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そして彼らは

 彼女は空に星をばらまいた。


* *


 深い深い緑に囲まれた森の中。

獣道を奥へと進むと、小さな泉があった。

先ほどまでの景色はガラリと変わり、

見上げれば眩しい太陽と

どこまでも蒼い空が広がっていた。

光を反射した水面は七色に色を変え、

この場所だけがまるで隔離された異空間のようだった。

それは神秘的であり、神々しく、

しかし近づいてはならないと思わせる恐さがあった。


 獣道を抜けた1人の青年が、泉に辿り着いた。

青年とも、少年ともとれるような背格好の彼は畔に腰を下ろし、

思わず漏れた、というような小さな息を1つ吐いた。

少しして落ち着いたのか、目の前の泉に目をやり、

そっと手を伸ばす。


「あなた、ここで何をしているの?」


ビクッと身体を揺らした彼の手は泉に届く事なく宙を切る。

驚きと不安、少しの恐怖が思考を支配する中、

下を向いていた頭はギギギと壊れかけの機械のように、

ゆっくりと声の発信源へと上がって行った。


 バチリっと、それは見事に彼らの視線が合わさる。

声の主は、逆光のせいで顔がよく見えない。

それでも服装と声で相手が彼女だということは特定出来た。

額にじわりと垂れる冷や汗をそのままに、

彼の瞳は確かに彼女を映した。

そして彼は今度こそ息をのむ。

質問に答えずにこちらを凝視する彼に痺れを切らしたのか、

彼女はもう一度口を開いた。


「あなた、ここで何をしているの?」


訝しそうに自分を睨む彼女に再度問われ、

彼は弾かれたように答えた。


「あ、あの!別に怪しい者とかじゃなくて、

いや、あれ?何かこれ余計に怪しまれちゃうパターンか?

や、あのえっと。そう!俺登山家だからこの森見て登りたいな、

なんて。うん。それで歩いてたらここに。」


と、怪しさ満点で説明した。


「そう。あなたは登山家で、子供でも登れる標高の低い、

言うなれば、少し大きい丘ぐらいのこの森に惹かれたのね。」


「はい!そうです!」


もう言ってしまったからには引けないと、

はっきり、きっぱりと答える。

実に必死である。

だがその流れ続ける冷や汗と、

泳ぎまくった瞳が物語っている。

これはでまかせであると。


「・・・ふ〜ん。そう。」


「あの、・・はい。」


 これが後に国中に名を轟かす事となる、篠ノ乃女 蓮と神崎 リンの邂逅であった。


* *


 そして彼は静かに涙を流した。



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