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第七話 デジャヴ

「うわ!!」


 悪夢を見ていた……。


 俺は飛び起き、すぐに自分の首を確認する。飛び起きたと言っても、寝ている状態から上半身を上げたのだが。


「はぁ……」


 首はついているし、無傷だ……。首が汗に濡れ、夢にうなされていた自分を再認識させられる。


 さっきの夢は、なんだったのだろう……。不気味な暗い部屋に、床のスイッチ……そして爆発する腕輪……。


 俺は部屋の電気を点けようと手を伸ばすが、そこにいつもの感覚はなく、空振りした……。


「あれ?…」


 電気のスイッチに取り付けられた紐を捜すが、そこには無い。それと共に、ベッドに寝ていない自分に気付き手探ると、床に寝ていたことに気付いた。


 それに……左腕にはアノ嫌な感触があった……。アノ腕輪が嵌められている。


 まさか、これは……。


 自分の見ていた悪夢の部屋に俺は居た……。


 愕然とした絶望感があったが、それは大したものではなかった。夢だと思っていたからだ、夢はいつか覚めるものと思い、また床に背を着け眠りについた。


 これは、夢なんだと自分に言い聞かせていた……。


 意識は遠のき、時間の感覚は薄れていく……。


………………


 目を覚ますと、また同じ部屋に居た。


 確かに眠りについたはずが、目を覚ますと同じ部屋に……。


 体を動かすと、そこにはリアルな感覚を感じ、夢なのか、現実なのか分からず錯乱する。


 とりあえず、夢で見た≪ここを爆破しろ≫と言う文字を探すと、同じ位置にあった。


 例えこれが夢の世界だったとしても、死にたくは無い……人間なら当然の思いだろう。ここで起きる事は大体理解出来ると勘ぐっていたため若干の疑惑はあったが、ドアノブへ手を伸ばした。


『ガチャッ……』ドアを開けても、閉めなければ危険はないし、床のスイッチも押さなければいい事だ。


『ギー……』ドアを開けて中へ入ると、夢と同じ大理石の部屋だ。だが、奥に人がいるのが見え、夢と違うのがすぐにわかった。


「動かない方がいいよ、床にスイッチがあるから」


 部屋の奥から聞きなれた声がした……それは、自分の声だ。


 俺が……もう一人いる……。


 不気味な感覚に陥るが、自分がもう一人いるシチュエーションは既に経験済み。こんな状況でも不思議と動揺は心の中にしまっておけた。


 床に目線を走らせたが、そこに死体は無い。スイッチが至る所にあるだけだ。


 俺は、瞬時に夢の出来事を溯った。


 部屋に入った二番目の男は、最初に腕輪が外れた男だ。それは、次に部屋へ入ってくる男が踏んだスイッチで外れた出来事を思い出せた。自分だけ助かれば良い訳ではないが、人間の持つ汚い部分に自分が触れて嫌悪するが、夢の出来事を目の前の男へ話す義理は無い。


