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第15話 ならば食堂(レストラン)にしてしまおう

「こんな大きな木、ありましたっけ?」

「いや、ありえんでしょ。これ、高さ30メートルはあるよ」


 翌日、出勤しようとした俺とシュガーは家の外に突然現れた巨木に唖然とするしかなかった。


「これってきっと……」


 俺たちは顔を見合わせる。お互い思っていたことは同じ。きっとこれは昨日のヴィネちゃんの能力『成長促進』が作用した結果だろうと。


「お、思ってた以上にヤバい能力みたいですね」


「おはようございます!」


 俺たちが顔を青くしていたその時、当のヴィネちゃんが着替えを済ましてやってきた。ピンク色のワンピースにエプロンがとても似合う。シュガー(おねぇちゃん)に結ってもらったのか、長い髪はツインテにされて大きなリボンまで着いているという過剰包装だ。


「ひぃっ!!」


 思わず俺たちは驚いて変な声を上げてしまった。


「どうしたんですか?」


 首を捻るヴィネちゃん。


「あっ、大きな木ですね。なんだか伝説の木っぽいなぁ……卒業式の日に告白すると永遠になんたらとか言い伝えがありそうですね」


 彼女がそう表現するのももっともだった。サイズはもとより、しっかりとした根を伸ばし大空に向かっていくつもの枝を伸ばしたその立派な姿は、ご神木といっても差し支え無いほどの威厳を保っている。ただ、例えが古くさいのが気になるが。


「樹齢何百年とかですか?」


 いや、きっと何週間くらいなんだけどね。

 或る意味、何時間とか。


「そ、そうなの。我が家に代々伝わるご神木でありまして、その謂れは私のひいひいひいおじいちゃんが、当時の魔物を時の王に命じられて倒したという故事に遡るのじゃ……」


 咄嗟に妙な伝説を考え出すシュガーちゃん。

 創作の才能はなさそうだ。


「そうなんですか。見ればみるほど雄大な木ですね。それにしても、シュガーさんが勇者の家系だなんて凄いです!」


 シュガーの話を鵜呑みにする素直なヴィネちゃん。

 いや、君が育てた木なんですけどね。


 結局、俺たちはヴィネちゃんに自身の能力を話すのは、この時点ではやめておいた。

 その能力がどれくらいの範囲に作用するのかは分からないが、まだ十歳の子供が使うには危険すぎるものだと思われたからだ。


 カラスマ亭に出勤しヴィネちゃんを紹介すると、もちろんミソルさんも一も二もなく彼女の就業に賛成してくれた。

 真面目で器用なヴィネちゃんは早速大きな戦力となり、俺は米を炊く事に、ミソルさんは販売に専念する事ができるようになったのだった。



 そして一ヶ月もして店が軌道に乗り、客足も落ち着いて来た頃、俺はかねてからの計画を実行することにした。『カラスマ亭』のおにぎりを完成させる為に。


 店をシュガーとヴィネちゃん、それから塩戦士ギルドのメンバーに託し、俺とミソルさんはもう一度海に向かった。

 今度の目的は塩ではなく、海藻。もちろん『海苔』を作るためだ。

 製造方法など分からないが、海藻を採って干せばなんとかなるだろう。

 俺とミソルさんはギルドメンバーの手も借りて、色々な海藻でそれを実験した。

 悪戦苦闘すること一週間。ようやくそれらしい物が完成した。


「なんだか見た目が可愛くなりましたね」

「そうだな。黒っていうのは俺も驚いたけど、パリっとした食感がすげえんだよ」

「わぁ、面白い匂いです! 食べていいですか?」


 帰宅後、お店のメンバーに完成した海苔を振る舞うと、評判は上々だった。この世界の人々には微妙かなと密かに心配していたのだが、俺が思っている以上に皆さんの食に対する興味は深いらしい。

 更に俺は別の海藻から塩昆布を作り、『昆布おにぎり』として新製品とする事にしたのだ。

 海苔と『昆布おにぎり』のおかげで売上げは右肩上がり。塩戦士ギルドのメンバーにもお給金をはずむ事が出来、俺は知らぬ間に彼らの絶大な信頼を得るようになっていた。


 だが、やがて小さな店舗の販売だけでは、製造販売が追いつかなくなってしまった。

 そんな時、またミソルさんが唐突に思いついたのだ。


「じゃあ、客人を家に招くみたいにして、その場で食わせる店を開いたらいいんじゃねぇか?」


 目から鱗だった。

 先に思いつけよ俺。

 この世界に順応しすぎて『飲食店』という概念の存在を忘れていたのだ。


 そこからは、もうノリノリだった。

 町の一等地に大きな店舗を構え、みんなで厨房や客席を整える。

 腕の良い看板職人に金に糸目をつけず『カラスマ亭』の大きな看板を作ってもらい、俺はとうとうこの世界で初めてのレストラン経営者になってしまったのだった。


 厨房は俺とミソルさん含む塩ギルドのメンバー、シュガーとヴィネちゃんには接客と配膳をお願いする事にし、二人の可愛さも評判を呼んで店は連日の大繁盛だった。


 「さて、そろそろ新メニューが欲しいな」


 この時俺は調子に乗りすぎていたのだ。

 どうして今までこの世界にグルメが無かったのか。

 その理由を考えることを放棄してしまっていたのだ。


 「カラスマ・キュウヘイという男はいるかぁ!」


 ある日屈強な兵士を数人連れた、役人っぽい男が店に乗り込んできた。

 彼は令状のようなものを差し出して、俺に言い放った。


 「この店は市の施政方針に違反している。ただちに店を畳み給え」


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