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第二話 ループ

部屋の奥にいる男は口を開く。


「全てが爆発スイッチでは無い、中には腕輪が外れるスイッチもある……」


 俺は意外な言葉に気持ちを持ち直すと同時に疑問を感じた。


「あんたは、なんでそんな事を知ってるんだよ?」


「お前バカか! 見れば分かるだろ! そいつとそいつが、試したのさ!」

 

 俺の疑問は、すぐに打ち消された。床に横たわる二人の死因を推理すれば、どうなって死んだかは見当がついた。いくつかのスイッチを二人が押していったのであろう。


 部屋の奥にいる男は二人を指差しているが、その左腕には腕輪が見え隠れしていた。


「あんたは、左腕か……」


「それがどうした?」


「左利きとか?」


 俺は安易な質問をした。なにかしら腕輪を外す為の糸口を掴みたかったからだ。


「俺は、右利きだ……」


 自分が利き腕だから、利き腕に嵌められてるのかと思ったが違っていた。


「他の人は?」


「壁の奴が右で、ドアの奴が左だ。それがなんか関係あるのか?」


 助かる方法を探したかったが、なんのヒントにもならない。壁の側で倒れている男の無くなった右腕、それと自分の足元にうつ伏せに倒れている男の姿を見ると、その生々しさに嘔吐してしまいそうになっていた。未だにゆっくりと血が流れているような錯覚をする。


「どうすりゃいいんだ……」


 俺は困惑した。その場に立ち尽くし、無意識に頭を抱え込んでいた。すると男が半ば呆れた感じで話し始めた。


「おもしろい話してやろうか?そこで転がってる二人の話」


 そう言うと男は二人の話を始める。俺は手を頭から離すと部屋の男を直視して険しい顔で食い入るように炯眼した。


「そこの壁の奴、自分の右手で右腕を吹っ飛ばしたんだぜ、そのまま気を失って今頃、出血多量で死んでるわな……フフッ……大抵の人間は腕が吹っ飛べばショックで気を失って眠るように死ぬんだ……楽なもんだろ?……ハハッ」


 ふざけた口調で話す男の話は、とても笑えるものではない。俺の顔は更に険しさを増したことだろう。男は続けて話す。


「ドアのとこにいる奴はよぉー、スイッチ押して外したのはいいけど、そのまま腕輪を持ってやがって……そのドアを出ようとした時にスイッチ踏んじまったのさっ……踏んだスイッチで自分のが爆発するなんて運もねぇーわな。俺のが爆発してもおかしくないのにバカな奴だ……アハハッ……どうだ? おもしろいだろ?」


 男は自分の話でクスクスと肩で笑っているようだった。とても正気とは思えない。死人を小馬鹿にして笑う男の事を俺は人として許せないとも思えた。だが、この忌々しい腕輪を外してもここから出る事は叶わない……。どうすればいいんだ……


 俺は自分の頭の中を平静に制御すると、部屋の奥の男に問いた。


「で? どうすんの? 仮にスイッチ押してコレ外したとしても、出口がないよね?」

  

 俺がそう言うと、奥の男は思わぬことを口にした。


「お前、見てないのかよ! 隣の部屋に出口があっただろ?」


「ないよ……」


 見逃す筈が無い、確かに隣の部屋には、この部屋へのドアしかなかった。確かめに行こうと、ドアノブへ手をかけた時だった。


「バカ! 待て! ドアノブから手を離せ!」


 咄嗟に男は大声で俺を止めた。怒鳴り声に反応して、俺は無意識に体が竦んだ。俺がドアノブから手を離すと、それを見て男はまた話し始めた。


「教えてやるよ……隣の部屋の壁に≪ここを爆破しろ≫って書いてあっただろ?お前それも見てないのか?」


 見逃していたのか。壁にそんな文字が……だがそれがなんだと言うんだ! 出口とは限らない。


「あれが、出口だよ」


 出口である事を裏付ける証拠も無いのに、まるでここの設計を自分がしたかのような口振りで男は断言した。


「結局はな……ここで腕輪外してぇー、隣の部屋の壁に置きぃー、この部屋のスイッチ押して爆発させてぇー、外へ出るぅーってことよ……簡単だろ! え? 違うか?」


 俺を馬鹿にして語る口調は、胡散臭さしか感じさせない。極論、男の話が全て嘘ならスイッチを押しても何も起らない。なんて事も考えられるが、男の話が本当ならこの床のスイッチは言わば、死のスイッチだ……誰だって押したくはないだろう。横たわる二つの死体が本当である事を訴えているように感じさせる。



「だがな……お前はここで死ぬんだよ。フフッ、俺には分かる……俺は知っている……ハハッ……スイッチを押して……バン! だ! さぁ押してみろ!」


 俺の事を試しているのか、馬鹿にしているのか、既に正気を失っているのか、不気味な口調に苛立ちを覚える。気持ち悪い奴だ。


「あぁ! いいだろう! 押してやるよ! だがな! 爆発するのは、俺のとは限らないぞ! お前が、バン! かもな!」


 俺は苛立ち、遣るせ無い気持ちが内側から溢れ出していた。俺は平常心を失い、怒号混じりの声を男へぶつけていた。


「押すぞ! いいな!」


 男が俺を止めるのを少し期待していたが、男はニヤニヤと顔を緩めているようだった。


 俺は頭に血が上り、上擦る動作で思い切って床のスイッチを押した……。



 スイッチは『カチッ』と音を立てて床の高さで固定された。一見したらスイッチがあった事はわからない。


『ピッ!……ピッ!……ピッ!……』何かしらの機械音が鳴り始めた。まるで時報の様な、一秒間隔程のタイミングで鳴った。


「なんだこの音は……」


 直後、俺の視界は白く発光して体がふらついた。見ると自分の右腕が吹っ飛び血が滴り床を真紅に染めていた……


 痛みは無かったが体の自由は奪われ、その場へ倒れ込んでいた……。


 俺の意識は遠退いていった……。



 しかし俺は暗闇の中、力を振り絞り抵抗した……。


 悪あがきを繰り返した……。


………………。



「はぅ!……」


………………。


「うわぁ!」


 夢か……。汗で濡れた体を持ち上げると真っ暗な部屋に俺は居た。


「どこだ?ここは……」


 目を凝らすと、ドアが1つあるのが見える……。


 まさか…… さっきの……。


 ただ夢と違ったのは……。


 右腕では無く、左腕に腕輪が嵌められていたことだ……。


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