プロローグ
よろしくお願いします。
“世界は流転する”
いや、“物語は此処からはじまる”
人の創作物である噂、都市伝説、小説など。
所詮は創作物。
だが。いや、だからこそ素晴らしい。
そこには真実も多分にして存在するのだから。
“事実は小説よりも奇なり”
「人」はまだ気付かない。
この世界には秘密があることを。
嗚呼、面白い。
☆☆☆☆☆
7月21日
ーー学校の教室ーー
綺麗に並んだ机が教室いっぱいに広がる、よくある学校の風景。
その教室ではある事件についてのニュースとそれに付随する噂で持ちきりだった。
否、この地域全てであった。
「なあなあ、朝のテレビ見た?」
垢抜けていない高校生が隣の友人に話しかける。
その表情はなにかを話したくてしょうがないといったところであろう。
「ああ、見た見た!怖いよなー、かなり近くだし」
「しかも、変死体だろ?そんな姿になりたくないわー」
その事件が有名となったのはその変死体という特徴があったからだ。
そして、その事件はよくメディアによって放送されている。
「既に変死体みたいな顔なんだから変わらねんじゃねえの?」
「流石にそこまでひどくねえわ!」
高校生は笑いあう。
近場で起こっていても今時の高校生はそれすら笑いに変えれるのだからバカなのか賢いのか分からない。
ーー事件現場ーー
そこは寂れた工場跡であった。
周りはパトカーによって囲まれ警察官が一般人が入らないように守っていた。正確には『メディアが』であるが。
「警部!」
ビシッとした制服を着た青年が中年と呼ばれるであろう男に話しかける。
その青年は真面目そうであり、俗にいうエリートであるというオーラをだしていた。
「ん?ああ、服部君」
警部と呼ばれた男はボーっとした視線を元に戻し、返事をした。
恰幅もよく、長年警察に勤めていることが察せられる。一言で表すならばベテランであろう。
「.....またですか、これまた酷い」
服部と呼ばれた青年は顔を顰めながらそう呟く。
ある程度は現場に慣れているのであろう。
「ああ、これで10人目だ。しかも行方不明になってるのは50人近くいる。なんなんだ、まったく」
この事件の特徴としては変死体だが、この件数も異常であった。
連続殺人事件である。
「しかも全く犯人が掴めないという所が更に問題です」
犯人は一切の証拠を残さず逃げ延びていた。
これだけ派手(、、)な事件を行ってもひとつも欠片も推測すらできなかった。
「被害者達に関連性はなし。小学生からおじいちゃんまでと」
その為事件は更に難航する。被害者の交友関係を洗うことで犯人にたどり着くこともあるからである。
そう会話することで事件の内容から逃避(、、)していた。
「そして.....やはり、この異常な死体は....」
彼らの眼前に広がるのは、工場跡の大きなホールいっぱいに張られたワイヤーによって捕らえられた|真っ黒な人(、、、、、)であった。
その下には闇のような大量の黒い水溜りがあった。飲まれてしまうかのような深い黒だ。
青年はこの異常な現象に一回目を逸らさなければちゃんとしていられる自信がなかった。
「今度は黒ですか」
「見ての通り黒だな。今まで通りなら中身まで真っ黒だろうな」
「それは腹黒みたいに聞こえますね」
「案外そうかもしれねえぞ?」
「あはは、そうだったらなんか捜査に進展はありますかね?」
「ないだろ」
「ですよねー、はぁ」
この事件のもっとも不明な点があるとしたならば、被害者がなんらかの色一色に染まっている事だ。ペンキなどでは説明がつかない。内臓も骨も脳も血も全てが、ある一色に染まるのだ。
そして、解剖してもなぜなのかはまだ分からない。
最初は赤、次は緑、その又次が青となっている。似たような色があっても同じではなかった。
ーー報道局ーー
机はしっかりと並べてあるが、机の上が雑然としていて、辺りはあまり綺麗だとは言えないがしっかり仕事をしていると分かる。
「所長!」
真面目そうな青年が声を荒げる。
その青年は走ってきたまたは興奮したためか服が乱れていた。
「おう、どうだったよ」
所長と呼ばれた男はコーヒーを片手に持ち、振り向きながら話しを聞こうとした。
「OK頂きました!取材を受けるのは初らしいです」
青年は嬉しさの表れなのかとても生き生きしていた。
「おし!一番乗りやな」
「はい!ですが本当なんでしょうかね、これは」
「さあな、だが、みんな注目してんだからそれでいいんだ」
青年は訝しげに男に問うが、男は真偽については興味はないようだった。
「しかし、友達が連れ去られるのを目撃したとは。しかもその連れ去られ方が目の前に扉が現れて、フラフラと歩いて入っていったって。攫われてないじゃないですか」
青年はまだ顔を顰めている。
それもそうだろう。取材相手が適当なことをぬかしてるようにしか聞こえなかったのだ。
「あーもう、いいんだよ。さっさと取材の準備を始めてこい!」
「はーい」
青年は来た時とは正反対にフラフラと考え事をしながら出て行った。
「はー、まったくオカルトは趣味じゃないだが。しょうがねえか」
男はそう言ってこの取材を決めたキッカケである情報を見た。
ーーーーーーー
俺は見たんだ!親友の目の前にいきなり鍵が現れて.....しかも浮いてだぞ!
