2-1 旅立ちの日に
第一章終了
今回から第二章ですが、この作品では章はあまり長くならない予定です
ユウが用意した馬車に乗り込み、椅子に座る。
椅子にはふかふかのクッションが置かれていて、地球の車ほどではないけど快適なたびが出来そうだ。
そもそも、家では座ってばかりいたのでお尻の痛さには慣れている。お金のない学生だったから、ゲーミングチェアなんて買えなかったし。
と、そろそろ出発かなとユウを待っていたら、不意に耳に会話が入ってきた。
声から察するに、両方若い男のようだ。
「おい、領主が死んだってマジなのか?」
「ああ、俺は領主の家に仕えてたから間違いねえ」
「でもなんで――」
「どうやら、俺たちの監視を掻い潜って賊が入ってきたらしいんだ」
へえ、領主の家に賊が....。って、それって結構大変なことなんじゃないのか?ここってそこまで治安悪かったのか....まあ、奴隷にするために子供を攫うような奴がいる町だし、そりゃあ治安悪いよな。
「領主って確か、裏奴隷商とつながってるって噂だろ?確か町の子供を攫って奴隷として売ってたとか....」
「ああ、今だから言えるんだが――あれ、全部マジだぜ」
「え!?そうだったのか?」
「ああ、領主に脅されて言えなかったんだが――その賊も、攫われて奴隷にされた女の彼氏が復讐で殺したって噂だぜ」
あ、あははは....ドコカデキイタハナシダナー....?
って、それ完全に俺とユウの話だよな....!?彼氏ってトコは完全に間違えてるけどな!
「しかもそいつ、領主を拷も――」
「優貴ちゃん!ちょっと話があるんだけど!」
おわっ!びっくりした!
話に聞き耳を立てることに集中しすぎていたせいで、アリシアに声を掛けられただけなのにすごくビビってしまった....。
.....おかげで、最後の言葉は聞かなかったことに出来そうだけど。
「え、え?なに?」
「優貴ちゃんも、ユウのことオットにしようとしてるの!?」
「え....?」
ん?何を言ってるのかな?ヨクワカラナイナ。
「ユウとケッコンしてハラマセて貰おうとしてるんでしょ!」
「ケッコン....孕ませ....ぇぇぇえええええ!?そそそ、そんな訳ないじゃないですか!」
こんな幼女にそんな知識を教え込んだのは誰だ!出て来い!俺が小一時間説教
してやる!いいぞもっとやれ!
....いや、これは違うくて!
「違うの~?お城の侍女はユウ様に近寄る女はみんな敵ですよって~」
「侍女がそんなことを....城って一体どんな桃源郷――じゃなくて!そんな言葉は忘れたほうがいいですって。ユウの前で言ったら嫌われますよ」
適当なことを言って忘れさせるか、青少年を性少年にしないためにも!forgetforget!
と思ったら、そこまで根は浅くなかったようだ。
「でも、侍女はハラマセられたら勝ちだって!」
「....もう、それでいいです」
と、そこまで話したところでユウが入ってきた。
「じゃあ、そろそろ出発するぞ~」
「はーい!」
「分かりました」
ユウが手馴れた動きで御者台に乗り込む。
....なんで睨んでくるの、アリシア?
「そこは私の場所~!」
「ここ?別にいいですけど」
この馬車は、頭上に収納スペースがあるので俺たちが座れるスペースは結構広い。そして馬車の後ろ側以外の壁際に、コの字型に長椅子が設置されている。
俺は、椅子と椅子の角に座ってたから、それが気に入らないと思って角と角の間に移動した。
「私の場所~~!」
「えー?」
移動したにもかかわらず、まだジト目で俺に文句を言うアリシア。正直可愛い。まあ、女であるせいで付き合える可能性はゼロなんだけどな....。
ってか、何が不満なんだ?
「わ~た~し~の~ば~しょ~!」
「えええええ!?」
ばふっ!と俺の胸に飛び込んでくる。その際、胸が、その、あたって....
