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憑神さん家のお家騒動  作者: 岸波 神社
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第一話 美しき侵略者

処女作です。よろしくお願いします。

 <ザ ワールド!時よ止まれ!>


 ジリリリと鳴り響く朝の騒音の中、少年の心を支配していたのはそんな思いだった。昨晩は大好きな漫画を読みふけっていたため、布団に入ったのが深夜3時過ぎ。おかげで、やけに体が重い......。こんなけだるい思いをするなら、もう少し早く寝るべきだった。昨日の自分を呪いながら、火武輝ひぶきは枕元に置かれた目覚まし時計を裏拳で器用に止める。


 未だ、頭はぼーっとしている。出来る事ならこのまま、もう一度眠りにつきたい。......だが、そうもいかない。なぜなら、今日はとても大事な日。中学三年間を締めくくる最後の日。そう、今日は卒業式だった。絶対に寝坊する訳にはいかない。まるで、重りでも乗せられているかの様に固く閉ざされたまぶたを開き、火武輝は目覚める事にした。


 最初に目に飛び来んでくるのは、いつもの見慣れた天井......の、はずだった。


 だが、今日は違う。


 寝起きの火武輝が目の当たりにしたのは、絶世の美女なんて言葉では言い表せない!しいて言えば、この世の美を全てかき集め、創造されたとしか思えない絶対的存在!そんな神秘性を秘めた美少女が、裸エプロンで馬乗りになり、自分を覗き込んでくるという異様な光景であった。


 ブルーマリンを彷彿させる少女の澄んだ瞳に、火武輝の姿が映し出される。

 腰まで伸びた少女の銀色の髪は、薄暗い部屋に差し込む朝日によってキラキラと輝き、それはまるで、彼女から後光が射しているような錯覚さえ感じさせる。

 

 幻想的な光景に火武輝が目を奪われていると、少女はおもむろに上体を起こす。そして、上半身がしっかり見えるよう、細くしなやかな腕を後ろに組み、やけに豊満な胸を強調させながら言葉を落とした。


 『ねぇ......何点?』


 花水楼かむろの甘い声が、空気に溶け込んだ。




 憑神つきがみ 花水楼かむろ15歳


 美しくも恐ろしい。

 この裸エプロンの美少女は、火武輝ひぶきの姉である。


 姉と言っても年上ではない。

 火武輝と花水楼は二卵性の双子として産まれた。


 常にポーカーフェイスの花水楼だが、内に秘めた情熱はまさに烈火の如し。

 <猪をもしのぐ猪突猛進>をもっとうに、花水楼は自分の欲求に実に正直に生きている。


 その証拠が、現在の状況である。

 なぜ、花水楼がこんなあられもない姿で火武輝の上にいるかというと、


 ......それは、夜這いである。


 いや、今は朝なので朝這いとでも言うべきか......。


 昔からブラコン気質だった花水楼だが、中学に上がった途端なぜか性への興味が爆発し、火武輝は毎日襲われるようになった。


 火武輝がいくら説得を試みても、花水楼はまったく聞く耳を持たない。

 それどころか、日に日に行為はエスカレートしていき、所かまわず肉欲をぶつけるようになっていった。本気で身の危険を感じた火武輝は、ある日、花水楼に提案を持ちかけた。


 一つ、夜這いは月三回まで!(家でのみ)

 一つ、夜這い時には必ず何かしらのコスプレで挑む事!

 一つ、敏感部分へのお触りは禁止!


 『以上の条件を守り、自分の魅力だけで勝負するように!もし、僕に100点と言わせる事が出来れば、その時は童貞でも何でもくれてやる!』


 火武輝は、そう高々に宣言したのであった。


 ......だが、もちろんこれは嘘である。彼に近親相姦などという趣味は無い。


 これはあくまで花水楼の蹂躙じゅうりんを阻止するための手段であって、100点を出す気など火武輝にはさらさら無いのである。


 そんな事とはつゆ知らず、花水楼は快く提案を受け入れた。

 こうして憑神家では、童貞を賭けた<初物ファイト>が、定期的に開催されているのであった。


 こんなどうしょうもない姉の事を、花水楼の『花』の字をもじり『ハナ』と、火武輝は親しみを込めて呼んでいる。


 

 『どうひーたん......ゾクゾクする?』


 『......今日はまた一段と気合い入ってんなぁ』


 『だって今日は卒業式、本気......出してみました』


 『出さんで良い!』


 『こんな事もできる』


 そうこぼすと、ハナは体を左右に振り、揺れる胸を火武輝に見せつけてくる。

 

 (バイン バイン バイン バイン)


