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序章 王女が仮面を被る訳

 泥酔して寝落ちした筈の私、高椿ありす29歳が目を覚ましたら……。赤ん坊だった。どうやら急性アルコール中毒でそのままお亡くなりになったようだ。前世(?)の記憶をそのまま覚えているもんだから、赤ん坊の内に色々と周囲の状況とやらを分析しておこうと思う。普通ならこんなに落ち着いていられないだろう。けれども生前(?)は取り立てて何の取り柄もなく、才色兼備な姉との格差姉妹。両親にも誰にも特に必要とされず、典型的なモブキャラだったからだろう。流行りのラノベのように、奇跡が起こり異世界転生でもしてやり直せるチャンスはないものかと密かに願ってきたからに他ならない。どのくらいの不遇で悲惨な人生だったかは後で述べるとして、今は、『仮面の王女』と呼ばれるようになった経緯を簡単に説明しようと思う。


 この世界でも言葉は通じるようだ。もしかしたら日本語ではなくテレパシーのような感覚で通じているだけかもしれない。幸いな事に今の私は赤ん坊だ、その内会話も出来るようになるだろう。更にラッキーな事に、この世界での私は王族の第一王女セレスティアラとして生まれたようだ! やった! やっと、不遇だった私を不憫に思い、神様が奇跡を起こしてくれたのかもしれない。


 この世界の両親は、生前幼い頃絵本でよく見たような典型的なビクトリア調の衣装に身を包んでいる。メイドや執事たちもそんな感じだ。父親は三十そこそこか? 藍色の髪と目を持つ野生的で精悍なイケメンだ。母親はベビーピンクの髪にミントグリーンの目の美女、というよりも美少女という感じだ。なんだか砂糖菓子で出来ているかのように甘くて美味しそうだ。これは……この二人の間に生まれた私は相当の美少女だと期待して良いのではなかろうか?!


 これは、ついに! 夢にまでみた異世界転生でチート能力を身に付けて逆ハーレム! が現実となるのではないか? 大いに期待だ!!!


 しかし……



「いいかい、お前は『彩光界(さいこうかい)』を統べるべくして生まれたんだよ。だからしかるべき知識と教養、魔術、身だしなみ、センス、言葉遣い、踊りも歌も音楽も……何でも一流でなくてはいけないよ。例え顔が醜くても、それを補ってありあまるほどの魅力を身に着けなければね」


「はい、父様」


 どうやら私は、生まれつき酷く醜い顔に生まれ付いたらしい。さすがにラノベや漫画の世界のような展開は期待出来ないようだ。残念だ、美少女に憧れていたのに……。


「歳頃になれば、お前の地位と力を手に入れるべく数多(あまた)の殿方が言い寄ってくるでしょう。けれどもあなたはとても醜い顔に生まれついてしまいました。ですから特別な仮面を作らせましょう。それを被ってあなたは生きるのです。結婚して何年か様子を見て、この人なら! そう思える人だった時に初めて仮面を外しなさい、それまでは絶対に仮面を取ってはいけませんよ」


「はい、母様」


 残念ながら私、celestiala(セレスティアラ)は物心つく時から口癖のように両親からそう言われ続けてきた。どのくらい醜いかというと、侍女や侍従たちも目を背けるほどに二目と見られない顔らしい。故に、最初の仮面が出来上がるまでの間、鏡というものを見た事がなかった。自分の顔にショックを受けるだろうから、と。鏡という鏡は目のつく場所には置かれていなかったようだ。しかし、不遇な人生は、前世で経験済みだ。顔が醜い事以外は、しかるべき地位が与えられている。ここは両親の言うようにのし上がってやろうじゃないか! 母親のいう力が何なのかは未だはっきりしなかったけれど。


 私が三歳になった頃、妹が生まれた。「幸福な」という意味を持つ彼女はBeatrice(ベアトリーチェ)と名付けられた。それほど優れた頭脳と身体能力、多才さはなかったけれども、水蜜桃みたいに甘く可愛らしい声、蜂蜜色の豊かな巻き毛と純白の大理石のような肌、丸みを帯びた大きなネオンブルーの瞳、野苺のような唇を持った格別に美しい容姿に恵まれついた。……やれやれ、また姉妹格差か。


「セレスティアラ、妹はとても美しいけれども、お前には頭脳と並外れた身体能力、多才な能力に恵まれているのだ。何も恥じる事はない。堂々としていなさい」


「はい、父様」


「妹の方が周りから好かれて称賛されていく事が多くなるけれども、お前は顔が醜い分、多才さと物腰、マナーや性格などの目に見えない部分で類稀なる魅力があります。特に殿方はお前と妹と比べて著しい反応を見せるでしょう。そういう殿方はお前の方から三下り半を突き付けてやりなさい」


「はい、母様」


 celestia、天上界の、天空の、極上の、絶妙な、極めて美しい、神々しい……そんな意味を持つ名をつけられた私。容姿は名前負けどころか反比例したようだ。けれども不遇な前世で耐性が出来て為、打たれ強さだけはピカ一だった。故にそういうものなのだと素直に受け入れて生きてきた。


 五歳を迎える頃には、妹の美貌が顕著になってきたのだろう。両親は仮面をよりお洒落なデザインにするよう職人に命じた。そしてこんな風に私を盛り立てようとした。


「お前は醜いと言っても、仮面をつけてしまえば味のある……いや、個性的で神秘的な美女に見えなくもない。桃色の唇は少し分厚いが形は良いし。鼻も低くないし形もないし悪くはない。何よりも大きなアーモンド型で、二重のはっきりした瞳の形は良いと思う。髪もたっぷりとフサフサ生えたボルドー色はなかなか見応えがあるぞ」


「そうそう、何と言ってもその瞳の色ですよ。宝石のタンザナイトのように多色性のパープル! 美しいわ。光の加減で深い紫から淡い紫、虹彩の部分は淡いグレーから琥珀色に変化して素敵よ。滅多にない珍しい色合いでとても神秘的だわ。少しアイボリーがかってはいるけれど、パール色の肌も素敵。後は食事と睡眠、馬術やダンス、フェンシングなどで体を鍛えて太らないようになさいね」


 と。


「はい、父様、母様」


 こうして私は、その成長に応じて仮面を新調。顔を洗う際と入浴時のみ仮面を外し、それ以外は常に仮面を被るようになった。そのような事から、珍しい瞳を持つ『仮面の王女』という愛称で呼ばれるようになっていったのである。

 

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