ムーとニュートン
2016年5月19日現在の時事ネタなので、そのうちに消す可能性あり。
科学雑誌ニュートンとオカルト雑誌ムーのtweet対決がちょっとした話題になっている。
ニュートンのほうが、「ムーの中の人はどこまで信じて原稿を書いているんですか?」と相手を挑発したことから始まったようだ。
科学対オカルトなので、ニュートンが圧勝しそうなものだが、ムーが優勢で、最終的に和解したらしい。
私は、この両誌についてちょっとした思い出がある。
高校一年のとき、よく書店でニュートンを立ち読みした。あるとき、自分で買おうと思って書店にでかけた。そのとき、隣にムーという怪しい雑誌が並んでいた。表紙を眺めると、記憶力が百倍になる方法という実用特集が目についた。信用したわけではないが、たかが数百円で記憶力が百倍になるのなら安いものだと思い、金をドブに捨てるつもりで購入した。もちろん、ニュートンのほうも買った。
肝心の記憶力特集は、記憶したい物事を紐づければ、思い出すのが簡単になるといったような内容で、それでは記憶に費やす時間が百分の一になっても、物事の関連づけが面倒で時間がかかるので、普通に覚えたほうがいいと思い、一度読んだきりだった。
翌月も同じようにニュートンを買いにいった。また同じように並んでいたのでムーも購入した。
前回、百倍記憶術だった実用特集記事は、その年のベスト記事に選ばれた超能力仙道入門だった。著者は高藤聡一郎。語学好きが高じて世界放浪をした挙げ句、体を壊し、医者から匙を投げられ、藁をもつかむ思いで、台湾の仙道家を訪れて、健康を取り戻した人物だ。
記事の内容は、気というエネルギーを体に取り入れて、超人的能力を開発するというもので、ずばり、仙人になる方法だった。
仙人といえば、髭の長い老人という空想上の存在と思っていたが、トレーニング方法が確立しているらしい。その最終目標は不老不死だった。
試しに、そこに載っていた呼吸法などを行ってみたら、腹の辺りが暖かくなり、手などにもやっとした静電気のような感触を感じるようになった。
十六歳という、気が流れるルートが完全にはふさがっていない、仙道を始めるのにもっともふさわしい年齢だったこともあったのだろう。実際に体に変化が起きて、少なくとも、すべてがインチキとは思えなかった。
翌月以降も両誌を買い続けた。
翌年、高藤氏の実用特集記事で、気功法がとりあげられた。今ではすっかり有名になったが、当時は知る人はほとんどいなかった。これは呼吸と体操で、気を体に巡らす健康法で、太極拳などもそのひとつだ。世間的には年寄りの健康体操というイメージがあるが、気が弱まり流れにくくなっているので、歳をとってからはじめてもあまり効果はない。
すでに気を感じることができ、体に充満していたので、やってみると効果があるように思えた。だが、体を動かすことが好きではないので、それほど熱心にはやらなかった。
ここまでの話では単なる本人の思いこみで片づけることができるが、第三者にも影響を与えていた。
飼っていた猫が風邪気味なので、頭に手のひらをかざして気を送り込んだ。結果、風邪は治らなかったが、皮膚が痒くなるようだった。特に夕方の時間帯がひどく、私の部屋のドアの前に来ては、ニャーニャーと騒いでいた。
ドアを開けると、普段は自分から近づくことはないのに、甘えるように私の足下にやってきた。あごの辺りを掻いてやると、気持ちよさそうにしていた。柱や壁などに顔をこすりつけ、その部分の毛が薄くなるほどだったから、仕方がない。他に二匹試して、同じ現象が起きたので、なんらかの生理作用があったのだろう。
断っておくが、動物実験をしたのではない。あくまで猫たちの健康を考えてしたことだ。痒みというデメリットがあっても、血行促進というメリットもあったに違いない。交通事故などで三匹のうち二匹は天寿を全うできなかったが、一匹は歯が全部抜け落ちるまで長生きした。
仙道と気功以外に、数息観という瞑想法を試したことがある。目を閉じて、ゆっくりと呼吸を数えて、精神を落ち着かせるものだ。書かれたとおりに試してみると、天井がミシミシと鳴ったので、すぐに中断した。もう一度行っても、同じように天井から音がする。怖くなったので、それっきりとなった。
