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「シュシュ」
「何ですか」
「パンツ見えてるぞ」
「死んでください」
「おいっ、親切に教えてやってんのに、なに本気で魔法かけようとしてんだよ!?」
「いやですねぇ、軽い冗談ですよ。とりあえず、顔面踏んでもいいですか?」
「とりあえずのハードルたけぇよ」
「はぁ。……タカオさん」
「なんだよ」
「タカオさんひとりで行ってください」
「ぜってぇやだ」
「強情ですね、わかってましたけど」
「大丈夫だって、その内迎えにきてくれるから」
「タカオさんが先に行って、道具なりなんなり取ってきてくれるか、呼んできてくれるのが一番早いと思いますけど」
「道具なんか、村まで戻らなきゃねーし、だいたい、ここまで戻ってこれるかわかんないだろ」
「心配性ですね」
「だいたい、俺一人でもでれるかわかんねーよ」
精霊の国、と呼ばれる場所がある。実際に精霊が国をつくってるわけではない。精霊には実体がなく、群れをつくっても定住したりはしない。
魔力というのは空気にも含まれている。生物だけではなく自然からも魔力は生まれている。自然発生した魔力が時に精霊となる。
魔力が他に比べて格別に多く発生し、精霊まみれで、もはや人がすめない地域。それが精霊の国と呼ばれている。あたりに魔力が多すぎると、僅かな魔法を使用しようとするだけでそちらにも移ってしまう。ガスが充満した部屋ではマッチをすれば爆発するように、魔法をつかうのは危険だ。ただ威力が強くなるだけではなく、属性に関係なく移るので、回復魔法も爆発したりするので、かなり危険だ。
そんな山の奥、魔力だまりの穴に落ちてしまった。話すと長いので簡単に言うと、幻の薬草を二組に別れて探していたら落ちた。穴ちょー深いし、地面にも魔力がふんだんに染み込んでるのでもろい。
身体能力頼りになるので、一人で駆け上がれば……うーん、やっぱり無理かな。足をくじいたシュシュを背負ってなんて余計に無理だし、ロッククライミング的なのも、体重かけたらくずれるから無理だ。
「タカオさん」
「なんだ? 痛むか?」
「いえ、じっとしている分には全然、痛くはありません」
「そうか。ま、日がくれたら二人も気づくだろうし、日付が変わるまでには助けが来るだろ」
「楽天的ですね。そんな簡単に見つかるか、わかりませんよ」
「足跡あるし大丈夫だろ」
「どれだけ体重重いんですか」
「他に生き物いないし、わかるわかる」
実際のところ、まぁ今日中は厳しいだろう。広いし、二、三日かかる可能性もある。普段は魔法で常にカバーしてるシュシュは、今全くの無防備だ。
寒さにも弱いし、俺がでれたとして暗くなれぼ迎えにこられるのは明日だ。極寒の地ではないが、魔力だまりの気温は予想がつかない。一人で夜を越させられない。なので俺がここを駆け上がる練習をするとしても明日だ。
まぁ、やってもできない可能性もあるけどな。今やってたどり着けたら、すぐ行けって言われるし。
「はぁ…タカオさんはほんとに、あほですねぇ」
「なんだとこら」
「ちょっと、気安く女の子の顔をつねろうとしないでください」
「女の子って年かよ」
「体が清いうちは女の子なんです。それとも、私の『子』とっちゃいます?」
「あのなぁ、冗談でもんなこと言うなよ。お前、顔は美人なのに、そんなだから恋人のひとつもできないんだよ」
「いいんです、ふん。タカオさんのおたんちん。女心がわからないんですから」
「はいはい。どーせわかりませんよ、と」
「ちょっと、タカオさん、二人きりだからって気安く近寄らないでくださいよ。おたんこなすなタカオさんに心許したりしないんですから」
「いいからほら、そのまま地面に座ってたらお尻痛いだろ。よっと」
隣に座り、シュシュをもちあげて片膝にのせる。シュシュは顔をそらして反抗心を表しつつも、素直に俺にもたれてきた。
「今の痛くなかったか?」
「大丈夫です。まぁまぁですよ、仕方ないですし、今日は素直にタカオさん椅子に座っててあげます」
「はいはい、ありがとうございます」
よしよしと頭を撫でてやる。シュシュは雰囲気とかは大人びてるけど、普通に小柄だしたまにこうして撫でてやる。文句は言われないし、一番年下になってる俺はたまには年下扱いとかしたいのだ。
「タカオさん」
「なんだ?」
「戻ったら、あったかいスープつくってあげます」