「~~~~~っ!」
顔が真っ赤になっていくのが分かる。
顔が熱い。これは――こここそが、この世のエデン。天上の世界だったのか――
「あ、優貴、アリシアはこの窓の近くじゃないとゴネるぞ」
なるほど、つまり俺はユウに近づくなということなんですね。
まだ仲間意識は芽生えてないか....と少し落胆しながら、馬車に揺られ始めた。
□
すげぇ!全然揺れねえ!
俺は馬車に始めて乗って、驚愕を受けた。
「異世界の馬車ってもっと揺れるものだと思ってましたけど、結構快適なんですね」
むしろ、地球の車のほうが揺れるんじゃない?っていうくらいに揺れない。もうかれこれ何時間も座り続けてるけど、全然お尻が痛くならない。
「これ、オレが魔法を応用してサスペンションを作ったんだ」
と思ったら、普通の馬車ではそうは行かないらしい。
魔法で揺れを少なくした結果、地球の車よりも快適になったそうな。このチート野郎め!これだから主人公系は....
「気に入ってくれたら嬉しいよ」
何真顔で気障ったらしい台詞はいてるんだ、俺なら血反吐はいても言えないね、そんな台詞。
って、アリシアなんて快適すぎて寝てるし。
「魔法を使って安定させてるから、暴れても大丈夫だぞ」
そんなこと言ったって、暴れる理由もないしな。
一時、間があく。
それは一瞬だったが、なんとなく気まずい間だ――
「そういえば、さ」
「はい?」
「その....スキルの話なんだけど――」
なんだか歯切れが悪い。言いづらそうだ。スキルの話らしいけど....何のことだろう?
そういえば、朝から少し気まずそうだった気がする。気のせいかもしれないけど。
「スキルですか?」
「その....性技スキルのことなんだが――大丈夫だったのか?」
性技スキル....ああ、そういえばそんなスキルも取ってたな~。実践する機会もなかったし、その後の、ユウの圧倒的主人公的魔法のせいで忘れてた。
確か、バナナっぽい魔法道具(?)をめっちゃ擦らされたな~、まあ、俺は自分で実戦経験豊富だったからな、成績最優秀だったんで実線はせずに済んだ。
うん、自分で実践することにしか使わなかったからな、俺の息子....。
「それなら大丈夫でしたよ、バナナみたいな魔法道具擦らされただけでしたから」
「本当か...?」
それでも少し心配してたみたいだったけど、最後には分かってもらえた。
まあ、実際何もなかったしね。死姦男に殺されそうになった以外は。
□
「今日はここで野営するぞ」
そう言ってユウが馬車をとめたのは、少し視界が開いたところにある川辺だった。まあ、ここなら敵襲があってもすぐに分かるだろうし、大丈夫そうだな。
野営なんてしたことないくせに何偉そうに言ってんだって話だけども。
ユウと一緒にテントを取り出して、野営地に運ぶ。
すでに空は暗くなってきている、早くテントを張って火を起こさないと。
アリシアにも手伝ってもらって――って、寝てるんだった。
「よし、これでおっけーだな」
結局、結構時間が掛かってしまった。俺がテントを張るのが下手だったというのもあるが、やっぱり人手がないからってのが一番大きい....はずだよね、うん。
「さて、じゃあご飯を作るか」
そう言ってユウは目の前に手を突き出す。
すると、地面に光が集まっていき――魔方陣を描き出す。
直後、魔方陣の中からキッチンが現れた。
キッチンが、川原に。
「す、すごい....」
「便利だろ?この魔法。空間魔法っていうんだ」
うっわ、なにその便利魔法。空間魔法って....ちょっとドヤ顔で言われたのがムカつく。
「さて、食材は――と」
また同じ魔法で食材を出していく。
その様子を俺はぼーっと見ていたが――
「そうだ、今日の晩御飯、私が作ってもいいですか?」
「え?なんでだ?」
「やっぱり、いつもお世話になっていますから」
俺もそうだけど、男は胃袋って言うしね。
やっぱり、恩返しはご飯かなって。
よし、気合入れて作るかー。
まだあまり登場していませんが、主人公の一人称を「俺」から「私」に変更しています。もし「俺」のままの箇所を見つけたら報告していただけると幸いですm(_ _)m




