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3-9 ダイメ

「タリア!」


 ユウが叫ぶ。が、時すでに遅し。

 高く掲げられた触手は今にも振り下ろさんと振りかぶられている。もう、手遅れかに見えた。が。


「ほいっ!」


 ユウがひゅっと手を動かすと、タリアが触手から飛び出した。


「え!?」


 驚いた声を上げたのは俺だったかルルだったか、はたまたアリシアだったか。もしかしたらタリア自身の声だったのかもしれない。

 空を飛んでいたタリアは、綺麗に放物線を描いてユウの隣に降り立った。

 だが、当のタリアはぽかーんとした顔で呆然としている。


「ちょ、ユウさん!?どういうことなんですか?」

「理術だよ、理術」

「いやいやいや、それができるなら初めからダイメの動きを止めればいいじゃないですか!」

「理術ってのは本来、戦闘中に使えるような代物じゃないんだよ。それに、生物は動かせないんだ」


 瞬間、我にかえったダイメが動き出そうとした。

 しかし、それが叶うことはない。


「俺たちを忘れて貰っちゃあ困るぜ!」

「おうよ!客にばっかり戦わせてらんねえよ!」


 そう言ってわらわらと出てきたのは、この船の義賊たち。

 その手には、統一性こそないが、凶悪という点において優れた思い思いの武器を手にしている。その数、五十はいそうだ。

 これ、ほんとに義賊なのだろうか....?海賊の類にしか見えない。


「おらあああ!」

「ほあちょおおおおお!」

「キィエエエエエエエエエエエエエ!」


 それぞれがばらばらに襲い掛かる。

 一斉に、全方向から攻撃を加えられ、狼狽えるダイメ。だが、それも一瞬のこと。すぐに尻尾を振り回し、義賊たちを吹き飛ばす。


「ギャアアアアアアアア!」

「ほげえええええええええ!」


 一瞬にして吹っ飛ばされてしまう男たち。

 むさくるしい男たちのむさくるしい筋肉がむさくるしく宙を舞う。パッと見たところでは大きな怪我をした人はいなさそうだ。いくらむさくるしい男でも、怪我をされたら寝覚めが悪い。


 そして。

 そこで、戦いは終わった。

 

 それだけの時間を稼いでくれれば、ユウが必殺の魔法を準備するのに十分。


獄炎インフェルノ一閃スラッシュ


 高く飛び上がってから唱えられたその技は、ユウの体を中心にして円を描くように一閃。赫赫とした地獄の業火がダイメの首を焼き、蒸発させ、ついでとばかりに船のマストを根こそぎ持っていく。

 義賊たちが動きを止めなければ当たらなかったであろうその技も、決定的な隙の瞬間を狙えば必中と化す。


 そして、ぼとぼと。

 真っ二つになったダイメの首から下と頭が、船の甲板に倒れた。


 それを見た俺は。


「....この技である必要ってあったんですか?」

「水棲の魔獣だし、火がよく効くんだよ」

「でもマスト....」

「気合でなんとかなる!」


 マストがないのに、この船大丈夫なんだろうか....。

 というか、なんでそんな満面の笑みでサムズアップできるんだよ。








 流石、海の男たちは豪胆だったようだ。

 マストがなぎ倒されたのは男たちはすぐに忘れ、ダイメを狩ったということでお祭り騒ぎになった。そりゃそうか、クラーケンレベルの文字通りモンスターが出てきたのを返り討ちにしたのだから。しょうがないかもしれない。

