第17話 美味しく食べてレベルアップ
「やれやれ、俺の出番が無かったな。折角キュウヘイに恩を返せるとおもったんだが……しかしお前ら一体どこで修業してやがったんだ?」
ミソルさんが、厨房から出てきて不思議そうに言った。彼の大きな背中にはシュガーとヴィネちゃんが張り付いている。どうやら捲き込まれないように彼女達を守っていてくれたようだ。
「いや、それが全然自覚なくってな。気がつけば倒してたさ」
常連客達は頭を掻きながら答えたが、ここまでくれば流石の俺でもピンとくる。
「シュガーちゃん、簡単でいいからみんなの戦闘力を測ってくれないか?」
「あっ、はい。ちょっと待って下さいね」
シュガーは奥から杖を持ってくると、再び食事を始めている客達を鑑定していく。
「戦闘力…………890!? このおじいさんが!? こっちの方は、戦闘力1028! こちらのお兄さんはなんと1204ですよ!」
「もういいよ。ありがとうシュガー」
思った通りだった。
これは仮説だが、どうやらこの世界の人達は俺の料理……いや、美味しいものを食べるとレベルアップするのではないだろうか。
それは出会った時のシュガー、最初の旅の時のミソルさん、ましてや今目の前にいるお客さん達を見れば明々白々だ。なにしろ、常連客ほど戦闘力が高くなっているのだから。
「と、とにかくありがとうございました」
俺は客達に頭を下げる。
理由は分かったが、この時点で彼らにそれを説明する訳にもいかなかった。噂になればこの世界を混乱させて、下手すれば内乱になってしまうかもしれない。
俺はただ旨いものを食べて、余裕があればみんなに提供したいだけなのだ。
「しかし、これ以上みなさんを捲き込む訳にはいきません。私は今から自首してこようと思います」
「おいおい、大丈夫だよ。また俺たちが追い返してやるさ」
「そうだよ、これからも美味しい物、食わせてくれよ」
客達はそう言ってくれるが、やはり彼らに頼る訳にはいかない。
「いや、彼らは今度はもっと強力な兵士達を大勢連れてくるでしょう。戦う事が本職で無いあなた達を傷つけるなんて……」
「じゃあ、本職なら問題ないな」
気がつけば、ミソルさんと塩戦士ギルドの仲間達が後ろに立っていた。
「もう俺たちは味を占めてしまったんでな。元の味気のない食事には戻れんよ」
「おぉっ! カラスママスターにはすっかり世話になってるんだ。こんな時だからこそ頼ってくれよぉ」
「カラスマさんの立場はもう自分だけのものじゃないんだよなぁ」
そこまで言われては、俺も自分の意思だけで自首する訳にもいかない。
「うーん……仕方ありません。では、このまま営業を続けましょうか」
俺の言葉に歓声が上がる。前世では考えもしなかった経験に俺もちょっとテンションが上がった。
「ですけど、決して無茶はしないで下さい。負けそうになったら絶対に逃げること。なんなら私を売ってくれても構いませんからね」
「大丈夫だよ、これからも旨いもん食わせてくれたらもっと戦えるさ!」
「おぉ!その通り! 景気付けに塩おにぎり10個追加してくれよ!」
「こっちは昆布と梅を5個づつだ!」
「はぁい!」
「かしこまりましたぁ!店長、塩10個、梅と昆布が5個でぇす!」
「あいよぉっ!」
ギルドマスターから店長に戻った俺は注文をこなしながら考える。
彼らと共に戦う方法を。
そう、その答えはこれからも美味しい料理を提供する事。
それで彼らにもっともっと強くなってもらうのだ。
その日は営業時間を延長し、深夜までおにぎりパーティーが続いた。
酒でも飲みたい気分だったが、当然ながらこの世界には無い。
それは今後の楽しみとしよう。
そして俺は次の『具』に早くも思いを馳せていた。
この世界の人にはまだ刺激が強すぎると思っていたが、もうなりふりかまってはいられない。
禁断の食材に手を付けるとしよう。
俺はミソルさんに『網』を用意してくれるように頼んだ。
おにぎりのもう一つの定番といえばあれしか無いでしょ。




