第27話 和やかな凱旋
「おかえりなさい!」
「心配したです!」
ナタリーさんにちょっと調子を狂わされたが、シュガーとヴィネちゃんの暖かな出迎えで俺たちは改めて大仕事を成し遂げた感慨にふける事ができた。
「でも、思ったより順調だったみたいですね。大怪我して帰ってきたらどうしようかと思ってたんですよ」
よく見ると後ろの机には薬草やら見慣れないポーションなどが並んでいる。俺たちの為に用意してくれた医療道具だったのだろう。
「いやいや、結構大変だったんだぜ。俺なんて死にかけたんだから」
ミソルさんがキメラに喰われてボロボロになった肩当てを見せつけながら言うが、シュガーには信じてもらえないようだった。
「またまた、ミソルさんったら大げさなんだから。確かに防具は酷い様子ですけど、怪我一つしてないじゃないですか。さすがは『勇士』さんですね。カラスマさんもお疲れ様です」
褒められ労ってもらえるのは嬉しいけど、本来なら傷だらけのミソルさんにシュガーが泣いて抱きつき、俺が息も絶え絶えに「食材、とってきたぜ……」って気を失って、ヴィネちゃん達に看病されて、目が覚めたら「三日も寝てたんですよ」ってみんなが号泣して喜んでくれるって……
感動の展開の筈がナタリーさんのせいで台無しですよ。
いや、そんな話無いほうがいいんですけどね……
「まぁ兎にも角にも食材は調達できたから」
俺はキメラの肉をテーブルに広げる。案の定、シュガーは目を見開いて唖然とした様子だ。
「その……驚くのも無理はないが、ぶっちゃけた話、見ての通りの魔物の肉だ」
「こ、これを食べるつもりですか?……」
震えながらお肉を指さすシュガー。
「い、いや、無理に食べなくてもいいんだよ。これはあくまで塩戦士ギルドのみなさんの為に……」
「カラスマさん!」
「はいっ!!」
遂にシュガーちゃんを怒らせてしまった。
やはり魚と違って生物は敷居が高すぎたのかもしれない。これなら隠しておいてギルメンだけで味わうべきだったか……
「自分たちだけで食べようなんてずるいですよ」
「へっ?」
メガネがずり落ちる俺。掛けてないけど。
「分かってましたよ、これくらい」
ちょっと意地悪な笑顔で話すシュガー。
「カラスマさんがミソルさんを連れて、死の森に行くっていうなら大体の予想はつきますよ。これまで何度カラスマさんに驚かされてきたと思ってるんですか」
「そ、そりゃあ申し訳ない」
「謝ることなんてありません。私はその度にレベルアップして、なにより生きている楽しさと元気をもらってきたんですから」
俺に顔を近づけて満面の笑みのシュガー。
ヤバイ、この娘こんなに可愛かったっけ。だがいかん。相手は子供だぞ。
「いやいや、俺はただ自分が旨い物を食べたかったから……」
照れくさすぎてシュガーから離れるようにして言い訳する俺。いい歳して情けない。
だが、それは確かに本心に違いなかった。今回の冒険を除いてだけど。
「謙遜しないで下さい。しかし、その台詞なかなか言えたもんじゃないですよぉ。俺はただ旨い物を……」
腕を組んで俺の口まねをしながら関心してくれるヴィネちゃん。
やめて、恥ずかし過ぎる。いや、本当に買いかぶりなんだから。
「と、とにかくあまり時間が無い。ミソルさん、ギルドのメンバーを早速集めてくれますか」
「おうっ。ちょっと待ってな!」
「今からですか!?」
「ちょっと休めばいいですのに」
「いや、新鮮なうちの方が美味しいからね」
熟成させて旨味を引き出すっていう高度な手もあるが、香辛料も無い状況では挑戦しない方が良さそうだ。
そしてなによりも熟成させる暇が無い。奴らが来るのは明後日なのだ。
「じゃあ手伝います!」
「あたしも!」
「大丈夫? 気持ち悪くないかい?」
「いえ、むしろ美味しそうです」
「同意であります!」
今にも涎を垂らしそうなシュガーとヴィネちゃん。
やれやれ、俺のせいで随分と食いしん坊になってしまったみたいだ。
「じゃあ、鉄板を温めておいてくれるかな。出来るだけ高温にね」
「任して下さい。フレイムバーゾンを連発するです!」
炎系単体攻撃最強魔法の名を口にするヴィネちゃん。
「いや、前にそれ使って鉄板どろどろにしちゃったよね」
「えぇっ!?……じゃあ只のフレイムで我慢しとくです……」
不満そうなヴィネちゃんを宥めながら、俺はキメラ肉をさばき始めた。
こんなに大きい肉を切るなんぞ初めてだが、まぁステーキっぽい大きさにするだけならなんとかなるだろう。
俺は白い脂の部分と赤身の比率を考えながら、なんとかそれを切り分ける事に成功した。
不定期更新とか言いながら、興が乗って書いてしまったのでアップします。
今後も出来る範囲で頑張りますので、読んでもらえるとありがたいです。