親友はボーっといて話しかけても答えもしねぇ。だけど、急に話し始めたんだ、いや呟くといった方がいいか。
「行きたい、ああ、そこに。俺も」
俺が疑問に思ってたら、目の前に開いてるドアが現れてたんだ!しかも、中は真っ暗、黒一色。訳が分からねえ。
びっくりして固まっちまったが、親友が入ろうとするもんで急いで止めようとしたんだ。だけど、すごい力なんだよ!
親友は結構ちっさくて体重も軽い、なのに俺が引きずられてそのドアに入っちまった。
真っ暗だった。親友を掴む事以外に感覚がなかった。
何も見えないし、何も聞こえないし、何も匂わない。
暫くひっついて歩き続けたんだ。
びっくりしてたけど、その親友を離すのは嫌だった。
けど.....俺は離していたんだろうな。
気がついた時には知らない山の中にいたんだ。
3日間も迷って、やっと町に出れた!と思ったら全く知らない場所だった。
町の人に聞くと俺の家から300km位離れた所だったんだ、思わず笑っちまったよ。なんでこんな場所にいるのかって、なんで1人で帰って来ちまったんだろうってな。
頼む、誰か!
俺の親友を探して欲しい!
もしかしたら海外とかにもいるかもしれない、海外に行く人も協力して欲しい!
その親友の顔写真
協力よろしくお願いします
ーーーーーーー
「はーあ、全く訳わかんねーよ。いきなりドアって、しかも飛ばされるって。完全に映画のアレだろ」
所長はやる気が無いように思える口調で独り言をしている。
しかしその目はとても鋭く、スクープを絶対に逃さないと言っているかのようだった。
7月22日
ーー学校の教室ーー
「あ、あの噂聞いた?」
「ああ、聞いた。いきなり飛ばされるやつでしょ」
「そうそう」
どうやらこの噂はかなり広がり、半ば都市伝説のようになっていた。
その噂を纏めたのは記者。そして、この創られた噂が広がったのだ。つまり何処から何処までが本当か分からない。
「だけどさやっぱり、あいつは....」
「いや、そんなことはないだろ。先生は風邪をこじらせてるだけだって言ってただろ」
「だ、だよな。そうに決まってる」
「あ、ああ」
二人の顔は引きつり、恐怖が滲み出ていた。
ーーある一軒家ーー
庭が大きいだけのごく普通の一軒家。
そこには少女が庭の椅子に座っていた。
「あれ、白猫?この辺りに居たかな」
少女が見つけたのは白い猫であった。少女が言う通りこの辺りには居らず迷い込んだのかもしれない。
「うーん、でもあの子の面影があるなー。聞きに行ってみよ」
あの子とは少女の幼馴染みである少年の飼っている猫のことで、少し前にいなくなってしまったのだ。
その少女にはその猫の子供のように思えたのだ。
そして、少女は隣にある少年の家へ向かった。
一軒家で隣であるためにすぐつく。庭から直行である。
少女はチャイムを鳴らす。
時間が経つ。
少年やその家族すら出てこない。
「この時間帯はいるはずなんだけどなー、おーい」
反応がない。
「あれ?鍵が空いてるなー」
ガチャっと音を立てて家に入る。キョロキョロと周りを見渡すが誰もいない。そして、誰かいる気配すらない。
「お邪魔しまーす」
少女は家の中を隈なく探した。クローゼットの中、少年の部屋、少年のベッドもしっかり探した。しかし、何処にもいない。
「.....泊まろ」
少年に会いたかった少女は泊まり込んで絶対に会おうと決める。
少女は頑固なのかはわからないが強情であった。
一緒にこの白猫と待とう。
白猫はゴロゴロと鳴きながら、少女に抱きつく。
しかし、少年は帰ってくる事はなかった。
この先もずっと。
ーーーー
少女は読まなかった本。
そこにはある願いが綴られていた。
その文字は荒れに荒れている。
しかし、その文字は読む者を引き込むかのような魔性をもっていた。
「ああ、僕も行くよ。待っていて」
ーーーー
噂からはこんな伝説が生まれた。
《望む場所に連れて行ってくれる鍵》または《望みの鍵》
それは何処へでも連れて行ってくれる。
この地球上、はたまたこの宇宙までも。
そして、過去、未来その何処までも。
望むのならば、何処までも。