強さは理解したが、子供相手に複数でかかるのも彼らのプライドが許さないのだろう。
沈黙を破ったのは役人だった。
「貴様ら油断するな！ いいから複数でかかれぇっ！」
その言葉をきっかけに、まずは三人の騎士達がショーユに襲いかかる。その統率された動きはまるで芸術のようだったが、少年はいとも簡単にそれを躱し、一瞬の後に二人の騎士を地面に転がしてしまう。
「あまり混戦になると手加減できませんが、宜しいですか？」
段々と自信をつけてきたのか、ショーユの口調も騎士団を挑発するようになってきた。
そしてその煽りに乗せられた騎士達が次々と少年に襲いかかる。
「この分じゃ、俺どころか他の奴の出番も無いな」
既に戦況を見極めたミソルさんが呟く。
他の戦士達は不満そうにしながら、一番の年少である少年の戦いに心を奪われているようだった。
ちなみに昨日シュガーが鑑定した彼の能力はこれくらいだ。
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ショーユ・ニシマル
１３歳 男
レベル ３４
攻撃力 ８５７
防御力 ４１２
知力 ５４
体力 ５４４
攻撃魔力 １４１
回復魔力 ５７
クラス 盗賊
スキル 微細手業
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クラスが盗賊というのは意外だったが、今目の前で繰り広げられている俊敏な動きを見れば納得できる。
戦闘力換算でいえば、およそ５５００。
３０００程度の騎士団では足下にも及ばないのは当然だろう。
それからもショーユは小柄な体を生かし、踊るように騎士達の間を駆け抜けすり抜け、次々と彼らを戦闘不能にしていく。
そのうち、危険は無いとみたのか集まってきた野次馬も少年に声援を送り始めた。
「あざっす！」
戦いながら声援する美少女に手を振るショーユ。あの野郎調子に乗りやがってとミソルさんが苦言を呈するが、その表情は実に嬉しそうだ。
やがて、二十人はいた騎士団の大半が彼一人に倒され、心配性の俺も勝利を確信したその時、不意に下卑た声が響いた。
「こっちを見ろ小僧！」
見れば、役人の傍に立った騎士団の一人が町の少女を抱きかかえ、その首に剣を当てていた。
「さしすせそ」揃いました＾＾
