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第24話 初めての肉食

「ミソルさん! そいつに齧り付いて下さい!」

「な、なんだと!?」

「もうそれしかありません、腕の肉ならきっと柔らかいですから!」

「な、生のままこいつを喰えっていうのか!?」

「多分大丈夫です! 俺の国にはそれを好む人もいるんです!」


 さすがに生きてるのを齧って食べる人はいないけどね。


「ち、畜生め! そんなの魔物の役目じゃねぇか、くそぉっ!」


 次の瞬間、魔物の左手がミソルさんの目玉を襲おうとした。


「お前の味は何味だぁっ!!」


 やけくそになったのか、ミソルさんがその腕にかじり付く。


「ぶわっ!!」


 さすがは健康優良歯の持ち主。次の瞬間、キメラの左腕は一部欠損して、ミソルさんの口からは血が滴っていた。


「く、喰うぞ!」


 魔獣にやられていた時よりも嫌な顔をして咀嚼するミソルさん。だが、すぐにそれは歓喜の表情に変わった。


「うめぇぇっ!」


 生まれて初めての肉食にミソルさんが生き返る。

 ごくんという音と共に彼がそれを飲み込んだ瞬間、俺の中でRPGのレベルアップ音が何度も鳴り響いた。


ガシッ、ガシッ……


 我を忘れて肉を味わうミソルさんに魔獣は何度も襲いかかるが、先ほどと違ってその攻撃は彼の肉体にはじき返されるだけだ。


「やれやれ、また強くなって(レベルアップ)しまったか」


 ミソルさんはいともたやすくキメラを押しのけて立ち上がると、その前に立ちはだかった。

 敵がレベルアップしたのを本能で感じたのか、魔物は怯えているようにも見える。


「すまんが、成仏してくれ」


 ミソルさんは、俺が教えた頂きますの合掌をした。恐怖に怯えながらもキメラは無防備な体勢のミソルさんに飛びかかる。

 流石に舐めすぎたのではないか。俺は叫んだ。


「ミソルさん、危ないっ!」


 だが、成長したミソルさんは目にも止まらぬ早さで再び剣を取ると、それを高く掲げて咆哮した。


「バーニング・ブッチャー・ブレードッ!!」


 新技が炸裂し、魔物は肉屋に吊された牛のように一刀両断されてしまった。

 なんだか超戦士とは思えない技名だった気がするが、そこは気にしないようにしよう。


「しかしよく思いついたな。戦ってる相手を生で喰わすなんざ」


 少しばかり非難の混じった口調でミソルさんが俺の肩を抱く。


「いや、こちらこそすいませんでした。結果オーライで良かったですけど……って……大丈夫ですか!?」


 見ればミソルさんの左肩はキメラに喰われて骨が剥き出しになっている。

 お互い喰らい合ったのかと考えるとゾッとする。

 いや、半分は俺がお願いしたんだけど。

 魔物が美味しいもの(にんげん)を食べてレベルアップする設定(せかい)じゃなくって本当に良かった。


「大丈夫と言いたいところだが、本当のところかなり痛い。早く帰って治癒魔法を授かりたいな」


 ミソルさんがそんな泣き言を言うのだから相当の痛みなのだろう。


「じゃあ少しだけ休んでおいて下さい」


 俺は魔物の死骸に近づくと、用意してきた大きめのナイフでその肉体を捌いていく。もちろん大型の獣を捌くなぞ初めてなので、しったかぶりの見よう見まねだ。

 しかしながらミソルサンの新技のおかげで、ある程度下処理はされていたので、俺はなんとかそれをこなすことが出来た。


「済みました。急いで帰りましょう」


 最後に死骸に一礼して、俺たちは森を抜け出す事にした。魔物を追って思っていた以上に奥に踏み込んできてしまったから、出口までは30分ばかりかかるだろうか。

 ミソルさんの傷を心配しつつ、俺は肉塊を背負って歩き出した。


「運良く出られればいいけどな。今、魔物に会ったらジ・エンドかもしれんぜ」

「いやいや、レベルアップしたスーパーミソルさんなら問題ないでしょ」

「だなぁ。今は世界最強の気分だからな」


 軽口を叩きながらも、ミソルさんの顔は真っ青だ。大量の出血で貧血になっているに違いない。一刻も早く出口に向かわなければならない。


 その時、急ぎ足の俺たちの前になにやら蠢くものが見えた。

 しかも何体もいるようだ。


 新たな魔物の群れかと身構える俺たちだったが、どうも様子がおかしい。

 よく見ると、小さなゴブリンのような魔物達が何かを囲んで夢中になっている。


 そっと遠くから様子を覗いていると……


 その中心で女の人が喰われていた。


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