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「あれ、斉藤は?」

「ん? ああ、先に風呂あがってったよ。部屋じゃねぇ?」

「そうか」


 部屋にはいなかった。どこに行ったのか。女将にきくと、しばらく前に宿を出て行ったという。もちろん滅多なことはないだろうが、それでも心配だ。二人を動員するほどでもないので、散歩と言って宿屋をでた。


 夜。この世界はどこも空が綺麗だ。地球の星座に詳しくない俺には、月が大きいこと以外に違いはわからないから、どことなく懐かしいような気になる。こんなに沢山の星は、地球では見たことがないはずだけど、不思議だ。

 そんなわけで夜は結構好き。静かで、遠くで虫や動物の声が聞こえる程度。

 星空を眺めながらぶらぶらと、斉藤の気配を探しながら歩く。魔力がほぼ消えている斉藤だけど、注意していれば、なんとなくいるかも、程度にはわかる。


「おーい、斉藤」

「高雄君…」


 街の外れの、対魔物の見張り台に斉藤はいた。精々三階ほどの高さで、月明かりも強いので、下からでも斉藤の表情は伺えた。どことなく悲しそうで、たまらず俺は飛び上がって一息で斉藤の隣に行った。


「…階段使いなよ。人が見たらびっくりしちゃうよ」

「いいだろ、たまには」


ちょっと笑った斉藤にほっとしながらも、隣にたって同じように外を見る。小さな街から外、外の向こうには森があって、山があって、その向こうは見えない。


「ねぇ、高雄君」

「どうした?」

「この旅が終わったら、どうする?」

「終わったら、ねぇ。どうするか。うーん……斉藤はどうしたい?」

「私に聞くかな」

「そりゃ、聞くだろ」


 斉藤を見る。斉藤もまた俺を見ていた。どことなく憂いを帯びた瞳。綺麗だと思った。特別な美人ではないけど、それでもこうして見ていると、ほんとに綺麗だ。斉藤のことが好きで、好きでたまらなくて、斉藤がいるからこの世界もより美しく見える。


「この旅が終わったら、どっかに家でも建てて、暮らすか?」

「それ、一緒にってこと?」

「もちろん。俺はさ、ずっとお前と一緒にいたいよ。死ぬまでずっと、一緒がいい」

「高雄君……ほんとに、私が一緒にいて、いいの?」

「お前がいなきゃ、駄目なんだよ。わかれよ」

「……じゃあ、わからせてくれる?」


 俺は斉藤とキスをした。これが生まれて初めてのキスだった。誰がなんと言おうと、ファーストキスだ。


「……」

「……ねぇ、高雄君」

「うん」

「…大好き」

「俺も、好きだ」


 見つめ合うのが照れくさくなって、そっとまた前を向く。綺麗な夜空だ。

 空の星は、さっきより強く光ってるようにさえ感じられた。斉藤といれば、こんなにも世界は美しい。これ以上にすごいことなんて、世界にない。


 俺はそっと斉藤の手を握った。斉藤は何も言わずに俺の手を握り返してくる。黙って、じっと、空を見ていた。


 今は別に誰に邪魔されたわけじゃない。十分に時間はある。それでも結局、最低限しか口からでない。

 恋人になってとか、結婚したいとか、そんなことは言えなかった。好きだと伝えるだけで、キスをして手を繋ぐだけで、俺の心臓は痛いくらいうるさくて、耳まで赤いのがわかってしまって、それ以上言えなかった。

 でも、今はこれでも十分だ。斉藤に好きだと伝えること、それはずっと待ち望んでいたこと。

 二人の時間には流れに差ができたから、実際にどれだけ待ったか数えることに意味はない。それでも、斉藤に会えない時間はたった一時間が一年にだってなってしまう、そんな俺だから、本当にこの瞬間は何度も夢に見た瞬間なんだ。

 

 この時を、俺は死ぬまで忘れないだろう。


「おーい、二人でなにやってんだ!?」

「逢い引きですかー?」


 世界に俺と斉藤しかいないみたいに錯覚しそうになる頃、二人がやってきて、下から声をかけてくる。俺は斉藤の手を離して、声を返す。

 

「バーカ!」


 ったく、風情のないやつらだ。


「斉藤、行こうぜ」

「うん」


 斉藤は少しだけ赤い顔で微笑んだ。それだけで、また心臓が早くなる。誤魔化すように、俺は階段を足早に降りた。









「タカオさん」

「ん? どうした?」

「いえ、暇だなぁと思いまして」

「そうか。珍しいな」

「はい。ですので何だか落ち着きません。何とかしてください」

「何とかって言われてもなぁ」


 リージュと斉藤は出かけている。今日はこの宿で泊まって、明日の昼からのんびり出発だが、そんな時でもいつもならシュシュは何かしらやっている。なにもないのは珍しい。

 俺は剣を手入れする手をとめ、部屋の入り口にたつシュシュを手招きし、とりあえず隣に座らせる。


「大胆ですね」

「ん? なにがだよ」

「こんな昼間から、女性をベッドに座らせるなんて…」

「阿呆か。ほら、暇なら手入れしてくれ」

「もう。こんな野蛮なことは殿方の仕事ですよ」

「色んな意味でリージュに怒られるぞ」


 拗ねつつも渡すと素直に手を動かすシュシュ。俺はゆっくりと体を後ろに倒して、ベッドに上体を下ろす。


「ふわぁ」

「あら、おねむですか?」

「ガキじゃねーんだから、そういう言い方やめろよ」

「タカオさんは子供じゃないですか」

「あー? もうすぐ成人だし、お前も年齢変わらないだろ」

「いえ、私の方が5つ上ですよ。リージュさんより2つ上ですね」

「え…ま、マジで?」


 リージュが俺の3つ上なのは知ってるけど、え、お前の方が年上なの? えー、まぁ、言われると落ち着いてるし、大人っぽい、か? いやでも…。


「お前童顔だな」

「失礼ですねぇ。私の胸囲を見てからいってください」

「顔と胸囲関係ないし」

「大人でしょう?」

「はいはい。大人大人」

「もう、なんですか、その態度。ほんとに私の方が大人なのに、まるで背伸びする子供をあやすみたいな言い方じゃないですか」

「そんなことねーよ。実際、敬ってるって。リージュもだけど、お前らいなきゃ今頃死んでるし、マジで、感謝してるよ」

「寝転がりながら言われても」

「いいだろ、別に」

「いいですけどね。よし、終わり、と」

「ありがと。置いといて。あと膝枕してよ」

「はいはい。全く、どっちが子供なんでしょうねー」

「ここの枕固くて、昨日あんま寝れなかったんだよ。シュシュは大人なんだろ? ならいいじゃん」

「仕方ないですねぇ」


 膝枕をしてもらう。旅の途中、野宿をするときなんかはお互いに寄りかかったり、順番に枕になったりは日常的だったので、最初はともかく今は特に抵抗はない。まだ斉藤にされるとちょっとドキドキするけどな。


「ん…あー、やっぱ、お前いいなぁ。いい匂いがする」


 その点、シュシュはリージュより柔らかくて落ち着くし、野宿中でもいい匂いだし、ぐっすり寝られる。膝枕として一番好きだ。


「サービスで子守歌でも歌いましょうか?」

「いらねー、静かにしててくれ」

「わかりました。お休みなさい」

「ああ」


 小一時間ほど眠るつもりで、夕方まで寝てしまった。不覚だ。ちょっとくらいぶらぶら散歩する予定だったのに。












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