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「おいタカオ、いい加減にしろよ」

「ん? 何が?」

「もうこの街からは、海を渡れば魔大陸です。これはもう説明しましたよね?」

「うん」

「旅にでて、あたしらのスピードなら真っ直ぐで3ヶ月のとこを半年かけたな」

「ああ」

「異世界人のタカオさんにはあれもこれも物珍しいでしょうから、できるだけ希望された村々も回りましたね」

「そうだな。我が儘聞いてもらって助かってるよ」

「でももうな、ここまで着たらいいだろ」

「観光は、全部終わってからまたゆっくりまわりましょう? ここまで着たんですから」

「魔王城まで一直線に行くぞ」


 観光ではなくて、斉藤を探す旅だったんだが。しかし、確かに魔王を倒してからでもいいかも知れない。今この瞬間、どこかにいる斉藤が魔物に襲われる可能性を減らせるかも知れないし、倒してからゆっくり探してもいいか。


 この世界に来て一年。最初は焦っていたけど、旅をしてからは変わった。こんなにも世界は広い。たった独りを見つけるなんてそう簡単ではない。焦らず地道にするしかない。長期戦前提だ。だから先に憂いの元である魔王を倒すのはむしろ理にかなってるかも知れない。


 旅をして色々なことがあった。魔物に襲われてる最中の村に助太刀したこともあった。街ごと魔物に占拠された国を救ったこともあった。人里近くに巣をつくり腹がへっては街にくるドラゴンを倒したこともあった。

 まだ1対1で剣技と魔法だけを比べたら劣る部分もあるけど、普通に剣あり魔法ありなら二人と戦っても勝てるほどになった。そろそろ魔王を倒す実力もついたはずだ。実感するし、二人にも認められた。


 俺は唯一魔大陸への船がでる港町、レーベルから出航したあとは寄り道をやめ、一直線へ魔王城へと向かった。









 魔大陸は魔物の巣窟だった。あちらこちらに、向こうでは見たこともない強い魔物が沢山いた。命懸けの連続で、どんなに先をいそぎ、魔物から逃げても1ヶ月かかった。

 辿り着いた魔王城は、古臭い。つくり自体は人間のものとそう変わらないが、どことなく汚い。魔王は掃除しないのだろうか。


 大きな広間の奥に、これまた大きな

扉がある。きっとあの扉の奥に魔王がいるんだろう。強大な魔力の波動を感じる。城の場所詳しくわからなかったが、途中からこの波動を頼りに真っ直ぐ着たのだ。

 城の中には魔物が全くいなかった。どんな魔王だろうか。こちらの存在にも気づいているはずだ。扉を開けた瞬間に攻撃される可能性もある。どうするか。


「止まりなさい」

「!?」


 扉の前まで辿り着いたところで、背後から声をかけられ慌てて振り向いて剣を構え直す。オールバックのまるで人間の男にしか見えないが、頭からは羊のような大きな二本の角が生えていた。

 人型の魔物? 魔王か? 魔力はたしかに感じる。扉の向こうのものよりむしろ禍々しい。しかし、扉の波動はとにかく純粋に魔力が強く激しく、向こうが魔王だと思える。


「何者だ!?」

「不法侵入しておきながら、よく偉そうにできますね」

「俺は勇者のタカオだ。お前は誰だ?」

「私は魔王様の下僕です」

「わかった。とりあえずお前のことぶっとばせばいいのか?」

「違います。というか、私はあなた方の隙をついて攻撃できたのを、あえて声をかけた意味を考えてほしいのですが」


 は? うーーん? 意味? ていうか、普通に言葉通じるのかよ。魔物と違いすぎる。今までは動物って感じだったのに。魔物の進化形?


「えー、降伏? 和平交渉? それか逆に降伏勧告?」

「というか、説明、ですね」

「説明?」

「おいタカオ。なに悠長に会話してんだよ。さっさとぶっ殺せばいいだろ。話してる間に変な魔法かけられたらどうすんだよ!」

「落ち着いてください、リージュさん。魔法なら私が防げます」

「後ろから魔王が攻撃してきたらどうすんだよ!?」

「あなたが防ぎなさい」

「命令すんな!」

「うるせーよ。とりあえず大丈夫そうだし、話聞くだけ聞くぞ」

「…わーったよ」


 少なくとも魔物と違って知性とか理性があるみたいだし、話し合いができるならするにこしたことはない。魔王が魔物をけしかけてくる理由とかしりたいし。

 

「いやはや、会話ができる知能があるようで何よりです」

「はいはい。言っとくけど変な真似したらすぐ殺すからな」

「私もそうですから、お気遣いなく」

「で、なんの説明だって?」

「あなたがた人間は、魔王様が魔物を人間にけしかけてると思われてるようですが、それは誤解です」

「誤解?」

「はい。魔王様の存在により魔物たちが活発になるのは確かですが、お優しい魔王様は人間の虐殺など命じられたりしません。というかそもそも、魔物に言葉は通じません」

「…は、マジで?」

「人間は獣と言葉が通じますか?」

「通じねーけど」

「そういうことです」


 え、えー? 別に魔王悪いやつじゃないっていうか、魔物に命令とかしようとしてもできないし、関係ないってこと?


「……え、じゃあ俺、なんのためにここにきたの?」

「無駄足を踏みに、かと」


 えーー……うーん。どうしよ。なーんか、あんま嘘言ってる感じじゃないんだよな。だからって、はいそうですかと帰れるかっつーと、そう言うわけにもいかない。少なくとも魔王の存在で魔物が強くなってるなら、可哀想だけど魔王に罪がなくても殺すか魔法的など拘束するかしないといけない。


「おいタカオ、お前なにマジな顔してんだよ。魔王が悪い奴じゃないわけねーだろ! あたしらが強いから逃げたくて言ってるだけだ!」

「そうですね。リージュさんの言い方はともかく、魔王を放っておくわけにはいきません。その邪魔をすると言うなら、まず彼から倒しましょう」

「お前らちょっと黙れ」


 とりあえず目の前の壁を壊してから考えるのやめてね。いつもそれで俺苦労してるから。シュシュも冷静なふりしてるけどお前、魔王どうするか考えずに下僕殺しても、魔王も殺すコースしかないからな。


「とりあえず、魔王と話をしたいんだけど、いいか?」

「私としましては、繊細でお優しい魔王様とあなたがたのような下品で下等な人間を会わせたくはありません」

「そうつれないこと言うなよ。ぶっ殺すぞ」

「ですが、魔王様は勇者、あなたの入室を望んでおられます」

「お、俺のこと知ってんの?」

「魔王様はこちらにこられてからずっと、あなたを待っていました。勇者と和解して、人間ごとき虫けらと友好を築きたいと妄言、失礼。妄想をよく口にしておられました」

「訂正した意味あんの?」

「勇者など夢物語だと言ったのですが、まさか本当に勇者があらわれ、ましてここに来るとは思いませんでした。私など想像もつかぬほど、魔王様は素晴らしい。その素晴らしい魔王様が仰っております。ですから私も糞のようにうざったい人間であるあなたと会話をしています。人間を生き物として認めましょう」


 生物とすら見てなかったのかよ。どんだけだよ。ていうかお前はなんなんだよ。

 言いたいことは色々あったが、なんか疲れたし、とにかく魔王と会話ができるみたいだし、素直に信じるなら友好が目的のようだ。

 俺は促されるまま剣をおさめ、男に背を向けて扉を開けた。


 そこには魔王が、いた。













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