魔法?
「あれー?、なんで死んでないんですかー。あ、もしかして魔法使っちゃいました?」
天使は心底めんどくさそうな顔をする。
「だから私は魔力の無いやつにしようっていったのに…」
俺の前でブツブツと愚痴りだした。
「おい、魔法を使ったって言ったか?、そんなもの本当にあるのか?」
単純な疑問を天使にぶつける。
「お、やっと口を開きましたねー、もちろん魔法はありますよ、そして貴方からは魔法を使用した痕跡が残ってるのです。」
ビシッとこちらを指さし、ドヤ顔で言い放つ。
「でも、俺はそんなの使った覚えは無いぞ?」
「またまたー、とぼけちゃって、貴方が加速系魔法を使ってバスが当たる瞬間に横に飛んで威力を殺したことぐらいわかるんですから」
俺をバカにしたように笑う。コイツのこの顔すっげームカつくな。
しかし、俺は本当に魔法を使った覚えは無い。まず、魔法がありえるかどうかすらわかっていない。
「まぁ、ぶっちゃけそんなことはどうでもいいんですけどね。問題は貴方達が一人も死ななかったという事です。」
貴方達?、俺以外にもこんな不幸なやつがいるのか。
「まったくどいつもこいつも、自分で魔法使ったり他の奴の魔法で助けてもらったり、中には何にもしないで事故にすらならなかった奴もいるんですよ!」
どう思います!?と、半ばキレ気味でわめく。俺の知ったこっちゃない。
「ええい、次です次!今度こそはちゃんと死んでくださいよ?」
めんどくさいんだから、と捨てゼリフを吐いて消えていった。
「悠貴?、あぁよかった!父さん!悠貴がやっと目を覚ましたわよ!」
母さんが涙ぐみながら俺の手を握っている。
父さんはドアの近くでウロウロしており、母さんの声にはっとしたようにこちらを向く。
「悠貴!お前ちゃんと周りを見てたのか!?トラックにはねられるなんて…」
父さんの声もだんだんしぼんでいく。
「まぁ、無事でよかったじゃないの。」
母さんが涙を拭きながら嬉しそうに笑う。
「そうだな。医者にほぼ無傷だったから本当に事故にあったのか疑われたぐらいだしな。」
無傷?確かに俺はトラックにはねられたはず…まさか本当に魔法を使ったって言うのか?
その時、扉が開いて看護師が入ってきた。
「目を覚ましましたんですね、よかった。あと二三日様子を見て、特に何もないようであれば退院してもらって構わないそうです。」
「すみません、ありがとうございました。」
父さんと母さんが看護師に向かって頭を下げる。
「いえいえ、こちらも仕事ですので。大事に至らなくてよかったです。」
では、と看護師は扉を開けて出ていった。
「じゃあ、父さん達は帰るからな。家に優音を残してきたままだから。何かあったらすぐに看護師さんを呼ぶんだぞ。」
そう言って父さんと母さんは部屋を出ていった。
魔法…今は良く分からないけれど、これが殺されないための鍵のような気がする。