第7章
短刀と手刀が交錯する礼拝堂。戦士は踊り、埃舞う舞台を華々しく飾る。
短刀の切っ先は蜂を思わせる様な鋭い突きを繰り出す。手刀で塞がれれば、蝶の様に舞って相手の懐に入り込む。
白と金の鎧は装飾が施され、宝石を散りばめたドレスのように美しい。装着者の命を守るように鎧としての機能もしており、生半可な攻撃は通さない。
水色の髪と金色の瞳は、鎧にも負けぬ魅力と美しさを持ち、それらを一体としてみれば、まるで青空の化身が如く映る。
勇敢に立ち向かうを戦士を朝と例えるなら、魔王はまさに夜のようだった。
連戦だというのによろめきもせず、息が上がる様子もない。隙を見せたかと思えばそれを利用し相手に迫る。暗闇が如く、その表情を見せない。
薄汚いローブからは細い腕が一本伸びるのみ。小指から親指までを真っ直ぐに伸ばし、剣のように構える。
ふざけてる。誇りを持った戦士は皆そう思うだろう。子供のおふざけともとれるデタラメな構えと手刀に、鼻で笑った者もきっといただろう。
しかし、魔王に挑むということは、己の常識を捨て去る必要もある。何故なら相手は魔王、常識など、この場では視界を曇らせるものでしかないのだから。
「くっ! 流石魔王というところでしょうか」
互角とも見えた戦いは、徐々に青空の勇者を劣勢に追い込んでいた。表情にも僅かに疲労の色が窺える。
一方、魔王はいまだフードを目深く被り表情を表さない。
人形を戦わせてるのでは、と疑問に思うが魔王が纏うオーラがそれを否定する。
そう、オーラが出ている。けれどそれは闘志やら快楽やらとはまた別のものだった。
青空の勇者もそれに気付いているのか、たまに困惑した表情で敵を見ている場面があった。
再び戦士が攻撃を仕掛け短剣と手刀の剣戟が音を奏でる。
両者は何回目かも分からぬ鍔迫り合いの後、一気に距離を空ける。
そこで、戦士は我慢ならないという風に、魔王を睨み声を上げた。
「貴様、舐めているのか? 守るばかりではなく、攻めたらどうだ」
体力の消耗を狙っている、という考えも出来る。現に体力を失っているのは勇者の方だ。
だがそれ以前に妙な違和感があった。攻めないだけでなく、言葉も発しない、反撃する際必ず弾かれる。言葉を口にするかいなかは別にしても、反撃が弾かれるのは可笑しいと誰もが思うことだろう。
敵の攻撃をいなし、転じて攻めるからこその反撃である。何度も剣の軌跡をかわした者が2度3度の軌道を読めないはずがない。
戦士はまた短剣を突き出す、魔王がそれをかわす、戦士が隙を見て攻撃、魔王が攻撃を読んで反撃、それをまた戦士が弾く。
永遠に等しいほどのやり取りが繰り返される。
斬って、読まれて、かわされて、斬って、かわされ、反撃され、弾いて、飛んで、また突っ込む。
もはや終わりはないのか、両者が永遠に剣戟を響かせると思ったその時だった。
「くっ……!」
「……」
相討ちだった。
両者とも右腕に傷を負った。命を奪う程の傷ではなかった、しかし、両者が初めて負わせた傷である。そこから滲み出る血が、気持ちを外に追いやるように面積を広げていく。
「……貴様は一体どういうつもりだ。殺そうと思えば殺せただろうに、何故だ? 理由があるのなら言え!」
しかし、何も返っては来ない。
そして、何を思ったのか、戦士は大股で魔王に迫り、そのフードを捲り上げた。
青き勇者は魔王の顔を見て大きく口をあける。
そう、魔王はこの激しい戦闘を、寝たまま行っていたのだった。