 自然と火武輝の頭の中で擬音が鳴る。

 目の前の光景と相まって、脳内はまさにLIVE状態だ。


 おっと......いかんいかん。

 火武輝は自分を律し、重要な質問をする事にした。


 『裸エプロンてのは分かった。でっ、今日は一体何なんだ?』


 『ふふふっ今日は......激しい初夜を経て、甘い朝を迎える新婚夫婦』


 『なっ!』



 火武輝に衝撃が走る!驚きのあまり、体は小刻みに震えた。


 ......それも無理は無い。


 この<初物ファイト>では、コスプレで挑む事をハナは義務づけられている。

 なぜ、火武輝がコスプレを提案したかというと、試行錯誤や制作に時間がかかるためだ。その間は狙われる心配は無い。そう考えての事だった。

 その判断は、おおむね間違ってはいなかった。目標が定まれば猪突猛進!ハナは火武輝に目もくれず、制作に専念していった。


 だが......思わぬ誤算があった。

 

 ハナのコスプレには、もれなく設定がついてきたのだ。

 この設定が、新たに火武輝を悩ませる元凶となっていた。


 ハナの設定は様々だが、どれも常軌を逸している......。


 例えば、

 

 指に刺さったこんにゃくが取れなくなったナースや、ヨーグルトが嫌いな関西弁のメイドなど、他にも奇想天外なバリエーションが満載だ。こんな意味不明な設定で挑んでくるのだ。本気で誘惑しているのかさえ疑わしい。百歩譲ったとしても、到底100点など出るはずもない。


 にも関わらず、どこがダメなのかをハナは必要以上に聞いてくる。あげくの果てに、その理由に納得いかなければ、そのままの格好で登校しようとする。スクール水着で登校しようとした際には、火武輝もさすがに土下座した。

 

 それが、今回は裸エプロン!


 おまけに、いつもと違い、今日のハナはアホな設定をしていない。いつもなら、設定を理由にやり込めたが、今回はそうもいかない。例え、土下座をしたとしても、許してもらえる確率はかなり低いだろう。いつも以上に慎重に対応しなければ、前代未聞の裸エプロン卒業式が実現してしまう。それだけは、絶対に阻止しなければならない!


 火武輝にとって負けられない戦いが、幕を開けた。


 『ねぇ、ひーたん......何で黙ってるの?』


 『くっ......なっなかなかやるじゃないか』


 『ふふっ......今日のハナに隙はない......今までのはただのお遊び』


 『嘘つけー!お前こないだ、おもっきし泣いてたじゃねーか!』


 『あれは、涙じゃない。我慢汁』


 『どっから出てんだよ!てか、お前にそんな機能はねー!』


 『それより、卒業式の日に童貞も卒業だなんて......ふふっ、さすがひーたん。被ってるだけあって、被せてくるのね』


 『被せてねーよ!......てっ、おい!ちょっと待て!なんでお前が僕のMy son事情を知っている!?』


 『簡単......家中に備え付けてあるひーたんカメラが、ハナに真実を教えてくれる』


 『恐えーよー!外せ!今すぐ外せ!』


 『ダメ......あれはハナのおかず。それよりひーたん......何点?これ以上の時間稼ぎは無駄......無駄無駄』

 

 見事にバレていた。火武輝の額に汗が滲む。会話の最中に色々と考えを巡らせてはいたが、良い案は浮かばなかった。確かに、今日のハナに付け入る隙はない。このままでは、まずい!なんとしても突破口を見つけなくては!火武輝は、血眼になり敵の弱点を探る。


 全体的に、可愛らしいフリルをあしらった白いエプロン。

 それを、真珠の様に白く滑らかな肌の上から下着も付けず着用しているのだ。男心をくすぐらないはずはない。


 『ねぇ、ひーたん......もう諦めてその肉棒を差し出して』

 

 卑猥な言葉が室内に響く。


 くそ!どこだ?!どこかにあるはずなんだ!

 ハナの顔、胸、ふともも、首、胸、胸、胸!と見ていき、ある箇所で目が止まる。


 !?......これだ!!!


 たゆまぬ努力の果てに、ついに火武輝は光明を得た!



 『ひーたん、往生際が悪い......さぁ答えて......何点?』


 しびれを切らしたのか、ハナは火武輝に覆いかぶさり、急かすように迫る。

 だが、火武輝はそれに動じない。真っすぐにハナを見上げ、渾身の一言を喉から絞り出した。


 『85点!!!』


 『なっ......なんですとー!!!』


 思いもよらぬ点数に、ハナは絶叫する。

 さながら、ムンクの叫びのような表情が誕生し、無表情は見る影も無かった。


 『いいかハナ!お前は決定的なミスを犯している!』


 『ミ......ミス?!そっ......そんなはずない!今日のハナは完璧!』


 ハナは、息巻いて火武輝に迫る!


