2話 自称冷静沈着な俺が気を動転させた日
ここはどこだろう。
目を覚ますと、そこは木造の古風な六畳一間の部屋に、自分が寝座っていた1つのベッドと、タンスとカーペットが置かれただけのなんとも質素な部屋だった。カーテンが閉まりきっていて、薄暗い心持ちを連想させるような所も実に俺らしい。実際俺の部屋もこんな感じだったから、妙な実家のような安心感を覚えた。
自分は確か死んだはずだが、どうして生きているのだという、臨死体験をすればまず考えるはずのふつつかな考えを思う。
俺は別段、焦りはしなかった。見ず知らずの場所にいることも、体がピンピンしていることも。それは多分目を覚ますと同時に感じられた実家のような安心感が相関したからだろう。
体を起こした俺はまずカーテンを開ける。緑が満載の、あたりは木々が立ち並ぶ森の中のような気がした。しかし、小説や多少のアニメーションでよくあるような、心の透き通るような今までの人生観を変えさせてくれるような大層な感情変化は起こらず、ただただ森の中だという認識をするのみだった。実に自分の心の浅はかさが嘆かわしい。
ますますどこだか分からなくなったが、俺は未だ平常心を保つことができた。それは正にこの部屋の実家のような…というのは言うまでもない。
俺は途方にくれ、無機質に窓の外を覗き込んだ。すると、一つ興味のひく風景があった。
――――――――翼の生えたキツネ。
俺はそれを見て流石に焦る。
なんで。あんな動物いたのか。何かのホムンクルスか何かか。何かの何かの何かか。普段冷静にかつ、現実的に物事を捉えていた(つもりの)気持ちよりも、俺がそこそこ見る小説やアニメーションによくある、明らかに非現実的なファンタジーな世界観で感じる興味の方が勝っていた。
これは余りにも自分で処理するのには無理がある。助けがいる。そう判断した瞬間だった。
俺は咄嗟に木造の古風な六畳一間の部屋を抜け出した。
すると、ドアを開けた先には一つ、大きな間取りのリビングとも言える部屋があった。しかし、そこにも目を疑う光景が、この俺上敷 功を震撼させた。
前には「電球がてらに光る猫」、「宙に浮いて食材が自然に切られる風景」、「喋る観葉植物」、「女の子の後ろ姿(女性経験の浅い俺にとっては驚き)」…全てが自分の経験上理解し難い光景が目の前にはあった。
落ち着け…俺…落ち着け…オイラ…落ち着け…拙者…
そうやって言い聞かせながら頭をクラクラさせて立ちすくんでいると、俺の存在に気づいた女の子は振り返り、問う。
「やっと起きたんだね、とっても嬉しい!」
もう少し情報の整理と時間が必要なようだ。肩より上ぐらいまでの、ちょうど良い長さである美しい銀色の髪。銀色の猫耳。控えめな花柄のエプロンに、大きな水色の瞳。雰囲気から、この子には心の汚濁が存在しないことが見て取れた。しかし、何故だろう。このなんの罪も無い天真爛漫な笑顔を、俺は今この段階では心から素直に受け入れることは到底できなかった。