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魔王は夢を語る  作者: 無頼 チャイ
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第2章

挿絵(By みてみん)

 「ひっ! もうしません、だから、命だけは!」

 「すまんな、貴様だけ特別扱いは出来ぬのだ」


 指先から暗い紫の球体が男の胸を貫く。

 男は恐怖の表情を残して死んだ。

 「ほら」

 魔王は男が握っていた袋を取り上げ、近くにいた少年に投げ渡す。

 「貴様のだろう、取り返してやった」

 そういった直後、少年は血の気の引いた顔で走り去っていった。

 ここは王国のとある路地裏。光りの届かぬ場所には血の後が色濃く残っている。

 魔王にも返り血が酷くこびりついているが、本人はどこ吹く風という様に気にしていない様子だ。


 「リヤン様! 何をしているのですか!!」

 薄暗い路地裏に一人の女神がやって来た。

 女神は血と亡骸を見て、状況を理解したのか深く溜め息を吐いている。

 「またですか、悪い人間を殺せば世の中が平和になるわけではないんですよ」

 興奮気味のルシスは、しっかりとした口調で魔王に告げる。

 「この人に家族がいたらどうするのですか? 奪えば失うものもあるんですよ!」

 しかし魔王は、無表情を変えない。

 「ふん、知ったことか。そもそも貴様が言ったのだろう、悪い人間がいるから世の中は良くならない、と」

 ルシスは薄い桃色の唇を強く噛み、抗議する。

 「悪い人間と決め付ける根拠も無い人を無情にも殺すあなたが悪人です!」


 それでも、魔王は冷たい表情のままだった。

 「ふん、平和とは、本当に良く分からないものだな」

 腕を組んで考える魔王、その淡々とした口調に真剣さを感じとることは不可能だった。


 血を拭いた魔王は、路地裏を抜け出し城下町に出る。

 薄暗い路地裏とは一変、城下町は人間で溢れかえり活気のある店がいくつも並んでいる。


 もっとも、魔王にとってそれは意味を持たない。

 「ルシス、行くぞ」

 はい、と言って女神は魔王の後ろを付いていく。

 「……あら?」

 「どうした?」

 ルシスの視線は、キョロキョロと辺りを見ている女の子に向けられていた。

 「君、大丈夫? お母さんやお父さんは」

 女神は直ぐに駆け寄った。笑顔で女の子に接するが、反応はイマイチだ。

 「おばさん、誰?」

 「おば! お姉さんは騎士だよ~」

 血管が浮き出て見える、ルシスの笑顔はどこかきつくなった。


 「貴様、どうしたのだ。早く答えろ」

 「リヤン様! それじゃ怖がってしまいます。せめて笑って下さい」

 「笑う? こうか」

 リヤンは口の端と端を吊り上げる。しかし目は笑っていない。

 「リヤン様! それは笑顔ではありません!」

 「うるさい、貴様は黙っていろ」

 「ふふっ、お兄ちゃん達面白い」

 女の子は両手で口を押さえて笑う。どうやら今のやり取りが面白かったらしい。


 ルシスは、好機と思ってか笑顔を作り直して女の子に質問する。

 「でしょ~、私面白いんだよ。それで、あなたのお母さんとお父さんがどこにいるか知りたいんだけど、良いかな?」

 「さっきまでお母さんといたの、けど、お母さんが迷子になっちゃったの」

 女の子はハキハキと教えてくれた。

 一通り聞いたルシスは、なるほどと呟く。

 「リヤン様、私は1回店の並ぶ方を見ていきます。今教えてもらった特徴なら直ぐに見つかるでしょう。リヤン様はしっかりとその子を見張ってて下さい」

 そう言い残したルシスは人の波に消えた。


 「……」

 「お兄ちゃん、笑顔下手だったね」

 見上げる少女は、面白そうに言った。

 「こうやって笑うんだよ!」

 そういって、女の子はにぃーっと白い歯を見せる様に笑う。

 「……こうか」

 魔王もまた、歯を見せて笑う。

 「ううん、もっとこう、にぃー」

 「にぃー……」

 魔王と少女のやり取りを見た人は、微笑みなから過ぎ去っていく。

 「お兄ちゃん、笑顔下手くそだね。こんなに下手な人、初めて見た」

 「……そうか」

 魔王は淡々と相槌を打つ。

 「お兄ちゃんは、何でそんなに笑顔が下手なの?」

 「この姿に慣れてないからだ」

 女の子は首を傾げる。

 人間の姿をするようになったのは、ルシスからの提案だ。人間の姿である方が面倒事が少ないとリヤンは言われていた。

 実際、人間の姿を知っている者はほとんどいない。本当の姿は英雄や勇者が噂に広めたため、かなり知られていることだろう。


 「じゃあ、じゃあ、お兄ちゃんは何が好き?」

 「好きとは?」

 「ご飯とか、遊びとか、お花!」

 女の子は指を一本一本折りながら教える。

 「無いな」

 「えー、無いの~」

 女の子は不満そうに眉を八の字にする。魔王はそれを無視してルシスの帰りを待った。

 「じゃあ、夢は?」

 「夢か、夢ならある。世界平和だ」

 わぁー、凄い! と女の子。

 「お兄ちゃんの夢には、笑顔の人もいる?」

 「笑顔? 何故いる必要がある」

 今度は魔王が首を傾げる。子供はだってと話しを区切りながら。

 「笑顔の人がいっぱいいたら、とっても平和でしょ」

 魔王は目を見開いた。そんな平和もあるのかという風に。

 「連れて来ました」

 「あっ! お母さん!」

 女の子は急いで母親の元に駆け寄り、抱きつく。母親も心配そうに優しく女の子を抱き包む。

 「この子がお世話になりました」

 母親は魔王と女神に向かって深々と頭を下げる。その後親子は人波に消えた。


 「なあ、ルシスよ」

 「はい、何でしょうか」

 「平和とは、様々なのだな」

 はい? と言う言葉を最後に、魔王は再び悪人を探し始めた。

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