1-7 お買い物
5000pv突破しました、ありがとうございます
そういえば、一週間の迷宮探索でそこそこの報酬を貰っていた気がする。
通貨の価値はイマイチよく分かっていないけど――今俺の手の中には形の不揃いな銀貨が十枚と、銅貨が三枚あった。
銀貨一枚で100ルド、銅貨一枚で10ルド。他にも、金貨やさらにその上の紅貨、なんて物もあるらしいが、とりあえずは縁のない貨幣らしい。
ユウは持ってるそうだが。
全部あわせて1030ルド。これを使って、何か買い物にでも出かけるか。
1030ルドで何が出来るかは分からないけど、出来ればナイフとか服とか、旅に使えるものを買いたい。
いつまでもアリシアに借りた服を着ているのも迷惑だからね。
ちなみに現在は、適当なシャツと長めのスカートという、いかにも女の子っぽい格好をしている。
どちらもさらさらとして着心地がいいので、結構高かったんじゃないだろうか?
町並みを見る限り、この世界には合成繊維とかなさそうだし。
よし、じゃあまずは服屋に行こうか。
□
地図を見ながら自転車を漕ぎ、どうにか服屋にたどり着いた。結構時間掛かっちゃったけど。
中に入ると、麻のような素材で出来た安っぽい服から俺が今来ている服と同じような材質ものまで、多種多様な服が飾られてあった。
基本的に高そうな服は奥、安そうな服は手前に置いてあるようだ。
どれくらいの値段なのかな~、と手前のほうを見ていると、店員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのような商品をお探しでしょうか?」
お、思っていたよりも店員のサービスがいいな。異世界だし、もっとしょぼいサービスかもと思っていたが。
でも、俺個人としてはこういう洋服店で店員に声を掛けられるのは苦手なんだけどな....しゃべるのが苦手だから。
「えっと....短パン?みたいなやつを....」
「なるほど、ではこちらへどうぞ」
服のこと、ましてや女性のファッションなんてまったく持って分からないので、とにかく知っている単語を言ってみた。
確か「短パン」ってのは短いズボンだったはず。スカートはやっぱりまだ抵抗があるし。
どうやら間違ってはいなかったようだと、ほっとしたのもつかの間、色んなデザインや色の短パンを持って「これは最近人気だ」とか「これが色合い的に似合う」だとかまくし立てる店員さん。
少し引き気味に話を聞いているとどんどんエスカレートして....
最終的に、何度も試着させられた結果、あれよあれよと言う間に三枚の動きやすそうなシャツと短パンを買うことになった。
これだけ買っても、たった65ルドで済んだのは少し驚いたけど。
俺が思っているよりは、ルドという貨幣の価値は高いのかもしれない。まあ、買った服が動きやすさ重視だったのもあるだろうけど。
「ありがとうございましたー」
ニコニコ笑顔の店員さんに見送られて、店を出る。買った服は袋の中だ。
服のデザインは世界観にマッチしてるけど、ここら辺は案外日本レベルだな....なんて考えつつ、地図を開く。
「う~ん....ここがいいかな」
選んだのは、ここから近い位置にある雑貨店のような場所だ。
次はそっちに行ってみるか。
□
雑貨店では、色々なことに使えそうな万能ナイフ的なものを買った。結構大きめのやつで、頑丈そうなものだ。
これも20ルドと思っていたよりも安く、俺の手持ちがなくなることはなさそうだ。そういえば、このお金ってここの迷宮のボスを倒して手に入れたんだっけ。
そりゃあ、結構な額になっていても不思議じゃないな。
そう考えると、1000ルドも持っていて大丈夫か心配になってくる。ま、考えるだけ無駄だから気にしないけどね~。
次に行く場所はもう決まっている。雑貨店でナイフを選んでいるときに決めた。
そう、魔法道具店だ。
地図を見ると、この町にもいくつかの魔法道具店が点在している。町の大きさと比較して考えると、結構需要がある店のようだ。
ここから一番近い魔法道具店は――すぐ目の前にあった。
