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第四話 爆発

 弱々しい男の声がした。恐怖のあまり縮んだ喉頭から無理やり、か細い声を絞り出している。


「はい……」


 哀しい事でもあったかのような貧弱な声を聞くと不意に反応し返事をした。明かりの無い部屋に居たのだから、気が小さくなるのも無理もない事なのかもしれない。だが、目に映る男は一体どこから現れたのだろうか。


「あ! 人が居る」


 打って変わって男は、明るい声を出すと、俺に気付き近づいてくる。


『カチッ! カチッ!』足元に気を配ることなく侵入する男は、床のボタンを押しながら突進してくる。


「ちょ! ちょ! ストップ!!」


 俺は、焦って男を止めた。なにが起こるのか分からないだけにボタンを押すのは危険性がある。逆に、何も起らないのかもしれないのだが……。


 俺の体は、なにかを感じていた。妙な不安、第六感が危険を察知し、危険信号を送っているのを感じ、動悸が激しくなる。


 男は二、三個の突起物を踏んでいるようだった……。


『ピッ! ピッ!……』また、この音だ。床のスイッチによって目覚まし時計を連想させるような機械音が鳴る。なんの音なのだろうか……。


「え? これなんの音です?」


 男は自分のしたことに気が付いていないのか、惚けた感じだ。


「床にボタンがあるから踏まない方がいいよ」


『ピッ! ピッ!……』一秒ほどの感覚で再び。前例からすると、もう一度ずつ鳴る事が予想できた。


「なにか起こるのですか?」


「さぁ……さっき1個押したけど、音だけだったよ。でも、何かのスイッチかもしれないし……」


 疑心暗鬼な状態になり、不安にさせられる。だが、その心の変化を感じさせないように、やさしい口調で男に告げた。嫌な予感はあるが、核心を得ている事ではないし、彼を不安にさせる必要はどこにも無いからだ。


『ピッ! ピッ!……』これが最後の音だろう。なにも起らなければ良いのだが。


『カッチャッ……』何かあったのかと思ったが、これはドアの閉まる音だ。男がドアノブから手を離したために床を摩るようにして自然とドアは閉まった。急激に鼓動を早くした自分の心臓が滑稽に思えた。


………………。


 部屋の様子を窺い終わると、男は再び弱々しい声で話しかけてきた。俺が察するに、この人の普段の声なのだろう。


「なにも起こらないですね」


「そうみたい……」


「でも、押さない方が良さそうですね」


「多分……押さない方がいいかと」


 今までは、変化を認知する事は無いが、自分達の知らないところで何かしらの変化をもたらしている可能性は否めない。押してはならないスイッチなのかも……。床に四十ほどのスイッチがあること自体、常軌を逸している。触らぬ神に祟りなし、と言う言葉を信じたい。


 男は、足元に気を使いながら壁際へ移動し、壁に背中を着けると、滑るようにして床に腰を下ろした。


「質問してもいいでしょうか?」


「どうぞ」


 悪い人ではなさそうだし、自分に答えられることなら答えようと思った。


「この腕輪は、なんですか?」


「行き成りその質問ですか、教えてほしいぐらいです。ごめんなさい、俺にも分かりません……」


 男の方を見ると、男は左腕を前へ突き出し、こちらに腕輪を見せているようだった。この人も左腕に。


「そうですか……外へ出る出口とかは無いのですか?」


 どうやら俺は、この人の質問に、一つも答えられそうにない。


 男と話す事で、俺の心に張り詰めていた糸が緩んでいくのを感じた。長らく人と話してなかったような感覚もあり、初対面の人なのに、そんな事は関係なく人と話す事で落ち着けるものなのだなと思う。


「残念だけどここの事、全然知らないよ。情報量は、あなたと一緒だと思う……」


「そうですか……」


 残念そうに肩を項垂れた仕種が見て想像できた。


『ガチャッ……ギーー……』ちょっとした物音にも咄嗟に体が反応する。それほどに部屋は静かだ。ドアの開く音、そして人影を確認した。


「お邪魔しますね」


 気さくな感じの男の声がし、ごく普通に部屋へ入ってきた。この人に警戒心はないのか。俺には、不思議に思えた。こんな訳の分からない状況で普通でいられる精神は、よほど器の大きい人間か、ただのバカだと思える。


「ちょっと待っ……」


『カチッ!……ピッ!……』遅かった……。部屋へ入ってきた男は一歩踏み出したその足で、しっかりとスイッチを踏んでいた。


「この音、なに?」


「床にボタンがあるから踏まないで」


 今日、二度目の注意だな……。あと何回注意することになるのだろう。あと何人この部屋へ入ってくるのだろうか……。部屋中、人だらけになるのだろうか。そう考えると、再び何処からこの二部屋の空間へ入ってきたのかを疑問に感じる。


「なんのボタン?」


 答えようにも答えは無く、俺も壁際の男も無言で様子を窺った。


『ピッ!……ピッ!……チッ!……』機械音が三回鳴って見せると、その後に鍵を開けたような音が聞こえた。


「あぁ!! 外れた!!」


 壁際の男が飛び起き、腕輪を掲げているようだった。


「見て!! 見て!! 腕輪が外れましたよ」


 興奮気味に壁際の男は、外れた腕輪を強調している。男の左腕に嵌っていたはずの腕輪は、今は男の右手に握り締められていた。


「おぉー!」


 外れているのを見て、思わず感嘆し拍手していた。外れたからと言って、特別のなにか意味があるのか分からないのだが。


「これスイッチじゃないですかね?腕輪のスイッチですよ、きっと。押せば腕輪が外れますよ」


 興奮混じりに壁際の男は提案した。ドアの側にいる気さくな声の男は、軽快に床のスイッチへ手を伸ばした。


「じゃぁ、押してみるよ! えい!!」


 ドアの側にいた男が、床へ肩膝を着け、床に平手打ちをする格好でスイッチを勢い良く押す。


『カチッ!!……ピッ!……』


 固唾を呑んで様子を探る……。


『ピッ!……ピッ!……ボン!!!』部屋に爆音が鳴り響く。刹那、部屋中に靄煙が視界を塞ぎ、火薬のような酷く強い臭いが蔓延した。


「ぅあぁー!!……ぁ……」


 爆音により、違和感のある耳で声を拾うと壁際から叫喚が聞こえ、その声は次第に力を失い薄れていった……。


 靄煙に支配され、痛みを覚えていく自分の目を開け、壁際へ視線を送ると男の右腕が無い……。切断面からは赤い液体が大量に床へ流れている……。腕輪が爆発したのだ……。


「大丈夫かよ!」


 大丈夫なわけが無いのは、一目見れば誰にでもわかる……。


 男はピクピクと小刻みに痙攣し……そのうち動きを失っていった……。


 あまりの出来事に、俺もドアの側にいた男も言葉を失い、無言でその惨状に目を奪われ凝視していた。


 この時、初めて知ったんだ……。


 この床のスイッチは、生死を別ける、死のスイッチだってことを……。


小説を書いていくにあたり、感想やアドバイスなどいただけたらありがたいです。

文章表現で分り難い点などあったら教えてください。

書き方を模索中で、このまま突っ走って行っていいのか悩み中です……(・・、

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