 よく言えば気のいい奴、悪く言えば馬鹿達だった。何故誰もなぎ倒されたマストのことに対して触れない。


 そしてこのダイメ、なんと非常に美味らしい。どうやら大貴族様が年に数回口にするかしないか程度の代物らしい。

 特にあの大きな目が絶品なのだとか。ダイメを一匹丸ごと好きにできる機会なんてまずないらしいが、今回は自分たちで狩ったので自由に食べられる。

 俺自身も、ダイメがどれだけの味なのか非常に気になる。

 美味って、どんな感じなんだろう....。あんなでかい目玉を食べるのは気が引けるが、美味しいなら別だ。もはやあれは、俺には飯にしか見えていない。


 というわけで、せっせと用意をしている俺たち。

 みんなで用意したので、結構すぐに終わった。

 今俺の目の前には、バーベキューセットが何台も置かれている。隣にはこれまた大量の椅子と机。そしてその奥に首から上が吹き飛んでしっぽが触手になっているうなぎみたいなやつ。

 うん、カオスだな。


「よぉ~し、切り分けるぞ~!」

「「「おおおおおおおおおお!」」」


 ダイメの本体から切り分けた肉を、それぞれの網に乗せて焼いていく男たち。どうやら塩焼きにするらしい。

 バーベキューコンロの熱気か、それとも男たちから発せられる熱か。だんだんと船の上の温度が上がっているような気さえする。


 というか、なんか男たちが戦に赴く歴戦の戦士たちみたいなことになってるんだが。

 いや――これは、戦なのかもしれない。

 剣と剣ではなく、肝臓と肝臓をぶつけ合い、勝者だけが地に足をつけ、立つことが赦される....。そう、これは聖戦。聖戦のみくらべなのだ....。


 ........。

 どうでもいいからさっさと食うか。


「嬢ちゃんたち、食えよ!」


 そう言って焼きあがった塩焼きを俺たちに渡してくる。

 ちなみに、現在ユウは今後のことを首領みたいな人と話し合いながら食べているので、ここから少し離れた場所にいる。ここにいるのは俺、ルル、アリシア、そしてタリアの女組だけだ。若干一名中身男が混じっているが。

 そんな俺たちに話しかけてくるとは....さては女目当て!?

 と思ったら、俺たちがあぶれないように気を使ってくれたらしい。その若い男は、エイブと名乗った。つんつんした金髪の男で、優男風の顔をしている。が、体つきはそこそこがっちりしていて、戦えそうな男オーラを発していた。

 うん、イラッとするくらいイケメン。


「ありがとうございます、エイブさん」


 俺が代表してもらった塩焼きを分けていく。俺がこの中では一番大人(精神年齢的に)だからな。タリアの年齢はそういえば知らないけど、たぶん俺のほうが年上だ。

 お箸を使ってそれぞれのお皿に入れていく。箸で持っているだけだが、それだけでぷりぷりとした弾力が伝わってくる。

 というか早く食べたい。

 一刻も早くみんなのお皿に分けた。

 若干、ほんの若干俺の皿の塩焼きが多かったのは内緒だ。きっと誰にも気づかれてない。タリアが俺のことをやさしい目で見ている気もするが、気のせいなんだ、たぶん。

 罪悪感がのしかかるが、これは戦。恨まないでくれ、みんな。


「いただきます」


 見た目は、結構普通な感じだった。

 白身に塩をまぶして、焼いただけ。だが、流石は元クラーケンレベルの魔獣といったところか。ぷりっと引き締まった身は柔らかくも弾力がある。


 口に、入れる。

 その瞬間、ぶわっと広がる旨味。

 塩の味だけではない。ダイメ本来の持ち味を、単純な塩だけの味付けが最大限に引き出してこその、この旨味。味付けは塩だけだが、それがかえって味に深さを持たせている。

 そして、想像通り――いや、想像以上の食感。

 ダイメの凶悪な見た目からは想像もつかないほどの柔らかさ。

 もはや、天使の柔肌を甘噛みしているのかと錯覚するほどだ。


 しばらくその食感を楽しんだあと、ゆっくりと嚥下する。

 喉を通るその感覚でさえ、おいしく感じてしまう。

 食べ終わった後も、おいしさの余韻に浸り、茫然とする。


 そして我に返り――いや、我を忘れて皿の上の塩焼きをがつがつと食べ始めた。

大人とは一体....。

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