序章
世界は魔王の手に落ちた。
しかし、全てが変わった訳ではない。魔王に降伏した王国は変わらず活気がある。
魔王に貢献した魔物は、今も人知れず戦っている。
1つだけ、変わったというのならそれは魔王の目的だろう。
ある日の事だ。人類を降伏させるという、魔王の使命を叶えた偉大なる王は、とある王国へ行く途中、お花畑で遊ぶ子供を見た。
「貴様、何をしている」
いたって当然に声をかける魔王。幼い少女は無邪気に振り向いた。
「おはなのかんむりをつくってるんだよ」
「花で?」
魔王は首を傾げた。人間の姿で。
「うん! スッゴいキレイなんだよ」
できたー! と女の子は花冠を天にかざしながら叫ぶ。
魔王はそれを、雲が流れるのと同じような気持ちで観察している。
「おにいちゃん、かぶってみて」
魔王は、気まぐれに少女の言うことを従い、少女の背丈に合わせて屈んだ。
「うん、かわいい!」
魔王は無表情のまま、女の子の歓喜の声を聞いた。
遠目から見れば、年の離れた兄弟が遊んでいる見たいである。
「おにいちゃんは、ゆうしゃさま?」
女の子の純粋な質問に、魔王は首を横に振った。
「そっか、じゃあ、せかいがへいわになったら、なにしたい?」
「……平和?」
「うん! わたしね、せかいがへいわになって、おとなになったら、いろんなところにいくのがゆめなの!」
へへっ、と女の子は恥ずかしそうに笑う。けれど、その目は真っ直ぐ未来へと向けられていた。
「それは、何だ?」
「ん? なにって」
「その、平和とやらは、何だ?」
魔王は少女に尋ねる。
今まで聞いたことが無い、そんな風に魔王は興味からか聞いていた。
「へいわってね、みんながしあわせなことなんだよ! だれもやったことのないへいわを、ゆうしゃさまがつくってくれるんだってママがいってた!」
「誰も、やったことがない……」
その言葉を聞いた魔王は、虚ろだった目に、微かに光が宿る。
「良いことを聞いた。なら、我がそれを叶えて見せよう」
「じゃあ、おにいちゃんのゆめだね!」
と、女の子は無邪気に笑う。
「そうか、それを『夢』というのか」
そのおはなあげる! といって女の子は近くの町に走り去っていった。
「誰もやったことがないのなら、この灰のような我の人生を彩ってくれるだけのことはあるだろう」
そう言い残し、魔王はもと来た道を歩む。
これは、魔王が夢を知る物語。




