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「おい、もうギブアップか?」

「うっ、うるせぇ、お前が、化け物なんだよっ」

「はんっ、負け犬の遠吠えは耳に心地いいねぇ」

「くっそ」


 根性で持ち上げるが、途中でとまる。くそ、もう、駄目だ。俺の姿を横目にリージュは悠々と右手をあげる。


「おかわり!」

「まだ食うのかよ!」

「ああ? なんだよ、負け犬」

「くぅぅ」


 なんであんな馬鹿な挑発に乗ってしまったんだ。普段から大食いとはいえ、リージュはしょせん女と侮ったのが原因だが、ちょっと待ってくれ。どこの誰が団子30本もこの細い体に収まると思うよ。しかもこのでかい団子が。

 大食い勝負で負けた方がおごるなんて言って、俺は何をやってるんだ。だいたもう一年以上前だけど一回大敗したのに。あれから強くなって、より多く食べるようになったからって、今度こそなんて考えた俺が馬鹿だった。普段からあれなリージュだが、実際こいつは本気でやれば三食分を一食で食べれるやつなんだった。なんで太らないんだよ。


 最後の団子を飲み込んだリージュは機嫌よく目を細めて、俺の肩を叩く。


「さーて、あたしの勝ちが確定したところで、なにおごってもらおうかなぁ」

「ま、まだ食うのかよ」

「え? 今からが本番だろ?」

「デブかよ」

「あ? お前マジふざけんなよ。あたしのどこが太ってるだと!?」

「だから、本当には太ってないのにデブ並みに食うから驚いてんだろうが」

「全く、異世界人てのはどうしてこうも、食が細いかねぇ」

「自分を基準にするな。シュシュとくらべても十分に大食いだろうが」

「まぁね」

「自慢気にすんなよ」

「自慢なんだからいいだろ」

「自慢なのかよ」

「自慢だけど? さて、そろそろ次の店行くぞ」

「はいはい」


 財布、どのくらい余裕あったかなぁ。俺は心配しつつも、勝負は勝負なので覚悟を決めた。もちろん、二度とリージュと大食い勝負はしないことも決意した。


 リージュはよく食った。それはもう、食った。道行く屋台からはそれぞれ一人前たっぷり食べ、テイクアウトできる店にも立ち寄り立ち寄る。

 そろそろまじで勘弁してください、と言いかけたあたりでリージュはお腹をさすった。


「はー、食った食った。さすがに苦しいレベルだな」

「おごりだと思って食いすぎなんだよ。おっさんかよ」

「誰がだよ」

「お前だよ、こんなに腹膨らまして……うわ、ほんとに一人くらい入ってそうなくらい膨らんでるじゃん」

「触んなよ」

「胸触ってるわけでもないしいいだろ」

「じゃあ胸触れよ」

「なんでだよ」

「そしたら問題なく怒れるだろ?」

「やだよ。宿帰ったら俺の立場なくなるじゃん」

「二人には内緒にしてやるから」

「やだよ。お前胸ないじゃん。今腹のがでてるくらいなのに、谷触って怒られるとか理不尽だ」

「お前、死にたいの?」

「全然?」


 睨んできたリージュだけど、さすがに本気で苦しいらしく、自分でもまた腹をさすりながらげっぷをした。ほんとに技能以外は女らしくないな。これにセクハラしても同じだけひどい目にあうとかないわ。