よかった、また移動するのは面倒くさかったんだ。それでも、店などは結構密集してるんだけどね。
俺のこの足だとちょっときつい。
魔法道具店に入ると、そこには雑多に物が飾られていた。
杖のようなもの、四角い箱みたいななにか、魔方陣のようなものが描かれた四角い紙――
そしてカウンターには、「いかにも」といった感じのおじいちゃんが座っていた。
「何の用だい、お譲ちゃん」
何の用、といっても、魔法道具店に何があるかは分からないんだよなぁ....。
相場とかも分からないし――まあ、今までの服やナイフの値段からして、多分買えるだろ。
「あの、旅にあれば便利なものとかを探していて....」
嘘ではない。正直物珍しさから冷やかしに来ただけだけど、嘘は言っていない。
「ほう、その年で旅を....そうじゃな、それなら――」
そう言って取り出したのは、青いコップのようなものと、さっき見かけた魔法陣のような絵が描かれた紙だった。
「それは?」
「こっちは水を生み出す魔法道具で、こっちは一度だけバリアーを生み出す使い捨てのスクロールじゃ」
どうやら、コップのようなものは魔力を注げば水が出てくる魔法道具で、紙のほうはスクロール、と呼ばれる物だそうだ。
スクロールは、魔法が使えなくても魔力さえ注げば魔法が発動する、というものらしい。
使い捨てではない、何度も使えるものもあるそうだが、そちらは少しお高いのでやめておいたほうがいいとのこと。
ちなみに、魔法を使うよりはスクロールを使ったほうが魔力の変換効率が悪いそうだ。
つまり、魔法を覚えたほうが魔力の消費は少ない、と。
「もし危なくなったらこれを使えばいいじゃろう」
「何円――じゃなくて、何ルドなんですか?」
「水の魔法道具が500ルド、魔法障壁のスクロールが300ルドじゃな」
おぅふ。結構高いな。ほとんどお金を使ってしまいそうだ――けど、話を聞く限りでは中々に役に立つ代物っぽいので、買っておくことにする。
やっぱり、安全マージンはしっかりと、ね。
魔法道具店を出たところで気がついたが――魔力って、どうやって注ぐんだろう?
....多分、ユウが知ってるだろう。知ってる、よね?
帰ったら聞いてみよう。
そう思った直後――
唐突に腕をつかまれ、無理やり路地裏に引っ張り込まれた。
あまりに突然のことだったので、反応をする暇も銃を抜く時間もなくあっけなく引っ張りこまれる。
「動くな。動いたら殺すぞ」
体が硬直して、手足の感覚が遠くなる。
男の声が、やけに大きく響いた。
と、その直後。
全身に電撃が走ったかと思うと、急速に意識が薄れていった。
□
オレがこの世界に来たとき、何故かオレが嵌っていたゲームの能力を受け継いでいた。
AR――拡張現実のように目の前に浮かぶ半透明のウィンドウ。そこには、マップや自分の名前、レベル、スキル、種族、状態、HP、MPだけではなく、他人のものまで表示される。表示されるのは目の前の人間のものだけだが、フレンド登録した人物ならば離れていても確認が可能だ。
今朝、オレはこの能力があれば大丈夫だと考え、優貴を一人で町に送り出した。
万が一暴漢に襲われたりすれば、即座に転移魔法でそこまで行って暴漢を倒せばいいだけの話だからだ。
しかし、その考えは甘かったと思わざるを得ない。
ただの暴漢ではない、おそらく大手の裏奴隷商だろう。
一瞬にして優貴の状態が【麻痺】【昏睡】になったかと思うと、マップから優貴のマーカーが消える。
転移魔法だろう。
オレのマップは範囲内の地形やオススメのお店やらなんやら、無駄に見れる情報量が多い割りに表示範囲が狭い。
つまり、表示範囲外にすぐさま転移されたら追跡のしようがないのだ。
まずい。
転移魔法が使えるのは、オレだけではない。
この世界に転移したとき、自分だけが特別ではないと言い聞かせたはずなのに。油断してしまった。
その結果、優貴が酷い目にあうかもしれない。
....そんなことは絶対にさせない。
スキル【天舞】を使い、最高速で空へと飛び立った。