もうひとつ、役に立った記事がある。
サン・ジェルマンというフランス革命前のパリ社交界に登場した、ヨーロッパ最大の謎の人物特集だ。どう役に立ったかというと、現在掲載中の「天使たちの落日」にもうすぐ登場してもらうことになるからだ。
この人物のことはすっかり忘れていたが、二階堂黎人氏の人狼城の恐怖という作品を読んで、存在を思い出した。最初にムーで読んだときは、凄い人間もいるものだと思った程度だが、二階堂氏の作品に接したときに、これは********ではないかと思い至り、当時書きかけだった天使たちの落日のストーリーを変更することになった。
実は人狼城の恐怖を全部読んだわけではない。これは世界最長の推理小説と呼ばれていて、四巻に別れている。問題編が二冊で、これはどちらから読んでもいい。解答編も二冊だが順番に読む必要がある。古本屋でそのうちの二冊、第二巻と三巻という中途半端な組み合わせを見つけて購入し、二巻と、ネタバレがいやなので三巻の冒頭しか読んでいない。
こうやって効果があったものを書いているので、ムーは素晴らしい雑誌かというととんでもない。玉石混淆という言葉があるが、たくさんの石のなかにごくわずかに玉が混ざっているだけだ。
特に終末ものはひどかった。ハルマゲドン、黙示録、イエスの再臨。オカルトライター達は何もわかっていないようである。
ニュートンは一年程度で飽きてしまい、ついでに買ったムーもマンネリが目立つようになり、ときどき買う程度になった。
一方、高藤氏の単行本は買いそろえた。その中で仙道帝財術入門は中古で何万もの値段がついているらしいが、売るつもりはない。二度と購入できなくなるからだ。ノストラダムス関連の本はどれも無価値になった。氏の書籍はそれなりに脚色しているようだが、いまだに価値を失っていないと思える。
私は今では、少し意識しただけで、背中から頭にかけて気が流れていくのを感じる。あぐらをかいた状態で目を閉じると、腰の辺りから大量の気が頭のほうへ上がっていく。頭で止まったままではなく、鼻、喉、胸と下に降りていく。特に飲んだり、食べたりした直後は勢いが強く、体内を液体が流れているようだ。これは水や食べ物などから気を吸収したということか。
入浴という行為でも大量の気を吸収するようで、風呂から出てしばらく経っても、出たてのままのような感覚が消えない。頭頂に気を集めると、柑橘系の香りがしたり、キーンという音が聞こえることがある。
手のひらや指の先を、体の他の部位に近づけて動かすと、両方に気を感じる。ぴりぴりした感覚だったり、熱だったり、その内容も調整できる。
仰向けに寝て体を伸ばすと、脚の内側や腕に気が流れ、暖かくなる。そのため、仰向けで眠るのが難しい。
気功や仙道は、いいことばかりではない。頭に気が上がっていくのでのぼせやすく、睡眠で大量の気を吸収するので、よく夜中に目が覚めてしまい、人に勧めるつもりはない。気が原因がどうかわからないが、冬場の静電気がしゃれにならないくらいひどい。金属製の取っ手があると、感電する恐怖を覚え、直接手で触れないようにしている。
気と曖昧に書いてきたが、正体は生体電磁場なのだろう。人間ならば誰もが持っている。それを気功や仙道というトレーニングで、強化し、感じやすくし、脳波などで流れを調整できるようにするのだろう。ある気功家を測定したら、常人の何十倍のガウス値が測定されたそうだ。私も、頭の前のほうに気を持ってくると、上から押さえつけられるような感覚がする。やはり弱い磁力なのだろうか。
ムーとニュートンというタイトルなのにムー関連ばかり書いたが、ニュートンについて少し。
高校時代に東大出の物理教師がいた。さすがに東大出だけあって、余計な無駄話は一切しないのだが、毎回授業の始めに何故か二、三分費やして、ニュートンの著作プリンキピアのコピーを配っていた。物理に興味を持ってもらうためと言っていたが、誰ひとりとして読んでいなかった。秘密結社の儀式のようで気味が悪かった。