第26話 食文化の拡散と俺の憂慮
「以前から治癒能力はあったんですけど、この間から珍しい物を食べるようになって急にその力が異常なくらい上がってきちゃったんです」
乱れた長い黒髪を背中で結びながら語るナタリーさん。
俺は嫌な予感がした。
「ひょっとして、その食べ物って……」
「カラスマ亭さんってところの、鮭おにぎりっていう食べ物です」
口の端から涎でも流れそうなうっとりとした表情でナタリーさんは言った。
なんだ、俺の責任じゃん。
「で、でも、キノコ狩りっていうのは? ミソルさん、キノコって食べた事あります?」
ぶんぶんと首を振るミソルさん。
「川で泳いでいる魚が食べられるなら、そこらで生えているそれも食べられるかなって。試してみたら美味しかったんです」
のんきに語るナタリーさん。
「それで、この森で持ち帰って修道院のみんなで食べたら大好評だったんです。一部の子なんかは、翌朝まで笑い転げるほど喜んでくれちゃって」
それ、あかんキノコや。
「で、それからキノコ鍋は定番料理になっちゃったんです。取りに行くのは魔物に襲われても大丈夫な私ということで今日も森に来たのです」
全然大丈夫じゃなかったですけどね。
「事情は分かりました。とにかく、お礼を言います。でも、いくらすぐに治癒するとはいえ、魔物に喰われるのを覚悟でここに来るのはもう止めておいた方がいいですよ」
「そうですかねぇ?」
「ですよ。頭部でも食べられたらどうするんですか?」
「また、生えてくるんじゃないですかぁ?」
駄目だこの人、何も考えていない。
新しく生えてきた新しい脳みそ入りの頭部は果たして自分なのだろうか。思考実験でそんなのがあった気がする。
「美味しい物が食べたければ、カラスマ亭に行けばいいですよ」
「そう。近々新しいメニューもできるからな」
ミソルさんが俺の背負ったキメラ肉を見ながら笑った。
「実は俺たち、カラスマ亭の店員なんですよ」
「まあ。そうだったんですか! それは嬉しい出会いですわ!」
ぴょんと飛び跳ねて嬉しそうにするナタリーさん。
修道服の上からでも分かる豊満な胸が揺れる。
「じゃあ近いうちに是非お邪魔しますわね。ひょっとして、それをお出しして下さるの?」
感のいい人だ。
なんという宗派か知らないが、彼女の神の教えでは肉食は良いのだろうか?
「はい。とびきりのものをお出ししますよ」
「まぁ、楽しみ!」
森から出て、太陽の下で見た彼女の笑顔はとびきり魅力的だった。
やばい、少し好みかもしれない。
「では、お気をつけてお帰り下さい」
死の森で一人で生き延びられる彼女に対し、これほど空虚なお気をつけても無いかもしれない。
とにもかくにも、無事森から抜け出した俺たちは、そこでナタリーさんと別れた。
「いやはや、世の中広いなぁ。あんな回復魔法の使い手なんて初めてみたぜ。近くにいるだけで大怪我が癒やされるなんて」
「そ、そうですね……」
「まぁ、どれもこれもお前さんのおかげ。もしくは、お前さんのせいなんだけどな」
実際その通りだ。俺が持ち込んだ『食文化』のせいで今後もこの世界に色々な事が起きるかもしれない。
だがあまり気を揉みすぎるのも自意識過剰というものだろう。ただ俺は美味しい物を提供して、余裕があれば皆に振る舞いたいだけなのだ。
「まぁ、あまり気にすんな!」
「うほっ!」
ミソルさんに背中を叩かれ、地面に倒れる俺。
俺が考え込んだのを心配してくれたのか。
やはり優しい人だ。ちょっと乱暴だけど。
「わりぃわりぃ。まだ力の加減がつかめなくてな」
ミソルさんのおかげで気を取り直した俺は立ち上がって言った。
「しかし、これで安心です。早く帰ってみんなにレベルアップしてもらいましょう」
「おぉっ!」
こうして俺は念願の食材、『肉』の獲得に成功したのである。
書き溜めた分が無くなりましたので次回から不定期更新とさせて頂きます。
最低週一は更新する予定ですので、宜しければ今後ともご購読よろしくお願い致します。
あと同時連載中のちょっとブラックな短編集『ゲームと現実の区別がつかない大人達』も頑張って書いていますので、お目通し頂けると嬉しいです(;ω;)ノ




