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異世界でも俺は恋をしない  作者: 北条南都
6/7

6話 決意とシュシュシュは同類項

現実世界での17年間という浅い人生経験で得た俺の「反省」。それは俺の浅い人生からの深い溝。

まるでドッキリ番組によくあるかなり手の込んだ落とし穴であり、俺はそれに引っかかる芸能界から消える寸前のかつてブレイクした一発屋の芸人のようなものだ。いや、そもそもブレイクなんてしていないのかもしれない。心はブレイクして…。しょうもないな。俺の人生もしょうもなかった。


――――――――――――――――――――――――――――


「電球がてらに光る猫」、「喋る観葉植物」…

馴染みのある部屋がそこにはあった。

加えて玄関前には「警備用の動く石像」に、家の横にある1坪ぐらいの大きさの農地には「その近辺のみにわかに降り注ぐ驟雨」など、ファンタジーな世界観漂う何とも滑稽な有様だった。


メアの家の内装は以前経験していたし、周りに緑があることは知っていたが、まさかこんな山奥にあるとは思わなかった。カルロス付属病院とはおよそ数10kmは離れていたのだが、メアのワープ魔法で即席で辿り着けた。便利って素晴らしい。


「イサオくんには色々やって貰いたいんだけど、まず腹ごしらえよね、大丈夫!魔力軽薄のあなたにも食べられるような料理にするから!」


そう言って出されたのはおかゆだった。

実際、病院でも俺はおかゆしか食べなかった。というか食べれなかった。なので、俺は異世界転移してから数10日は経過しているが、初日のメアのシチュー以来、おかゆのみの生活だった。もうおかゆが嫌になっちゃう。


「イサオくん、おかゆが大好きみたいだからちょうど良かったね、病院ではイサオくんのおかゆの食べっぷりはすごく評判なんだよ!」


もう好物認定されてしまった。まあそれでみんなが幸せになれるんだったらOKです。

さて、話を少し変えて俺が今後何をするべきなのかをメアに問うた。


「メアさ、俺はどうしたらいい?何か手伝える事とかあったら言ってくれ。」


やはりナツノでなければ、というよりメアであればすんなり口が動く。あと、異世界に来てから俺の何かが弾けたような気もした。ということで話に戻る。


「んー、別にこれといってして欲しい事というか、今まで一人でやってきたからね。慣れてるの。だから今は大丈夫かなあ。」


人の優しさを素直に従うのが本当の優しさだと誰かが言っていた。という事で少しメアが無理をしてそう感は否めなかったが、俺は分かったと言って頷いた。すると、突然思いついたようにメアが述べた。


「あ、でも今後のことも考えて魔法学校に通うのはどうかな?そしたら、今の魔力軽薄状態も改善されるはずだよ。今の時期なら編入試験も受けさせてもらえるはずだよ。」


魔法学校…当時触れはしなかったが、ナツノ達の自己紹介の時にちょこっと言ってたな。確かにそこには興味がある。俺の過去も時々頭によぎるが。


「そうだな。俺も魔法が使えるようになりたいよ。その話、詳しく聞かせてよ。」


俺たちはリビングの机に腰をかけて、魔力軽薄の俺でも飲める味の薄いコーヒー(色は真っ白のまるで牛乳なのだが)を飲みながら話を聞いた。


メア曰く、何でもその魔法学校、通称「エカチェリーナ・ロイド魔法学園」は俺の見解では現実世界での高校に値する場所らしく、魔法以外に異民族交流や、商業も学べるらしい。場所は世界5大都市の1つ、中枢都市・「サカエル」の近辺に存在するそうだ。ちなみにメアの住居であるここは、外れにある、「テトロン」という町だ。


「まあ、魔法学校のことは置いといて、何でメアはこんな…その…辺鄙な場所に住んでるんだ?」


「うーん…それはね…」


悩む。メアは悩む。何かあまり言いたくないタブーなことだったのだろうか。俺は少し焦る。


「言いたくなかったらさ、別に無理しなくて…」


すると突然メアは立ち上がって述べた。


「好きだから!」


メアは胸を張って、ドンと立ち構えて俺に焦りを隠すような言葉は、俺にとっては付け焼き刃で曖昧模糊な発言に思えた。…しかし、彼女がそういうのならそういう事にしよう。俺がそう思っているとメアが述べた。


「じゃあね、聞き返していい?」


確かに、正直今の俺は彼女達にとっては未知数だろう。聞きたいことはたくさんあるはずだ。ましてや、何故ここまで知らないやつを高待遇してくれるのかが分からない。俺は何を聞かれても答えれるように息を飲みながら頷いた。


「あなたは何でここに来たの?どこから来たの?」


これだ…。この質問は流浪者に聞く第1の質問だ。だが、俺がそれを答えれるかどうかは言うまでもない。こういう時に俺はよくある癖で黙り込んでしまった。すると、メアは何かを察したように明るい声で俺に述べた。


「じゃあさ、今作っちゃおうよ!来た理由!」


「今から…作る…?」


「うん!人は目標なしに生きていなければ楽しくなんてないもん、人に従うだけじゃ人じゃないよ!」


すごく当たり前のことなのだが、今の俺にはその言葉が体に貫通してとても染みる。なんだか、俺の現実世界の生き方を真っ向に否定されたような気分だった。しかし、それが特段悲しかったり苦しかったりはしなかった。むしろ、新しい活路が見えた気分だった。隷属する選択を選んだ当時。でも今は違う。優しくしてくれる。俺は理由も根拠もない、蓋然性の低い自信が生まれた。今ならなんでも出来る。何でも言える気がする。


俺は決意した。ここで真っ当に全力で生きてやると。


「分かった。とりあえず魔力学校に行けるように頑張るよ。ありがとうメア。」


メアは照れながら否定していた。その顔が何とも微笑ましかった。なんだか胸の下辺りがキュってなるような…ってなんだよいきなり。乙女か俺は。


「と…とりあえず編入試験に向けての演習だよね。編入試験は大きく分けて面接と実践だよ。

実践はとっても簡単で、初歩的エレメントの〔縮地〕と〔カタ鉄の創成〕だよ。所謂、瞬間動作と魔力操作だね。創成はともかく縮地なら出来るんじゃない?表に出てやってみよっか。」


俺は胸が高鳴った。よっしゃ、やるぞ。俺なら出来ると豪語して、漫画での「シュシュシュ」と擬音語が添えられるばかりに動いた。


シュシュシュシュシュシュシュ…

シュシュシュシュシュシュシュ…


「イサオくん…それ反復横跳び…。」


そもそも縮地ってなんなんだ。

俺は悩みながら動き続けた。


シュシュシュシュシュシュシュシュ……








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