 普通にしてれば全身程よく筋肉がついていてスレンダーな姐さん美人系とすら言えるのがまた、リージュの残念さを際だたせる。


「あー、これ夕飯はいんないかも。やばいな」

「入ったら本気でびっくりするわ」

「よし、運動しにいくか」

「おい、どこ行くんだよ!?」


 言うが早いか本気で走り出すリージュに慌てて追いかけながら、大声で尋ねる。さすがに足の速さはまだ勝てなくて、追いつくので精一杯だ。


「外だよ! 運動がてら金稼ぎに行くぞ!」









「あー、さすがに疲れた」

「だらしないなぁ。まだ鍛え方が足りないか?」

「冗談だろ。リージュが化け物なんだよ」

「誰がだ。お前なぁ、あたしだって女なんだから、化け物化け物言うなよ……いい加減傷つくっつーの」

「悪かったよ。でもほんと、お前が異常に体力あるだけだろ。ん? お前、腹へっこんでね?」

「だから、気安く触んなよ」

「いやいや! え、二時間くらいでへっこみすぎじゃない!? 野糞したのか!?」

「するかボケ!」

「さすがにないよなぁ。でもえー、完全にぺったんことかおかしくない?」

「おかしくない。あんだけ動いたんだから妥当だろ」

「って言ってもなぁ」


 旅立つ時に結構な額をもらってはいるが、当然いつまでもそれでまかなえるはずがなく、大半は自分たちで稼がなければいけない。

 例えば奥地にだけ咲く貴重な薬草花や、魔物の肉も新鮮なものは売れる。毛皮や角ももちろん売れる。旅の途中では全てが全て持ち運べないから、自然と価値のあるもの、持ち運びやすいもの以外はスルーになる。

 今回は街から山2つ向こうのドラゴンの住処に来ている。ドラゴンは売れる部位は多いが、ここのコドラドラゴンは自分の体液のみで巣をつくる特殊なドラゴンで、その巣は珍味として扱われてる。

 もちろんやろうと思えば全滅させられるが、自分たちからつっこんでいって襲われたから殺すとかない。

 ドラゴンは大怪我とかもしない程度に手加減して、気絶させた。数も当然だが多いので、非常に疲れた。だがまぁ、なんとかなった。両手で抱えられるだけ持って帰れば、しばらくは余裕だ。


「さー、今日はご馳走だな」

「本気かよ」

「お前だって、夕飯食べるだろ?」

「そりゃまぁ、動いたし、そろそろ小腹減ってきたけど」

「巣、ちょっとつまみ食いするか?」

「え、生で食べれんの?」

「わかんないけど、いけんじゃね?」

「……」

「ほら、食べてみろよ」

「お前から食えよ」

「は? もしあたしが食べて、まずかったらどうすんだよ」

「どうもしないし。言い出しっぺだろ」

「しょーがねーな」


 ぶつぶつ言いながらリージュは巣を一口千切って食べた。うへぇ。不味いとか以前に、生で食べて腹こわしたらどうするんだよ。涎とか汗とか尿とかの塊だろ。なんか固まって小枝みたいになってるけど。


「……ど、どうだ?」


 ぽりぽりと音を立てながら平然と噛み、飲み込んだリージュはんべっと舌をだして顔をしかめる。


「不味い。うぇ、っぺ、ぺぺっ、うえ、なんか後からなんだこの、渋い? 苦、うう、口気持ち悪い」

「馬鹿。だから言わんこっちゃない」

「嘘付け。タカオは不味いとかやめろとか言ってねぇだろ。あたしに毒味させやがって。お前も食え!」

「や、やめろよ。押しつけんな。あ、そうだ。お菓子持ってる。これで口直ししろ」

「助かる!」


 思い出してポケットにいれっぱなしだった飴を一つ渡すと、リージュは手にしてた巣のかけらを放り出して飴を舐めた。お前が今投げ出したの、金貨と同じくらいの価値なんだけど。扱い雑すぎだろ。

 呆れつつも、まぁここには山盛り、あっちもこっちも巣なわけで、仕方ないかと俺も飴を口に放り込む。最後の一つだ。

 素朴でうまい。


「うまい。はー、口が生き返った。もひとつくれ」


 ガリガリ噛んで飲み込んだリージュはご機嫌になって俺に手をだしてくる。飴玉一つでご機嫌とか、こいつ幼児並に安い女だな。


「もうない」

「あ?」

「睨んでもないもんはない」

「お前の口の中にあるのは?」

「飴」

「よこせ」

「いやだ」

「いいからよこせこら!」


 無理やり口の中に手をつっこんでとられた。一回り小さくなった飴を普通に口にするリージュ。どれだけ意地汚いんだよ。あれ、でもいつもより酷いな。よっぽど、生がまずかったのか。


「お前さ、俺だからいいけど、そんなことばっかしてたら嫁のもらい手なくなるぞ」

「うるさい馬鹿。あたしを嫁にできるのは世界帝王くらいだからいいんだよ」

「子供か」

「黙れ。じゃあもうお前でいいから、もらってやるよ」

「なんで俺が嫁になるんだよ」

「お前ってわりと女顔じゃん?」

「この世界の男がムキムキすぎるだけだ」


 別に特別貧弱とかじゃなかったのに、この国じゃチビだのか弱いだの女顔だのとたまに言われる。普通なのに。それだけがこの世界で不満だ、マジで。












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