第1話 おむすびころりん
別に連載しているものとは異なり、軽い気持ちで書き始めました。
自分も食べる事大好きです。
俺の名は烏丸丘平。
28歳、独身・彼女無し・貯金無し・借家暮らしの貧乏男だ。
その日、いつものように俺は工事現場でメシを食っていた。
現在の職は高層ビル建設の資材運び。半年前にブラックIT企業を体を壊して辞めた俺にとっては辛い仕事だ。
しかしながら、体を使う仕事はメシがうまい。今日の昼ご飯はコンビニで買ったビッグサイズのカップ麺とおにぎりというガテン系御用達セットである。
「いただきます」
地上40階の仕事場。
俺は眺めの良い景色を楽しみながらカップ麺の蓋を取って、蓋の上で温めていた液体スープを入れる。
製造側は狙っていないだろうが、この面倒な作業がカップ麺を一層美味くするのだ。
いわば「待て」をされている犬の気分だろうか。
調味油が注がれ、スープが一層良い風味を奏でる。
俺は割り箸でそれを底からかき混ぜると、ふーふーしてから麺をすすり込んだ。
「うめぇ~っ!」
最上階で食べる昼飯は最高である。
完成すれば大会社の本社ビルになるという話だから、俺は未来の社長室でお先に昼ご飯を食べているのかもしれない。
そしてカップ麺の付け合わせには、やはり握り飯だ。
泣く子も黙る炭水化物セット。
ただし失業保険が切れて節約中なので今日は「塩にぎり」で我慢する。
俺は馴れた手つきでコンビニおにぎりの包装を剥がそうとした。
と、その時、手が滑った。
おむすびころりん。
おにぎりは俺の手を離れ、汚い床を転がっていく。
包装を剥く前で良かった。食べられなくなるところじゃないか。
そんなちょっとした安堵の思いはたちまち不安に変わった。
おむすびころりんが止まらないのだ!
カップ麺を床に置き、おにぎりを追いかける俺。
コントかよ。舞台劇かよ。幼稚園のお遊戯会を思い出す俺。
いや、それどころでは無い。
ちょっと待て、そっちにはまだ壁が無い。
おにぎりといえども地上40階から落ちたら大変だ。
通行人の頭に当たるとどうなるんだろう。
あいにく物理が苦手な俺にはおにぎりの質量と加速度を計算することはできなかった。
まさかおにぎり命中で死亡なんてことにはならないだろうな。
お気に入りの女子アナの声で7時のニュースが再生される。
「きょう昼過ぎ、通行中のAさんが建設現場から落下してきたおにぎりに頭を強く打ち死亡しました。
おにぎりを落としたとして、業務上過失致死で逮捕されたのは自称建設作業員カラスマキュウヘイ(28)です。
カラスマ容疑者は昼飯を食べていたら落としてしまったと訳の分からない供述を……」
これはまずい!
Aさんだって、死にきれないだろう。
ようやく俺はすんでのところでおにぎりに追いついて手を伸ばした。
「あっ!」
しかしながら、おにぎりに夢中で足下がおろそかだったのだ。
俺は右手につかんだおにぎりと共に真っ逆さまに落ちていった……
俺、こんなことで死ぬのかよ!!
カップラーメン美味しいですよね。
袋麺も好きです!