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哀れな道化師は束の間の夢を見る

作者: 天堂まや

これは、フィクションであり、実在の人物や事象とは関係ありません(笑)。



 街にサーカス団がやって来ました。

 立ち上げたばかりで、目玉となる演目は少ないけれど、みんなが和気藹々と興行を楽しんでいました。

 サーカス団の評判を聞きつけた一人が、自分なら派手なパフォーマンスで観客を喜ばせることが出来ると言って仲間になりました。

 言葉が巧みな新しい仲間は、地味な仕事は嫌だと言って、古くからの団員に押し付けてしまいます。心の優しい団員たちは、新しい仲間の提案を聞き入れてあげました。

 ただ、ピエロだけが、口うるさく何度も注意をしました。

 新しい仲間は、自分のことだけを構うピエロが大嫌いでした。そして、観客に媚を売って下手な笑いしか得られないピエロのことを、とても馬鹿にしていました。誰にでも出来るような簡単な仕事にしがみついている、自尊心のない相手だと蔑んでいたのです。




 サーカス団の団長に上手く取り入った彼は、花形のブランコ乗りとしてデビューをしました。

 彼の登場する場面では、いつも拍手喝采がわきます。

 全演目の中で、一番観客が喜ぶ場面となりました。






 ところが、ある日。

 サーカス団の団長が、ふらりと消えてしまいました。

 残された団員たちはこの先どうしたら良いのか、迷うばかり。

 立ち上がったのは、ブランコ乗りが馬鹿にしていたピエロでした。

 ブランコ乗りが気付かなかっただけで、サーカス団を仕切っていたのは団長ではなく、裏方のピエロだったのです。興行日程や訓練、団員同士のいざこざの調停。団長は、ただピエロの提案に許可を出していただけでした。

 ピエロは、猛獣使いや、マジシャンたちを励まし、次の公演に向かうべく、サーカス団の立て直しを図りました。



 新しいサーカス団が街を去るとき、たくさんのお客さんが別れを告げに来てくれました。

 ブランコ乗りのところにも、数えきれないくらいの人が挨拶してくれました。

 そして、口々に言いました。

「あんたみたいな大ボラ吹きのブランコ乗りは、初めて見たよ!

 滑稽で面白かった!

 また、新しいネタを考えておいてくれよな」

「そうそう。あんな低い位置のブランコに乗って得意満面とか、ろくすっぽ技も披露してないのにドヤ顔とか、なかなか出来ないよ。

 道化師の鑑だせ、あんた」

「本当に面白かったぜ!」

 顔面から血の気が失せて行くのが、自分でもわかりました。

「……いや、もうこの団は辞めようと思ってて……」

「そうなのか? あんたみたいなブランコネタの道化師、雇ってくれるサーカス団があると良いな!

 ブランコ乗りはプライド高いから、馬鹿にされたって怒るかもしれねーぞ」

「道化師……」

「あんたんところの新しい団長のピエロなら、上手く使ってくれるだろうけどなあ」

 観客たちは、次々と話しを弾ませます。

「あのピエロ、職人芸だよな!

 あんたの大ボラ吹きも面白いけどよ」

「人を和ませるピエロって、難しいらしいぜ」

「あんまりにも真剣にやるから、つい見入っちまうんだよな。拍手も野次飛ばすのも忘れてさ」

「わかる」

 そして紡がれるのは、ブランコ乗りが散々馬鹿にしてきたピエロへの賛辞ばかり。

 ちやほやされることに慣れきったブランコ乗りには、耐え難い屈辱でした。



 ブランコ乗りは、仲間だった団員たちに罵詈雑言を浴びせ、さらにみんなが貯めた興行資金も持ち逃げして行方をくらましました。



 他所の街で、素性を隠し、もう一度ブランコ乗りとして華々しくデビューするこどを夢見て。



 けれど、その行状がすでに業界に知れ渡っていることを、本人は知りません。



 哀れな道化師は、束の間の夢に浸るばかり。



【おわり】


 これは、フィクションであり、実在の人物や事象とは関係ありません。

ご要望があれば、シリーズ化するかも?

ただ、道化師のことを考えると、ムカつくんですよね(笑)。

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