「えぇ」
「ちょっと、何を不満そうな声だしてるんですか。この私がつくってあげるって言ってるんですよ」
「お前料理つくったことないじゃん。お礼の気持ちはほかのもので表してくれ」
「失礼ですね。弟子時代は身の回りのことくらいしてました。お料理だって、少しはできますよ」
「ふーん。じゃあわかった。楽しみにしてるよ」
「はい」
「あいつら、薬草は見つけたかな」
「見つけて私たちみたいに落ちてても嫌ですし、見つけてないことを祈りましょう」
「そうだなぁ」
薬草は穴の底、つまり今俺たちがいる場所には群生してる。ふちの上の方にも生えてて、それを摘むために落ちた。
「じゃあとりあえず戻ったら薬草渡して、1日休んで翌日出発だな。次どこだっけ?」
「次は南にある村々ですね。小さな集落の集まりです。属する国の王のいる都まで少し距離がありますし、端の村からやっても問題ないでしょう」
「ふーん。どんな感じ? 話いってなくても受け入れそうな風土?」
「そうですねぇ、行ったことはないですけど、長閑で果物が美味しい地域みたいですね」
「ほう、いいな。そういうとこはだいたい皆大らかだろうし、楽勝だな」
「もう、そんなことばかり言って。この間の王様を忘れたんですか?」
「あー、あのカメハメハなとこな。王様と国民は別。ていうか、政治に関わる人間はどこもそんな変わらんし」
「そうでもないでしょう。アフィ国とか、王様もいい方でしたよ」
「あー、まぁ確かに。リリアとかいい子だったけど」
「…王様と言ったのに、どうしてそこでお姫様がでてくるんですか、このロリコン」
「ちげーよ。誰がロリコンだ。ただ印象に残ってただけだ」
「ずいぶん懐かれて、求婚までされてましたもんね」
「おいおい、相手は子供だぞ。滅多なこと言うなよ」
「ふん」
「んだよ、お前だって王様には国に残らないかってスカウトされてただろうが」
「ヤキモチですか?」
「うるせぇよ。にやにやしてんな。魔法使いが貴重な国だっただけだろ」
「…なんですか、馬鹿タカオさんは。ふん、そんなこと言ってたら、ほんとに就職しに行きますからね」
「おい、冗談でもやめろよ。いや、そりゃ選択肢にいれるのはいいけど、うーん…いや、やっぱやめろ」
「何でですか。旅が終わったら、タカオさんのお守りからも解放されるんだから、好きにしたっていいじゃないですか」
「そ、それはそうだけど」
どう言えば適切に伝わるだろうか。今のところ一応、召還した国に戻るつもりだ。そうすると、すごく遠い。日本と違って会話するのも容易じゃない。そういうのはなんか嫌だ。一方的かも知れないが、家族みたいに思っている。シュシュと離れるのは寂しい。
「…寂しいですか?」
だからって、そんなことストレートに言えるか。
「タカオさん、一つだけ私がずっと一緒にいてあげる方法ありますけど、聞きたいですか?」
「…聞くだけ、聞いてやるよ。暇だからな」
「私と結婚してくれたら、いいですよ」
毎日あーんして、毎日膝枕してあげます。とシュシュは振り向いて微笑んで言った。
どきり、と、久しぶりに心臓が高鳴った。
シュシュやリージュは二人とも、タイプは違うが魅力的な容姿をしている。修行中はひたすら夢中だったが、旅をすれば気を抜く瞬間もあり、旅立った直後はときめく瞬間も結構あった。
ただリージュは半裸でケツをかいたりと多々あるおっさんくさい日常の姿をみて女と意識しなくなった。シュシュは初恋ならぬセカンド恋に落ちそうになりかけてたが、一度ハプニングで押し倒した時に『ここも切り落としましょうか?』と言われながらズボン押さえられて死んだ。
そんな感じで二人とはどれだけ一緒でも斉藤一筋を貫いた俺だったが、さすがに、そんなことを言われると他意はないとわかっててもどきっとしてしまった。
「ば、馬鹿なにいってんだよ。その理屈だとリージュとも結婚しなきゃなんねーだろうが。全く」
「それは嫌です。仕方ないですね」
「はいはい。ったく、俺をからかうのもいい加減にしろっての」
「失礼ですね。私はタカオさんで遊んでるだけですよ」
「より悪いわ」
くだらない話をすること六時間。余裕で日付が変わる前に助けにきてくれた二人に助けられた。ほんとに助かったけど、裸眼なのに足跡みて分かったとかリージュはどんな目をしてるんだよ。
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