第3話 当惑の手料理
シュガーと共に彼女の住む町に向かう丘平。
少しずつこの世界が明らかになっていきます。
シュガーの住む町はそれほど大きくなかったが、活気に満ちあふれたところだった。
大通りには、宿屋・衣服店・宝飾店・武器屋・防具屋・道具屋などが所狭しと軒を連ね、店主達が大声で客引きをしている。
しかしながら何故か俺は違和感を感じていた。
そう。食料品を売っている店が無いのだ。
そのせいで夕暮れだというのに、どこからも夕食を作る良い匂いが感じられない。
「隣村に用があって出かけてたんですけど、食料の計算を間違っちゃって、もう少しのところで力尽きてしまったんです。
あっ、夕食の用意をしますので、そこに座って待ってて下さい」
シュガーの家はこじんまりながらも、掃除の行き届いた清潔感の感じられる住まいだった。調度品などから察するに彼女の一人暮らしだろうか。
年端もいかない少女の家にお呼ばれするなどと、元の世界では逮捕案件な状況にロリコンで無い俺でも少し浮かれてしまう。
「はい、どうぞ。おにぎりのお礼にふんぱつしましたから」
わずか3分後。
夕食はすぐに出てきた。
やけに短い調理時間だ。奮発という割りには調理の音も何もしなかったが……
しかしここは異世界だ。
変わった調理法があるのかもしれない。魔法とかね。
きっと食べたことも無いものが出てくるんだろう。
知らない世界の楽しみといえばやはり料理だからな。
俺はわくわくしながら、差し出された皿に目を落とした。
「ん?」
豪華な装飾が施された丸皿に乗せられていたのは、乳白色の丸い物体。
なんだこれ?
俺は指でそれを突いてみる。
スライムより少し堅めの弾力だ。
触ったこと無いけど。
「さぁ、遠慮せず召し上がれ」
シュガーの言葉に俺はそれの一部を指でつまむ。
パン作りの体験会で、生地を引きちぎったのを思い出した。
「うん……」
っていうか、体験会と同じだ。
ただし何も味はしなかった。
「美味しいですか?」
「そ、そうだね……」
ご馳走されて不味いとも言えまい。
調味料を入れ忘れたのだろうか。
こんなに腹が空いているのに小麦の味しか感じないとか相当だぞ。
空腹は最高の調味料というのは嘘だったのか。
それとも、どこかのいけずな県の風習のように、『さっさとお帰りやす』という意味の隠喩なのだろうか。
いや、誘ったのは彼女だ。さすがにそんな筈も無いだろう。
俺は思い切って聞いてみた?
「これ、なんて料理なの?」
「小麦粉の純水こねですよ。あたしの得意料理なんです、えへっ」
そのままの答えが返ってきた。
「うん。今日もうまくできた。さぁさぁ、まだまだあるから食べて下さい」
「は、はい」
促され、俺は全く味がせず、もそもそねちゃねちゃするだけのそれを水で口の奥に流し込んだ。
これがこの世界の標準料理なのだろうか。
或る意味とんでもない世界に来てしまったのかもしれない。
おかわりを勧めるシュガーに遠慮しながら、食べることが大好きな俺は少々の絶望を感じ始めていた。
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