 『いや、それは違う!』


 『どこがダメなの?!どうして戦争はなくらないの?』


 『いや......そんな大それた質問を僕にするな......荷が重い。とにかく!お前はあれを見落としている!あの高貴な存在を!』


 『高貴な存在?!』


 『そうだ!それは......』


 『そっ......それは?』


 ハナは固唾を飲み、火武輝の回答を待つ。その表情は真剣そのものだ。

 互いの緊張がピークに達した時、火武輝はついに火蓋を切った。


 『それは!ニーハイソックスだー!!!』


 『....................................』


 沈黙。


 その一言は、ハナを元の無表情に戻すのに充分であった。


 『いっ......いいかハナ!裸エプロン!その選択肢は間違っちゃいない!むしろ大好物だ!だがしかーし!それだけで僕は満足しない!あえてしない!なぜならば!裸エプロンにニーハイソックスを装備する事でなんとも言えないエロスが次元を超えてエクスプロージョンするからだー!』


 『...................................』


 それは、


 まぎれも無く、


 こじつけであった。


 いくら頑張ってもハナの落ち度を見つける事ができなかった火武輝は、悩みに悩み、辿り着いた答えが、このこじつけである。



 『おっ惜しかったなー!そのコンボで迫ってさえいれば、確実に100点を取れていただろうに。裸エプロンというウエポンを過信したお前の負けだ!さぁ、分かったなら今すぐ僕の上から下りてもらおうか!』



 強気な発言をした火武輝ではあるが、流れ出る汗を止める事は出来なかった。これしか打つ手が無いとは言え、あまりにも強引過ぎる手段だ。だが、これで粘る他無い。後は、ハナの天然さに賭けるしか道は無いのだ。火武輝は腹をくくった。


 一方ハナは、依然として沈黙を保ったままだった。ハナの青く澄んだ瞳が、ただただ火武輝を射抜く。数度呼吸を繰り返したの後、ハナはふいに笑みを浮かべた。そして、いつもとはまったく違う、はつらつとした声で、火武輝に語りかける。

 

 『そっかー!そんなコンボがあったなんてー!さすがひーたん!』


 やった!乗り切った!

 火武輝は心の中で強く拳を握り、ガッツポーズを決める。


 『そそっそーなんだよー!びっくりだろ?』


 『うん!びっくり!ニーハイソックスは思いつかなかった!くやしーい』


 『まぁ気を落とすなよ!今回はいい勉強になっただろ?次回、また頑張れよ!』


 『うん!次こそは絶対負けない!なんとしてもひーたんの童貞はハナが奪う!明日からまたエロ特訓だー!あっ!もうこんな時間!急いでひーたん!早く着替えて学校行こう!......って言うとでも思った?』


 『え?』


 まさに一瞬だった。

 

 ほんの一瞬、息苦しさと共に、火武輝の視界が闇へと変わる。

 およそ、まばたき一つ程の時間で、火武輝は、


 パンツ一丁にされていた。



 『ぬうぅおぉぉぉぉぉー!』



 あまりの出来事に火武輝は、気づかぬうちに奇声をあげていた。反射的に手で胸を隠そうとしたが、それは叶わなかった。なんと、火武輝の手首にはロープが巻かれていたのだ。それもご丁寧な事に、プロ御用達の真っ赤なロープだ。その光景はさながら、SMプレイの様にも見えた。否、SMプレイそのものであった。


 『なっ!......』


 なんて事すんだー!ゾクゾクしちまうだろう!そう言いかけて、火武輝は慌ててその言葉を呑み込む。敵に塩を送る訳にはいかないのだ。


 そうこうしている内に、縛り上げられた火武輝の手は、ハナによって彼の頭上へと押さえ込まれる。

 

 『ねぇ、ひーたん......あんなのでハナが納得するとでも思った?』


 『いっいや、そそそっそんな事はないぞぅ......あぁ、あれは、ほら、あれだ!その......』


 縛られた事により多少興奮してしまった火武輝は、しどろもどろになりながらも答える。


 興奮している事を悟らせないため、火武輝はハナから目をそらした。だが、その目線の先にとんでもないモノを見つけ、驚愕した。


 それは、今の今まで自分が着ていたパジャマだった。それが、きれいに畳まれ、2mも先にある椅子の上にきちんと置かれていた。


 こいつ!あの一瞬でどうやって!?

 恐怖のあまり、震えが止まらない火武輝に、悪魔は囁く。


 『これでおしまい......ひーたんはもう犯される』


 そう耳にしたと同時に、火武輝の手にとんでもない圧力が加わる。その力は、女子中学生のものではない。いや、それはもう人間がどうこう出来るレベルではなかった。火武輝がいくら全力を出したとしても、決して振りほどく事などできない、圧倒的支配力。


 なぜなら、ハナの握力は、


 1000キロ


 そう、何を隠そう憑神つきがみ 花水楼かむろは、


 『超人』なのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!とても嬉しいです!

これからも頑張って連載していきますので、よろしくお願いします。

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