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第25話 チート修道女ナタリーさん

「ぎゃーっ!!」


 思わず俺は本気で叫んでしまった。


「ぐるるっ!?」


 一斉に魔物たちが振り向く。緑の体に痩せた子供のような肉体。つり上がりぎょろっとした目はファンタジーRPGでお馴染みのゴブリンに違いない。


「きぃぃっ!!」


 だが俺の声に驚いたのか、ゴブリンたちはそのまま逃げていってしまった。

 手首のような肉片を咥えた奴もいた気がするが見なかった事にしよう。

 残されたのは、表現は悪いが彼らの喰い掛けの女の人だ。


 「大丈夫ですか!?」


 どう見ても、四肢があったりなかったりお腹の中のものがはみ出したりしてるのだが、ひょっとしてまだ息があるかもしれない。

 俺たちは一目散に倒れている彼女に駆け寄った。


「ぅぅ……うぅっ…」


 当たり前だが女の人は息も絶え絶えだった。近くで見れば見るほど酷い傷だ。R15マンガでもモザイクがかかるレベルだ。


「こりゃあ、可哀想だが助かりそうもないなぁ」


 ミソルさんも俺と同感のようだった。


「お、お名前は?」


 あと、家族とか言い残したい言葉とかを聞こうとしたその時、俺は今日一番驚いた。

 えぇ。デビルヤンマとすれ違った時よりもミソルさんの肩が食いちぎられた時よりも驚きましたですよ。


 にょきにょきっ!


 彼女の右肩と左腿から、手足が生えてきたのだ!


 ごぼごぼっどろどろっと煮立った溶岩のような音と動きを発しながら、手足がどんどんと育っていくのを呆気にとられて見ているだけの俺とミソルさん。

 数分後、彼女の体はあっというまに健常者と変わらぬそれになってしまった。

 気がつけば頭部や腹部の傷も綺麗に治っている。

 なんだこの人。トカゲの王かそれともプラナリアのご親戚だろうか。


「おい、ちょっと待て。どういう事だよこれ?」

「いや、確かに回復が早すぎるでしょ。この人」

「違うんだよ。俺の言っているのは」

「えっ?」


 振り返るとミソルさんが普段通り立っていた。

 いや、普段通り過ぎる。さっきの青信号みたいな顔色はどうした。

 見れば、左肩の傷まで治っているではないか。


「この(ひと)のせいですかねぇ……」


 俺たちは顔を見合わせた。



「お見苦しい所をお見せしました」


 すぐに女性は意識も取り戻し、事の顛末を話してくれた。


 彼女の名は『ナタリー・ソルティウム』。23歳。

 近くの修道院の修道女らしい。

 そういえばそれらしい装いだ。

 今日はキノコ狩りの為に森に来たらしい。


「ちょ、ちょっと待って。色々おかしいから」


 俺は彼女を問いただす。


「ここって、死の森って言われてるの知ってます?」

「はい。存知あげております」

「じゃ、じゃあ、どうして一人でキノコ狩りだなんて危ないことを!?」

「危なくないですよぉ」


 どこかタヌキ顔の垂れ目の彼女は、まったりとした口調でとんでもない事を言う。


「ご覧になったでしょう? あたし、怪我してもすぐ治る特異体質なんですぅ」


 いやいやいや。やっぱり色々とおかしいぞ。


「いくら回復能力が凄くたって、痛いとかいう感覚はあるでしょ。それに魔物に生きたまま食べられる経験なんて普通したくないでしょ!」


 頭が混乱して大声で言ってしまった俺に、ナタリーさんは少し考えたあと


「特に問題無いですよぉ。だって死なないんですもの~」


 ときっぱりと言い切った。

 なんだこの人の人生観。

 これでは折角の俺とミソルさんの緊迫したシーンが台無しでは無いか。


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