プロローグ 1-5
痛々しい体を動かし、掃除をはじめた。
決して悦子だけには、知られないよう匂いもなるべく消した。
そして一番気になったのは、ダンボールの中身。
宛先を見ると、なんと夏海宛だった。
悦子は、確かに私宛にと言っていた。
また嫌がらせの何かだろうと中身を開けた。
すると中には、一枚の手紙が入っていた。
真っ白い封筒が一枚。
私は、すぐに手に取り、封筒から一枚の手紙を開いた。
そこには、またしても言葉を失うような内容が書かれていた。
あなたのような汚らわしい人は、智には、似合いません、今すぐ出て行きない。
悦子
とあった。
「な、何よこれ…全部仕込んだつてゆうの…。」
「そうよ。」
「!?」
私の後ろから今一番聞きたくない声が聞こえてきた。
何故いるのかと聞きたいくらいに。
確かに朝出て行ったはずなのに。
帰ってきたのなら私がわかるはずなのに…。
「随分と長いお風呂だったようね。」
その言葉に私がお風呂に入っている間に帰ってきたと悟った。
じゃこの現場も全部見られていた。
今までの掃除も全部全部。
「いつ!?いつから!?」
咄嗟に出た言葉だった。
「裏口からここまで見ていたわよ…随分と楽しそうだったわね。」
そう言って一枚の写真がぺらりと床に落ちた。
それは、さっきまで性的暴行を受けている真っ最中の写真だった。
私は、慌てて隠した。
「隠したって無駄よ、それ私が撮った写真ですもの、いい写真がいっぱい撮れたわ。」
「あ、悪魔…」
「あなたにどう言われてもいいわ、聡さえ戻ってきてくれるなら、どんな手だって使うもの。」
狂ってる。
本当に狂ってると思った。
「まぁ、聡には、黙っててあげる代わりにこの家から出て行きなさい。」
「!!それだけは!」
「そりゃ今すぐになったら聡も私を疑うもの、半年以内が期限ですからね、その間あなたが聡に告げ口しないなら何もしないけど、したらさっき沢山撮った写真どうなるかわかっているわね。」
「……」
何も言葉がでなかった。
全部仕組まれていて、私をこの家から出す為に前々から計画していたものだなんて、信じ難かった。
受け入れたくなかった。
このまま悦子を殺して自分も死んでやろうと思った。
でもできなかった。
それは、聡との結婚の時に交わした約束だった。
どんな辛いことがあったって、
俺より先に死ぬなと。
殺してやりたい衝動と聡への想いの衝動と混在し、何も動けずにいた。
写真だけは、ビリビリ細かく破り、聡に知られないようにした。
それから夏海は、暫くの間ひきこもりなった。
聡がいくら声をかけても返事すらない。
聡もつい離婚と言葉が過るようになっていた頃だった。
聡がいつものように仕事から家に帰ろうとした時だった。