 若干の物事のずれはあるが部屋の奥にいるもう一人の俺?に気付かれないよう、夢で見た二番目の男を演じることにする。うまくことが運べば、コノ爆弾は外れるはずだ。


 ドアが開けっ放しだったのに気付き、奥にいる男に気付かれぬようこっそりとドアを閉め、俺は壁際へ移動した。


 壁際にいた男は弱々しい声で、確かこう言ったんだ。


「質問してもいいでしょうか?」


「どうぞ」


 思ったとおりの返答だ。続けて俺は夢を再現した。


「この腕輪は、なんですか?」


「行き成りその質問ですか、教えてほしいぐらいです。ごめんなさい、俺にも分かりません……」


 思い通りの回答に、段々と確信が持ててきた。


 もう少しで、この腕輪は外れる……筈だと。


 再び夢を再現し、俺は夢で見た男を演じ続けた。


「そうですか……外へ出る出口とかは無いのですか?」


「残念だけどここの事、全然知らないよ。情報量はあなたと一緒だと思う……」


「そうですか……」


 この爆弾が外れる時は、すぐそこまで迫っている……。二人の俺はその後、沈黙を守って様子を窺った。


『ガチャッ……ギー……』ドアが開き、人が入ってきた。俺はドアが閉まらないように自分の靴を片方脱ぎ、ドアに挿んだ。


「お邪魔しますね」


 自分の思い通りに再現されているこの空間に、思わず笑いをこらえている自分を感じた……。


 全て、うまくいっている。


「ちょっと待っ……!」


 部屋の奥にいる男が叫んだが、男はスイッチを踏んでいる……夢と同じ展開だ。


『カチッ!……』


 もう少しだ……。


 もう少しでこの腕輪は外れる……。


『ピッ!……』


「この音、なに?」


「床にボタンがあるから、踏まないで」


「なんのボタン?」


 もう少しの我慢だ……。


 固唾を呑んでその時を待った……。


『ピッ!……ピッ!……チッ!……』音をたてて腕輪は俺の腕から外れた。なんの焦りも無かった。冷静に肩の荷が下りたのだ。


「やった!」


 本気でうれしかった。もう夢を再現する必要はない、そんなことをすれば今から死ぬのは自分であることは知っている。夢を思い出せばすぐにわかった。


「なにがあったんだ?」


「腕輪が外れたんだよ」


 俺がそう伝える前に、ドアの側にいる男は次のスイッチを押していた。


『ピッ!……』


 ドアの側の男は、俺の腕輪が外れるのを見て、瞬時にスイッチを押しているようだったが、そうではない……あまりにもタイミングが早すぎる。


「なんで押すんだよ!」


 俺はドアの側の男へ怒鳴ったが、男に怯んだ様子は無い。


「お前の腕輪、外れてんじゃん。床のボタンは、腕輪を外すスイッチでしょ?」


『ピッ!……』


 男は惚けていた……俺が焦るのを見て笑っていた。この男は俺の腕輪が爆発するのを知っているのか?


 俺は分かっている。自分の腕輪が爆発するがすぐそこまで迫っている事を。


 ただ、この腕輪を放せばいいだけのこと。


『ピッ!……』


 決して難しいことではない……。


 俺は素早く隣の部屋へ駆け込み、文字≪ここを爆破しろ≫目掛けて腕輪を放り投げようとした。


 だが……俺の体は硬直し、右手で腕輪をありったけの力で強く握り締めている……。


 くそ!……焦り、緊張、憎悪、嫌悪、怨嗟、苦悶、あらゆる感情が体から溢れ出し、俺の精神は崩壊した。


 手が放せない!


『ボン!……』俺の右腕は吹き飛んだ。爆発と煙に包まれ、その場に力なく崩れ落ちる……。右腕には言葉にならないほどの激痛が駆け巡り、全身は焼けるほどの熱を発した。腕からは煌々と血が流れ枯渇する事を知らない。体の力は抜けていき、徐々に自分の体ではなくなっていく。腕から全ての生気が抜けていっている……。


 俺の心は闇に支配され、地底深くへ沈めていった……。


 俺は目覚める事をしきりに嘆願したが、二度と目を覚ますことは無かった……。



――― 子供たちの声


「ねぇ♪ ねぇ♪ シロスウィッチって知ってる?」


「知らにゃ〜い♪」


「夢にうなされてる人にね 耳元でシロスウィッチ、シロスウィッチ、シロスウィッチ……って何度も言ってると起きなくなっちゃうんだって……。


 それでね……そのまま夢に、うなされて死んじゃうんだってー……」


「シロスウィッチってなに?」


「知らな〜い♪……この話には、まだ続きがあってね……その人のお葬式に行くとね…… 死んじゃった人の腕が片方だけ、無くなってるんだって……。

 





 夢の世界は、自分の知らないうちに現実へとその姿をかえる……。



          ――     終     ――


最後まで読んで頂いた方ありがとうございます。

今頃ですが、題名のシロスウィッチってのは、死のスイッチをもじっただけで深い意味はありません。

感想やアドバイスなどいただけたらありがたいです。


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