第28話 キメラ肉のステーキ
脂身だけの部分を鉄板にひいて、肉に塩をすり込んで焼いていく。ジューッという音にシュガーはもう興味津々だ。
やがて良い匂いが立ちこめてくると、俺は自分の能力に自信を深めた。
「うわぁ、とても良い香りです」
「まだですか! まだですか!? もういいんじゃないですか?」
「いや、もう少し焼かないとね」
本来は俺もステーキはレア派だが、なにしろ自分でいうのもなんだが得体の知れない魔獣の肉なのだ。おかしな菌や寄生虫などがいては大変だから、今日はウェルダンで我慢しておこう。
「よし、もういいだろう。食べてみるかい?」
既に皿を持って待っている二人に、俺はよく焼けたキメラ肉を取り分けてあげた。
「では、みんなで一斉に」
「せーのっ!」
俺もフォークを手にとって、この世界で初めての肉食体験会が始まった。
「ちょっと固い……固いが……うぉぉぉっつ!! これは旨い」
「はいっ! また鮭とは違った味で、噛むと中から美味しいお汁があふれてきます!」
「もぐもぐもぐもぐむしゃむしゃむしゃむしゃ」
自信があったとはいえ、キメラ肉の思った以上の美味しさに俺は胸をなで下ろした。
貧乏家庭で育った俺は、鶏豚牛以外の肉なんぞほとんど食した事はないが、強いて言えば牛と豚の中間に似た味わいと食感だろうか。その赤身は少し硬いが故に、肉を喰らっているという感覚を倍増し、咀嚼するほどに肉汁が溢れてくるのだ。
「おっ、なんだ!? このいい匂いは?」
そこに丁度ミソルさんがギルドのメンバーを連れて帰ってきた。
「またまた新しい物を食べさせてくれるって話じゃないですか。」
「えぇ、今回は本当に凄いよ。今持ってくるから驚かないで下さいよ」
自信を深めた俺は屈強な戦士達をじらせる。
「うひょー、それは楽しみだ。早く持ってきて下さいよ!」
若いギルメンに急かされ、俺は厨房に戻って店員達に颯爽と指示をした。
「シュガー、ヴィネちゃん。運ぶのを手伝って……」
「こ、これは噛めば噛むほど……」
「がつがつ……むしゃむしゃ……」
厨房に帰ると、二人はまだ食べていた。しかも焼いた分がほとんど無くなっている。
おいおい、君たちが強くなってどうすんだ。
「すいません。新しいのを焼くからもうちょっと待ってて下さい」
俺は一度ホールに戻り、フォークを両手に持って待ち焦がれている戦士達に謝罪すると、まだまだ食べ足りなさそうなシュガーとヴィネちゃんの尻をたたいて新たな肉を焼き上げた。
「おまちどうさまです!」
目の前にキメラ肉を並べられた戦士達は腹が空きすぎて、もう待ちきれないといった表情だ。結果的にはこの方が良かったのかもしれない。
「今日お出しするのは、私のいた世界……いや、私のいた国では特に若い人や男性に人気のある料理でして、食べると力が沸くとか元気が出るとか言われております」
長くなると暴動が起こりそうなので、俺は簡単に説明して皆に実食を促した。
「うぉぉぉっ! こりゃまたうめぇぞ!」
「確かに、なんだ、野生的っていうのか!? 噛む度に力があふれてくるぞこりゃ!」
生で食べたミソルさんが一瞬でレベルアップした食材だ。同じ戦士である彼らには通じるものがあるのだろう。
「鮭定食を食べたとき、あれ以上旨いものなんて無いっておもったけど、これはそれ以上だぜ!」
「ホント、体の中に眠っていた力が溢れてくるぞ! ギルドマスターもっとくれ!」
事情を知らない彼らにも、自分たちが強くなっていくのが分かるのだろう。やはり肉食の効果は抜群だ。
「ところで、これ何なんですか? 大型の魚とか?」
「いやぁ……」
言って良いものか悩んでいる俺より先にミソルさんが大声を上げた。
「こいつは、俺が倒したキメラの肉を焼いたものさ」
「えぇーっ!!」
店内に驚きの声が沸き上がる。
「ミソルさん、あの伝説の魔獣を倒しちまったんですか!?」
「そ、それの肉を喰っちまったのか俺たち……」
これはまずい雰囲気だ。トイレに駆け込まれたらどうしようか。
「あ、あのですね。肉食というのは私の国では普通の……」
言い訳をしようとした俺だったが、やはり彼らも立派な戦士だった。
「さすがは俺らのリーダーだっ!」
「魔獣を食べてるって、俺たち凄くないか!?」
「そりゃあ、こんな物食べたら強くなるに決まってるさ!」
驚愕の声は歓声に変わり、お替わりを求める声が店内に響き渡る。
「よーし! 食べ尽くしてくれよみんな!」
「おおぉっ!」
「はーい、こちらキメラステーキ、四人前でーす!」
「お待たせしました。キメラステーキ大盛り、しっかり食べやがるです!」
初めての肉があまりに衝撃的だったのだろうか。満腹なのに飢餓モードになってしまっているヴィネちゃん。
「まだまだありますからね! 明後日はみんなで騎士団を追い返しましょう!」
「まかせとけ、マスター!」
「こんなもん喰わされたら、ますますこの店をつぶすわけにはいかなくなったぜ!」
「カラスママスターばんざい!」
「カーラスマッ! カーラスマッ!」
へとへとに疲れている筈の俺だったが、その夜は心地よい声援に包まれて心からの幸せを満喫したのだった。
色々と名前だけ出てきている人物とか設定も書くのが楽しみで早く消化したいのですがもうしばらくお待ち下さい。




